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11日目/岡崎優輝【退院①】
しおりを挟む今日は退院予定日。
外は残念ながら曇り空、午後からは雨降りの予報だ。
流石にそこまで上手く快晴に退院とはならなかったか。
それでも気分は言い方が古いがウキウキだった。やはり病院と言う閉鎖的空間にいると滅入ってくるからな。
そして今の時刻は5:12分…………早く起き過ぎたな。
もう昨日の夜のうちに少ない荷物は纏めてあるし、やる事がない。
二度寝でもするか………………………………寝れん!
病室で出来る事と言えばTVを見る事ぐらい。
そー言えば談話室にはパソコンが2台設置されていたな、朝食まで検索でもするか。
まだ外は暗く廊下も天井の照明ではなく足下を照らす灯りだけ。
そんな廊下を静かに歩いて談話室に到着した。部屋の照明は消され暗い、入り口の横のスイッチを入れると明るくなった。
やはり誰もいないみたいだ。
俺はパソコンに向いイスに座り電源を入れた。静かな部屋にパソコンの音が響く起動まで暫く待っているとやっと検索出来る状態になった。
さて何から検索しよう?
[地図]を選択すると現在地が表示された。鈴鳴総合病院。
そう、まだ俺は地図で今の場所や鈴鳴家の保護区の場所など距離的にも把握していなかった。
それを安易な気持ちで、地図の縮尺を変えたらこんなにも違うのかと驚いた。
まず日本列島の形は同じだった。が………北海道以外は知らない県名だった。いや県名とも言わないのかも知れない。
日本は県名らしい8個で区切られていた。まだ理由などわからないが世界地図が気になり縮尺を替えてみると世界規模で国の数が極端に少なくなっていた。
詳しい理由を知りたい俺は[地図]を閉じ[都道府県]で検索してみた。
検索した結果は納得するものだった。
例えばだが村の人数が100人いたが、過疎が進み人口が半分以下になったらどうする?
隣の村も同じだったら?
答えは合併して元の人口に近づける。
それが国として大規模に行ったら結果、県が少なくなっていった。
勿論主要都市も機能を維持する為に村から町、市の人口を1ヶ所に集めなければいけなくなり現在に至ると…………それは世界規模で起こり小国は大国に吸収された。
前の世界の日本も少子化が進めば同じ様になるかも知れない。
まっ、今更か………
それよりも今は近隣の情報の方が大事だ。なるほど………鈴鳴家の保護区は以前は町だった土地を丸々買って以前にあった施設や店舗を再利用して塀で囲み特別自治区としてある訳か。
国道も直接繋がっている為、交通の便も良さそうだ。防衛にしてもある程度都市から離れている方が守りやすいんだろうな。
そして今いる鈴鳴市は鈴鳴家がある町だった所に比べると4倍程広い感じか………なるほど。
ん?ここは検問所?
ちょうど鈴鳴市と鈴鳴家との中間にあった。他にもあるのか?
地図を拡大していくと鈴鳴市とは2倍程離れた反対側の場所に青秋岩山市せきしゅういわやましその間にも検問所があった。厳重だな。
とりあえず地理的な情報はこんなもんか。パソコンの右下に時刻は6:12………まだまだ早いな。
と思っていると談話室のドアが開く音が聞こえた。
誰だろ?
パソコンが設置してある机の横には本棚がある為に誰が入って来たのかは見えない。
「優輝君いるかい?」
ん?男の声、誰だっけ?とりあえず返事しとくか………
「ここにいますよ~」
「おはよう~病室にいないから探したよ~」
と言いながら片手をあげて現れた男は虎太郎さん。前にあった時と違い顔にわかるような疲労感が………この数日で何があったのだろうか。
「虎太郎さん!また急に来てびっくりするじゃないですか!」
総理大臣の鈴鳴虎太郎さんが笑顔で頭を掻きながら
「いや~また急にごめんね。朝早くとかしか時間無くてさ。ほら今日退院って聞いてさ、実家の保護区に行っちゃうと時間掛かるから。」
いやいや総理大臣とかしてればプライベートの時間とか取りにくいとは思うけど、朝早くとかでもSPとか大丈夫か?
「今日はね、退院おめでとうってのと仕事の話をしようかと思ってね。仕事の事、静子さんから聞いたかな?」
「はい?仕事の事?聞いてませんけど?」
「そっか~まだか~まっ、猶予1ヶ月の予定だし話てないか~
」
虎太郎さんは思っていたのとは違ったのか、戸惑っている様子だった。
俺としては仕事って何?仕事紹介してくれるの?と興味深々なのだが………説明求む!
「うん!説明面倒だから静子さんに後から聞いてね。」
ってオィオィそりゃ~ないよ。突っ込みいれていい?
「気になるじゃないですか!ちょっとぐらい教えてくださいよ?」
「え~気になるの?もしかして仕事したいの?」
いや仕事………したいのか俺?仕事したいというより収入が欲しい訳で………
「僕は今は仕事辞めて自由になりたいな~子供達とも遊びたいな~」
遠くを見るように悲しげ言わないで!
「最近子供達と妻達と距離を感じるんだよね~なんでかな?子供に「お父さんは国の為に頑張っているから困らせちゃダメよ」って妻達が言うから子供達近づいてくれなくなったし………あっ最近寝顔しか見てないや」
独り言の様に遠くを見ながら言わないで!せめてこっち向いて!
声かけにくいから…………戻ってきて!あっ泣きそう………
「こ、虎太郎さん、任期あとどれぐらいなんです?」
そう、政治家で総理大臣なんか何年も続けれる訳がないんだ。終わりがあると思わせないと………
「あ~任期かい?半年前に再選させられちゃってあと1年半かな~これで3期目だよ3期目…………優輝君替わりにやらない?」
あっ!マジで言ってるよ。冗談ぽく言ってるけど目が笑ってない。俺が『いいですよ。』って答えたら全力で何とかする気だよね?
「俺にはとてもじゃないから無理ですよ。日本の事も世界の事も何も知らないんですから。」
虎太郎さんはガックリ肩を落として
「そうだよね~でも……………1年半もあったら勉強出来るよね?」
うっ、なかなか諦めきれない様子だ。次の身代わり的な者としてロックオンされたぽい。
「まさか仕事の事って政治家ですか?さすがに収入が良さそうですけどやりたくはないですよ。」
「あ~仕事の事は別だから。簡単に言うと、うちの保護区は『働かざる者食うべからず』だからまずは保護区内で1年仕事してもらうから。」
あれ?何か聞き覚えがある言葉だ。親父がよく言ってたっけ…………まさか…………
「それって………誰が決めたんですか?」
「何?『働かざる者食うべからず』の事?」
「ええ、それです。」
「え~と確か鈴鳴清十郎さんだったかな。うちの鈴鳴家があの災害で生き残って繁栄できたのも鈴鳴清十郎さんのお陰だからね。」
おう。やっぱり親父だな………親父は俺が小さい頃から口癖の様に言ってたからな。
残念ながらもう亡くなってるみたいだから、後で墓参りに行かないとな。
「そうですか。凄い人だったんですね。」
まっ大工の棟梁やってて職人気質で頑固な所あったけどな。
でも………親父が尊敬されてるのは嬉しい………気恥ずかしいのもあるけど。
虎太郎さんもうん、うん頷いてるし。
「おっ!そろそろ行かないと不味いかな。じゃ優輝君退院おめでとう!これは少しばかりの気持ちだ。遠慮せずに使ってくれ。」
と持っていた小さいバックから封筒を出して渡してきた。
「あ、ありがとうございます。」
って結構厚いし重い………と感じた瞬間に俺の脳ミソが高回転で回り始めた。
無一文のせいか素直に受け取ってしまったが貰っていいのか?
さっきの話だと自分の後釜にしようと恩を売っているのでは?
いやいや人の好意を疑っていいのか?
封筒を見ながら考えていると、肩を叩かれた。
「あと………麗子の事よろしく。じゃまたね~」
あ~そっちの意味合いの方か。歳をとると疑い深くなってダメだな。すぐに相手の思惑を考えてしまう。
ここは素直になろう。
「こちらこそよろしくお願いします。」
虎太郎さんは軽く頷いて手を振りながら帰って行った。
家に向こうのか仕事に向かうのかはわからないけど、かなりストレス溜まってるみたいだけど大丈夫かな。
虎太郎さんがいなくなったのでまたパソコンに向かうと、画面が黒くなってスリープになっていた。
マウスを適当に動かし画面に表示された時刻を見た。6:48
外も明るくなってきたしそろそろ病室に戻るか。
病室に戻ってきたがやはりやる事がない。
戻ってくる時にいつも朝食を運んでくる台車もまだ来ていなかった。
TVを見ると天気予報が始まる所だった。
「今日の鈴鳴市は曇りのち雨、午後から激しい雷雨になるでしょう。」
雷雨か………まっ、車で移動するんだろうから大丈夫だろ。
あっ!車の免許証が無い。また新たに取らないとダメか………
あっ!免許証とっても車ももう無いじゃん。
はぁ~~車も買わないとな………ってお金も無いし………
その時さっき虎太郎さんから貰った封筒を思い出した。
まだ中身を確認してなかったな。多分お金だと思うけど。
…………20万………退院祝いには多すぎでしょ。
総理大臣っていくら貰ってるんだろ?
1ヶ月分の給料で車買えるかな………
数える為に封筒から半分だけだしたお金を戻そうとしたら、1枚の紙が足元に落ちた。
何だろうと思い拾おうとしたら名刺だった。
拾った名刺は立派で真ん中に大きく
鈴鳴 虎太郎。
おぉ、ちゃんと総理大臣って書いてるよ、この名刺。
連絡先も書いてあった。多分何かあったら連絡くださいって事かな。
端末に虎太郎さんの連絡先を登録していると廊下から朝食を持ってくる台車が来た音が聞こえた。
「さてと、取りに行きますか。」
ソファーから立ちあがり部屋を出ようとすると扉が開き武ちゃんが入ってきた。
「あら♪優輝君おはよう。取りに行こうとしてた?」
「えぇ、今いこうかなって………おはようございます。」
「今日退院だもんね。落ちつかないわよね。」
と笑顔の武ちゃん。
そっか、今日で武ちゃんのこの笑顔も見納めか………
「はい、はい!寂しそうな顔しないの。病院になんてお世話にならない方がいいんだからね。私に会いたくなったら個・人・的・に・朝までいつでもいいわよ♪」
とウィンクされたけど、朝までとかはちょっと………
どう答えていいかわからないかったので、愛想笑いで流した。
武ちゃんは小さい声で「んもぅ」とか言って朝食を置いてくれた。
「それと退院の手続きは岡崎静子さんがしてくれたから、優輝君は退院の時に書類読んでサインしてね。」
「はい。ちなみにどんな書類?」
「ん~と簡単に言うと退院を了承しましたって事と後は………訴えたりしませんよって事。」
ん?………あっそういう事か………治療方法に文句はなかったか?入院中に人権侵害などなかったか?って確認か。
ん~~逆に迷惑掛けてばかりだったな。何回も警報鳴らしたし、婦長さんとかの理性吹っ飛ばしたり………最後に謝っていこう。
と想い出していると
「ない………わよね?優輝君?」
不安そうに聞いてくる武ちゃん。俺は慌てて
「ないです。ないです。逆に迷惑掛けてばかりだったから申し訳ないぐらいで、感謝しかありませんよ。」
「そう?そう言ってくれると私達も嬉しいわ。んもぅ、思わせぶりに考え始めるからちょっと焦ったわよ。」
「すいません。」
と二人で笑った。
思えばナースのコスプレしたオッサンと楽しく話をする様になるとは思わなかったな。
今じゃナース姿じゃない武ちゃんの方が違和感ありありだろうな。慣れって怖いわ。
それから武ちゃんは「またね~♪」と病室を出て行った。
俺は朝食を済ませて10時まで部屋でゆっくりする事にした。
時間までぼんやりTVを見ていると端末が鳴った。
聞き慣れない着信音に少し慌てた。着信音の設定してなかったな。後でしよう。
端末の画面には『岡崎静子』電話だった。
「はい、もしもし。」
「もしもし、優輝君?おはようございます。」
「静子さん、おはようございます。今日退院ですよね、よろしくお願いします。」
「あらあらいいのよ、そんな他人行儀じゃなくて。それでね、これから私達病院に迎えに行くけど準備は大丈夫かしら?」
「えぇ、荷物も少ないですし大丈夫です。」
「そうわかったわ。そうね、今9時半過ぎだから病院に着くのは11時前くらいだと思うから待っててね。」
「了解しました。よろしくお願いします。」
と短い電話だったが終わった。
ん?何か違和感が………今から出る………着くのが11時前?
1時間半で着く?
朝パソコンで調べた時2時間ちょっと掛かるって出てたけど、近道でもあるのかな?
応援ありがとうございます!
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