ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第2章

第31話 「ヒーロー基礎」

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 翌日。
 レイとカナタは、エアコンの件でドルムに謝罪しに向かった。
 軽く叱られただけで済んだので、レイは肩を撫で下ろした。

「おっは~、星野っち!」
「あ、おはよう、天音さん」

 学園へ向かう道中で、後ろからユズが手を振りながら近づいてきた。
 レイは足を止めて、ユズに手を振り返した。

「その、昨日はごめんね?
 まさかあそこまでテストのこと気にしてるとは思わなくて。
 アタシ、無神経すぎた」
「気にしないで。むしろ、自分でも引きずりすぎだったと思ってるし」

 ユズは深々と頭を下げた。
 レイは両手を左右に振って顔を上げるように言った。

「お詫びって言っちゃなんだけどさ、今日のお昼奢らせてよ。
 今日からフルで授業あるから、食堂に行けるようになるし」
「ええ、悪いよ! そんなに重く受け止めなくても……」
「いや、奢らせて。一瞬でも傷ついたのは事実っしょ。
 大丈夫、お金の心配はないからさ! お願い!」

 なぜか、ユズの方がお願いをする形となってしまった。
 レイは少し悩んだ末に、「じゃあ、ごちそうになります」と折れた。


 ***


 あくびをしている生徒に、ぼーっと前を見ている生徒。
 時刻は午前九時。
 一限目、彼らが受ける最初の授業が始まる。

「……っこらせぃ」

 廊下から、杖をつく音とともに、老人の声が聞こえる。
 A組生徒たちは、廊下側の窓から微かに見える人影を見つめている。

 そして入室してきたのは、

「すまんすまん、待たせたな」

 背の低い、ただの老人のような教師だった。
 生徒たちはその老いぼれた教師を見て、ざわつき始めた。

「ただの爺さんじゃね?」
「私のおじいちゃんに似てる」

 そんな声をよそに、レイは目を見開いた。
 そして――、

「――師匠!」

 机を強く叩き、勢いよく立ち上がった。
 ざわめきは一瞬で止み、レイに視線が集まる。
 隣に座っているセツナも、口を開けて呆然としている。

 老人もレイを見て、わずかに眉をピクリと動かした。
 しかし、

「誰じゃお前は」
「え……?」

 老人は首をかしげて、レイの叫びを軽く受け流した。
 教室内が、乾いた笑いで満たされる。

「ワシは、灰原恒一じゃ。今年度から黎明の教師を任された」

(師匠、もしかして、もう僕のこと忘れて……。
 歳ってつらいな)

「灰原?」
「聞いたことあるか?」
「静かにせんか」

 再びざわめき始めた生徒たちに、恒一は黒板を杖で叩いた。
 ビクッと体を震わせた生徒たちは、背筋を伸ばして恒一の方を向いた。

「ワシが担当するのは、『ヒーロー基礎』。ヒーローになるために必要な知識を叩き込むのはもしろんのこと、実際に実戦形式で訓練をおこなったりする教科じゃ。
 ってことで」

 そう言って恒一は、手元にあるボタンを押した。
 すると、天井から各席に何かが下りてきた。

(袋?)

 レイはそれを手に取り、袋の中をまさぐる。
 その中には、

「それは、『基礎スーツ』じゃ。サイズの違いはあれど、みな同じデザインのスーツ。
 まあ、第二の体操服だと思ってくれればそれでいい」
「これって、もしかしてヒーロースーツってやつですか?」
「その通り。社会で活躍しているヒーローは、それぞれ自分に合ったスーツを着ているじゃろう。それの基盤となるスーツがそれじゃ」

 レイたちが受け取ったものは、全て同じ形状をしている。
 胸元、というか前側全体に、それぞれの出席番号が書いてある。

「ダセェな!」
「安心するといい。そのスーツはあくまでも基盤。
 そこから、お前たちは自分に合うように改造をしてもらう。
 当然、改造は自分たちではできんじゃろうから、技術科との協力が必要じゃが」

 レイは恒一の説明を聞きつつ、スーツを広げる。
 将来自分が専用スーツを着ている姿が、まったく想像できない。

「じゃ、更衣室ですぐにそれに着替えろ。
 十分後に、模擬市街地エリアAで待っとる」
「先生! オリエンテーションはないのでしょうか!」
「んなもんいらん」

 初回の授業では、大抵その授業で何をするかの説明、いわばオリエンテーションなるものが存在する。
 だが、恒一はそれを堂々と破棄した。

「――実践、あるのみじゃ」

 恒一の鋭い眼差しに、生徒たちは圧倒された。



 十分後。
 レイたちはスーツに着替え、言われた通りに模擬市街地エリアAに集合した。
 「お、時間通りじゃな」と恒一は感心すると、これから行われることについて説明を始めた。

「これからお前たちには、戦闘訓練をしてもらう」
「戦闘訓練?」
「ただ戦うだけですの?」
「当初は、ただ一対一で戦ってもらって個々の戦闘能力を測るつもりだったんじゃが、それだと面白みに欠けると思ってな。
 少し、ルールを設けることにした」

 恒一はスマホを取り出し、ホログラムを投影した。
 そこには、このエリアの地図と思われるものが映っている。

「今ワシらがおるのはこの右端じゃ。
 そんで、真ん中に赤い点があるのが見えるか?」
「……見えません」
「え、メガネかけとるじゃろうお前」
「伊達メガネなので……」
「なんじゃそれは!」

 黒縁のメガネをかけている陰気な生徒。
 外からでは、その素顔がまったく見えないようになっている。

(確か、視堂アキラくんだったよな。権能は忘れたけど)

「で、ルールなんじゃが……。
 まあ、至ってシンプルだ。真ん中にある赤い点、あれを『コア』と呼ぶ。
 一対一で戦って、先にあれに触れた方の勝ちじゃ」

 手に持っている杖でホログラム上を指しながら、恒一はそう説明した。

「コアは空に向かって赤い光線を伸ばしておるから、場所はわかりやすいはずじゃ。
 戦う者たちをエリア内のランダムな場所に転送して、ワシのアナウンスで開始する」

 レイはそう言われ、街なかを見渡してみる。
 すると確かに、赤い光線が空に向かって一直線に伸びているのが見えた。

「じゃ、早速始めるぞ。対戦相手はくじ引きで決めてもらう。
 AからIまでのボールが二つずつ入ってて、アルファベットが被った相手が対戦相手じゃ。
 引く順番は出席番号順な」

(この学校、くじ引き好きだな……)

 体力テストの際も、順番は毎回くじ引きだった。
 レイはそれを思い出し、苦笑いを浮かべた。

 生徒たちは次々にくじを引いていき、やがてレイの番が来た。

 レイは目を閉じ、恒一の持つくじ箱の中に手を伸ばした。
 中を手で混ぜることもなく、中に入っているボールを手を入れてスッと引いた。

 書いてあるアルファベットは、「A」。
 レイは列に戻り、自分の後に続く生徒のくじ引きの様子を見つめる。

「オラァ!」
「気合入っとるな」
「うっせェジジイ!」
「な、なんじゃこいつは」

 くじを引くだけとは思えない気迫で、ミナトはくじを引いた。
 ミナトはボールを裏返し、そのアルファベットを見る。
 そして、ニンマリと不敵な笑みを浮かべた。

「――Aだァ」
「――っ!」

 ミナトははっきりと、レイの目を見た。
 レイのボールを持つ手が、震えだした。

 ――考えうる最悪の組み合わせが、実現してしまった。
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