31 / 33
第2章
第31話 「ヒーロー基礎」
しおりを挟む
翌日。
レイとカナタは、エアコンの件でドルムに謝罪しに向かった。
軽く叱られただけで済んだので、レイは肩を撫で下ろした。
「おっは~、星野っち!」
「あ、おはよう、天音さん」
学園へ向かう道中で、後ろからユズが手を振りながら近づいてきた。
レイは足を止めて、ユズに手を振り返した。
「その、昨日はごめんね?
まさかあそこまでテストのこと気にしてるとは思わなくて。
アタシ、無神経すぎた」
「気にしないで。むしろ、自分でも引きずりすぎだったと思ってるし」
ユズは深々と頭を下げた。
レイは両手を左右に振って顔を上げるように言った。
「お詫びって言っちゃなんだけどさ、今日のお昼奢らせてよ。
今日からフルで授業あるから、食堂に行けるようになるし」
「ええ、悪いよ! そんなに重く受け止めなくても……」
「いや、奢らせて。一瞬でも傷ついたのは事実っしょ。
大丈夫、お金の心配はないからさ! お願い!」
なぜか、ユズの方がお願いをする形となってしまった。
レイは少し悩んだ末に、「じゃあ、ごちそうになります」と折れた。
***
あくびをしている生徒に、ぼーっと前を見ている生徒。
時刻は午前九時。
一限目、彼らが受ける最初の授業が始まる。
「……っこらせぃ」
廊下から、杖をつく音とともに、老人の声が聞こえる。
A組生徒たちは、廊下側の窓から微かに見える人影を見つめている。
そして入室してきたのは、
「すまんすまん、待たせたな」
背の低い、ただの老人のような教師だった。
生徒たちはその老いぼれた教師を見て、ざわつき始めた。
「ただの爺さんじゃね?」
「私のおじいちゃんに似てる」
そんな声をよそに、レイは目を見開いた。
そして――、
「――師匠!」
机を強く叩き、勢いよく立ち上がった。
ざわめきは一瞬で止み、レイに視線が集まる。
隣に座っているセツナも、口を開けて呆然としている。
老人もレイを見て、わずかに眉をピクリと動かした。
しかし、
「誰じゃお前は」
「え……?」
老人は首をかしげて、レイの叫びを軽く受け流した。
教室内が、乾いた笑いで満たされる。
「ワシは、灰原恒一じゃ。今年度から黎明の教師を任された」
(師匠、もしかして、もう僕のこと忘れて……。
歳ってつらいな)
「灰原?」
「聞いたことあるか?」
「静かにせんか」
再びざわめき始めた生徒たちに、恒一は黒板を杖で叩いた。
ビクッと体を震わせた生徒たちは、背筋を伸ばして恒一の方を向いた。
「ワシが担当するのは、『ヒーロー基礎』。ヒーローになるために必要な知識を叩き込むのはもしろんのこと、実際に実戦形式で訓練をおこなったりする教科じゃ。
ってことで」
そう言って恒一は、手元にあるボタンを押した。
すると、天井から各席に何かが下りてきた。
(袋?)
レイはそれを手に取り、袋の中をまさぐる。
その中には、
「それは、『基礎スーツ』じゃ。サイズの違いはあれど、みな同じデザインのスーツ。
まあ、第二の体操服だと思ってくれればそれでいい」
「これって、もしかしてヒーロースーツってやつですか?」
「その通り。社会で活躍しているヒーローは、それぞれ自分に合ったスーツを着ているじゃろう。それの基盤となるスーツがそれじゃ」
レイたちが受け取ったものは、全て同じ形状をしている。
胸元、というか前側全体に、それぞれの出席番号が書いてある。
「ダセェな!」
「安心するといい。そのスーツはあくまでも基盤。
そこから、お前たちは自分に合うように改造をしてもらう。
当然、改造は自分たちではできんじゃろうから、技術科との協力が必要じゃが」
レイは恒一の説明を聞きつつ、スーツを広げる。
将来自分が専用スーツを着ている姿が、まったく想像できない。
「じゃ、更衣室ですぐにそれに着替えろ。
十分後に、模擬市街地エリアAで待っとる」
「先生! オリエンテーションはないのでしょうか!」
「んなもんいらん」
初回の授業では、大抵その授業で何をするかの説明、いわばオリエンテーションなるものが存在する。
だが、恒一はそれを堂々と破棄した。
「――実践、あるのみじゃ」
恒一の鋭い眼差しに、生徒たちは圧倒された。
十分後。
レイたちはスーツに着替え、言われた通りに模擬市街地エリアAに集合した。
「お、時間通りじゃな」と恒一は感心すると、これから行われることについて説明を始めた。
「これからお前たちには、戦闘訓練をしてもらう」
「戦闘訓練?」
「ただ戦うだけですの?」
「当初は、ただ一対一で戦ってもらって個々の戦闘能力を測るつもりだったんじゃが、それだと面白みに欠けると思ってな。
少し、ルールを設けることにした」
恒一はスマホを取り出し、ホログラムを投影した。
そこには、このエリアの地図と思われるものが映っている。
「今ワシらがおるのはこの右端じゃ。
そんで、真ん中に赤い点があるのが見えるか?」
「……見えません」
「え、メガネかけとるじゃろうお前」
「伊達メガネなので……」
「なんじゃそれは!」
黒縁のメガネをかけている陰気な生徒。
外からでは、その素顔がまったく見えないようになっている。
(確か、視堂アキラくんだったよな。権能は忘れたけど)
「で、ルールなんじゃが……。
まあ、至ってシンプルだ。真ん中にある赤い点、あれを『コア』と呼ぶ。
一対一で戦って、先にあれに触れた方の勝ちじゃ」
手に持っている杖でホログラム上を指しながら、恒一はそう説明した。
「コアは空に向かって赤い光線を伸ばしておるから、場所はわかりやすいはずじゃ。
戦う者たちをエリア内のランダムな場所に転送して、ワシのアナウンスで開始する」
レイはそう言われ、街なかを見渡してみる。
すると確かに、赤い光線が空に向かって一直線に伸びているのが見えた。
「じゃ、早速始めるぞ。対戦相手はくじ引きで決めてもらう。
AからIまでのボールが二つずつ入ってて、アルファベットが被った相手が対戦相手じゃ。
引く順番は出席番号順な」
(この学校、くじ引き好きだな……)
体力テストの際も、順番は毎回くじ引きだった。
レイはそれを思い出し、苦笑いを浮かべた。
生徒たちは次々にくじを引いていき、やがてレイの番が来た。
レイは目を閉じ、恒一の持つくじ箱の中に手を伸ばした。
中を手で混ぜることもなく、中に入っているボールを手を入れてスッと引いた。
書いてあるアルファベットは、「A」。
レイは列に戻り、自分の後に続く生徒のくじ引きの様子を見つめる。
「オラァ!」
「気合入っとるな」
「うっせェジジイ!」
「な、なんじゃこいつは」
くじを引くだけとは思えない気迫で、ミナトはくじを引いた。
ミナトはボールを裏返し、そのアルファベットを見る。
そして、ニンマリと不敵な笑みを浮かべた。
「――Aだァ」
「――っ!」
ミナトははっきりと、レイの目を見た。
レイのボールを持つ手が、震えだした。
――考えうる最悪の組み合わせが、実現してしまった。
レイとカナタは、エアコンの件でドルムに謝罪しに向かった。
軽く叱られただけで済んだので、レイは肩を撫で下ろした。
「おっは~、星野っち!」
「あ、おはよう、天音さん」
学園へ向かう道中で、後ろからユズが手を振りながら近づいてきた。
レイは足を止めて、ユズに手を振り返した。
「その、昨日はごめんね?
まさかあそこまでテストのこと気にしてるとは思わなくて。
アタシ、無神経すぎた」
「気にしないで。むしろ、自分でも引きずりすぎだったと思ってるし」
ユズは深々と頭を下げた。
レイは両手を左右に振って顔を上げるように言った。
「お詫びって言っちゃなんだけどさ、今日のお昼奢らせてよ。
今日からフルで授業あるから、食堂に行けるようになるし」
「ええ、悪いよ! そんなに重く受け止めなくても……」
「いや、奢らせて。一瞬でも傷ついたのは事実っしょ。
大丈夫、お金の心配はないからさ! お願い!」
なぜか、ユズの方がお願いをする形となってしまった。
レイは少し悩んだ末に、「じゃあ、ごちそうになります」と折れた。
***
あくびをしている生徒に、ぼーっと前を見ている生徒。
時刻は午前九時。
一限目、彼らが受ける最初の授業が始まる。
「……っこらせぃ」
廊下から、杖をつく音とともに、老人の声が聞こえる。
A組生徒たちは、廊下側の窓から微かに見える人影を見つめている。
そして入室してきたのは、
「すまんすまん、待たせたな」
背の低い、ただの老人のような教師だった。
生徒たちはその老いぼれた教師を見て、ざわつき始めた。
「ただの爺さんじゃね?」
「私のおじいちゃんに似てる」
そんな声をよそに、レイは目を見開いた。
そして――、
「――師匠!」
机を強く叩き、勢いよく立ち上がった。
ざわめきは一瞬で止み、レイに視線が集まる。
隣に座っているセツナも、口を開けて呆然としている。
老人もレイを見て、わずかに眉をピクリと動かした。
しかし、
「誰じゃお前は」
「え……?」
老人は首をかしげて、レイの叫びを軽く受け流した。
教室内が、乾いた笑いで満たされる。
「ワシは、灰原恒一じゃ。今年度から黎明の教師を任された」
(師匠、もしかして、もう僕のこと忘れて……。
歳ってつらいな)
「灰原?」
「聞いたことあるか?」
「静かにせんか」
再びざわめき始めた生徒たちに、恒一は黒板を杖で叩いた。
ビクッと体を震わせた生徒たちは、背筋を伸ばして恒一の方を向いた。
「ワシが担当するのは、『ヒーロー基礎』。ヒーローになるために必要な知識を叩き込むのはもしろんのこと、実際に実戦形式で訓練をおこなったりする教科じゃ。
ってことで」
そう言って恒一は、手元にあるボタンを押した。
すると、天井から各席に何かが下りてきた。
(袋?)
レイはそれを手に取り、袋の中をまさぐる。
その中には、
「それは、『基礎スーツ』じゃ。サイズの違いはあれど、みな同じデザインのスーツ。
まあ、第二の体操服だと思ってくれればそれでいい」
「これって、もしかしてヒーロースーツってやつですか?」
「その通り。社会で活躍しているヒーローは、それぞれ自分に合ったスーツを着ているじゃろう。それの基盤となるスーツがそれじゃ」
レイたちが受け取ったものは、全て同じ形状をしている。
胸元、というか前側全体に、それぞれの出席番号が書いてある。
「ダセェな!」
「安心するといい。そのスーツはあくまでも基盤。
そこから、お前たちは自分に合うように改造をしてもらう。
当然、改造は自分たちではできんじゃろうから、技術科との協力が必要じゃが」
レイは恒一の説明を聞きつつ、スーツを広げる。
将来自分が専用スーツを着ている姿が、まったく想像できない。
「じゃ、更衣室ですぐにそれに着替えろ。
十分後に、模擬市街地エリアAで待っとる」
「先生! オリエンテーションはないのでしょうか!」
「んなもんいらん」
初回の授業では、大抵その授業で何をするかの説明、いわばオリエンテーションなるものが存在する。
だが、恒一はそれを堂々と破棄した。
「――実践、あるのみじゃ」
恒一の鋭い眼差しに、生徒たちは圧倒された。
十分後。
レイたちはスーツに着替え、言われた通りに模擬市街地エリアAに集合した。
「お、時間通りじゃな」と恒一は感心すると、これから行われることについて説明を始めた。
「これからお前たちには、戦闘訓練をしてもらう」
「戦闘訓練?」
「ただ戦うだけですの?」
「当初は、ただ一対一で戦ってもらって個々の戦闘能力を測るつもりだったんじゃが、それだと面白みに欠けると思ってな。
少し、ルールを設けることにした」
恒一はスマホを取り出し、ホログラムを投影した。
そこには、このエリアの地図と思われるものが映っている。
「今ワシらがおるのはこの右端じゃ。
そんで、真ん中に赤い点があるのが見えるか?」
「……見えません」
「え、メガネかけとるじゃろうお前」
「伊達メガネなので……」
「なんじゃそれは!」
黒縁のメガネをかけている陰気な生徒。
外からでは、その素顔がまったく見えないようになっている。
(確か、視堂アキラくんだったよな。権能は忘れたけど)
「で、ルールなんじゃが……。
まあ、至ってシンプルだ。真ん中にある赤い点、あれを『コア』と呼ぶ。
一対一で戦って、先にあれに触れた方の勝ちじゃ」
手に持っている杖でホログラム上を指しながら、恒一はそう説明した。
「コアは空に向かって赤い光線を伸ばしておるから、場所はわかりやすいはずじゃ。
戦う者たちをエリア内のランダムな場所に転送して、ワシのアナウンスで開始する」
レイはそう言われ、街なかを見渡してみる。
すると確かに、赤い光線が空に向かって一直線に伸びているのが見えた。
「じゃ、早速始めるぞ。対戦相手はくじ引きで決めてもらう。
AからIまでのボールが二つずつ入ってて、アルファベットが被った相手が対戦相手じゃ。
引く順番は出席番号順な」
(この学校、くじ引き好きだな……)
体力テストの際も、順番は毎回くじ引きだった。
レイはそれを思い出し、苦笑いを浮かべた。
生徒たちは次々にくじを引いていき、やがてレイの番が来た。
レイは目を閉じ、恒一の持つくじ箱の中に手を伸ばした。
中を手で混ぜることもなく、中に入っているボールを手を入れてスッと引いた。
書いてあるアルファベットは、「A」。
レイは列に戻り、自分の後に続く生徒のくじ引きの様子を見つめる。
「オラァ!」
「気合入っとるな」
「うっせェジジイ!」
「な、なんじゃこいつは」
くじを引くだけとは思えない気迫で、ミナトはくじを引いた。
ミナトはボールを裏返し、そのアルファベットを見る。
そして、ニンマリと不敵な笑みを浮かべた。
「――Aだァ」
「――っ!」
ミナトははっきりと、レイの目を見た。
レイのボールを持つ手が、震えだした。
――考えうる最悪の組み合わせが、実現してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる