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11日目/岡崎優輝【退院②】
しおりを挟む静子さんとの電話も終わりもう少しで9時45分になる所だ。
後の予定としては談話室で彼等に退院の挨拶をしてから昼飯を食べて退院する。
そう言えば昼飯は何処で一緒に食べるんだろう?
まっいっか、今更細かい事を気にしたとしても仕方ないしな。
退院で気分がいい俺は簡単に流した。
そして談話室に向かった。
やはりまだ10時を過ぎていないせいか3人ぐらいしかいなかった。その3人はまだ1度も話した事がない面子で、年の頃は高校生ぐらいだろうか………そのうちの一人が俺に興味があったのか何度もこちらをちらちら見ている。
以前からも何度か俺の様子を伺っていた。
その視線に気がつきその子を見ると目があった、あったがのだがその子はすぐに視線を逸らして知らないふりをしていた。
最後だし俺から話しかけてみるか………
やはりと言うか俺が近づくと少し怯えた感じで視線を合わそうとはしなかった。
以前対人恐怖症になった知人の弟さんが同じ様な感じだったが、この子はどんなトラウマを抱えているんだろう。
「おはよう」
「お、おはようございます」
声を掛けても無視されるかとも思ったが素直に挨拶を返してくれた。
「いきなりごめんね。今日、退院する事になったから最後に挨拶したくてね。ほら俺の事ちらちら見てたでしょ?何かあるのかなって思ってさ。」
「す、すいません。」
「いやいや別に怒ったりしてないから。誰かにでも似てたのかな~って?」
「………はい。あまりにも似ていたので………」
えっ?マジで?適当だったんだけど…………一応話の流れで聞いてみるけど。
「へぇーそれで誰に似てたの?」
まっ誰かに似てるって言われてもわからないけどな、そう思いながら返事を待つとその子が
「……………岡崎優輝さんに………」
はぁ?俺が俺に似てる?
そりゃ本人ですから………って意味がわからないんですけど?
「す、すいません。変な事言って………で、でも先輩に……って先輩ですよね?絶対先輩ですよね?」
いきなり勢いよく迫ってきた。この子大丈夫か?
「いや、先輩とか何言ってるの?俺は………先輩?」
ん?先輩?そー言えば昔俺の事を先輩って言って慕ってくれたアイツがいたっけ。
確かもう17年ぐらい経ったか………アイツは泥酔した状態で風呂に入ってベットにパンツ1枚で扇風機をつけたまま寝て朝に冷たくなって死んでしまった。
女好きで酒好きで、でも賭け事も煙草もやらなくていつも明るい性格で興味があれば何でも挑戦するいい奴だった。
朝に会社で悲報を聞いた時は信じられなくて、仕事が終わってすぐにアイツの実家に行って棺桶に入ってるのを見て俺はその場で泣いた。
今でもアイツの命日には思い出して毎年『早死にしやがって馬鹿が………』と嘆いていた。
まさか………目の前のこの子がアイツなのか?
「お、お前まさか………滝沢………滝沢、滝沢悟か?」
感激し過ぎて声も出せないのか首だけを上下に数回降ると、泣きながら抱きついてきた。
「ぜんぱい~」
何が何だかさっぱりだ。多分、滝沢なんだとは思うが見た目も違うし歳も違う。知らない高校生に泣きながら抱きつかれている46のおっさん………あぁ、俺も若返ってるんだった。
取り敢えずいつまでも男に抱きつかれても嬉しくない。俺は事情を聞くために滝沢を引き剥がした。
それから30分程掛けていろいろ聞いた。滝沢も産まれてから今までの苦難を吐き出す様に話続けた。
うん。最後まで聞いたが間違いなく彼女の仕業だ。
ここからは俺の憶測だが………俺をこっちの世界に呼ぶ前に滝沢で実検したんじゃないかと思う。彼女は目的の為なら手段は選ばない、そして失敗のリスクを最小限にする為にも手段は選ばない。
滝沢の話を最初から整理すると、初めに目覚めると訳のわからない場所にいたそうだ。その場所では焦りとか危機感とかもなく凄く居心地が良かったらしい。
暫くボーーっとしていたら知らない夫婦が表れたらしい。
その夫婦は滝沢の曾祖父さんと曾祖母さんだと説明を受け滝沢が死んでしまった事を教えて貰ったのだとか。
時間の感覚も無いその場所で出来る事、出来ない事を教えて貰ったが、何となくわかっていたらしい。
それから曾祖父母と別れ、先に亡くなっていた同期生に会いに行ってみたりしたそうだ。不思議と思い浮かべて少し歩くと会えたらしい。
そんな感じで何かの迎えを待っていると女神のコスプレをした女性が表れたそうだ、多分だが彼女だろう。
その女神に生まれ変りを薦められ『今なら初回特典で記憶はそのままで生けますよ。』となかば強引に決められて、この世界に産まれたらしい。
記憶を持ったまま産まれるというのは、地獄の様な毎日だったと………
まず目が見えない。ぼんやりと明るいとか暗いのがわかるだけ。耳だけは問題なく聴こえるせいで物音で何回も驚いて漏らしたらしい。
手も足も首も………いや身体全部に筋肉が足りなく動かせない。
糞も尿も意思とは違い我慢出来ずに垂れ流し、不快感だけはしっかり感じる。
寝返りが出来ない。そのせいで背中とかお尻やちんちんの所が蒸れて痒くなっても手が動かせないから掻けない。あまりにも痒くて死にたくなったらしい。産まれたばかりなのに………
それから1才2才と無事に成長するにつれて自分の母親が異常な程過保護な事に気がついた。何が過保護というと全く外に出た事が無いのだ。
成長してこの世界を知れば当たり前の事だったのだが………
外に出るとは街に出るという事なのだが3才になっても街には出掛けなかった。
当たり前だ。外に3才の男の子を連れて歩けば、誘拐されかねない。
住んでいるマンションの屋上には遊具もあったしプールもあった。金持ちの家に産まれたのだと喜んだ。
同年代の男の子も同じマンションに住んでいたので何もおかしいとは思わず屋上で一緒に遊んでいたそうだ。
定期的にマンションに住む男の子達を診る為に医師も来てくれた。
それからまた成長して幼稚園に行くようになって初めてこの世界の異様さに気がついたらしい。
大人の男がいない。周りは女性と女の子ばかり。
マンションに住んでいた自分も合わせて5人しかいない男の子。
ハーレムみたいだと喜んだ。
その環境を楽しみながらまた成長して大きくなるにつれて周りの女性の視線に段々と意味のわからない恐怖を覚える様になった。
前世では女好きで女性を捕食する立場だったのが、捕食される側になったのに気がつかなかったのだ。
オオカミの群れに自分から近づくヒツジの様に………
そしてオオカミの群れはヒツジが美味しそうに成長すると逃げられない場所に連れ込み○○○○や××××な事を丸一日群れで楽しんだらしい。
馬鹿なヒツジも最初は楽しんでいたらしいが群れの勢いが凄すぎた。身体中の水分が無くなり脱水症状になり掛けて初めて捕食されている事に気がついた。そして理解できなかった恐怖の意味を知った。
そして現在入院中。胃にきたらしい。
胃だけで済んでるのがまず凄い。この世界の男なら確実に不能者か精神を壊しているはずなのだが………やはり泥酔して風呂に入って死んだ馬鹿は死んでも変わらず馬鹿らしい。
そんな馬鹿な滝沢だが、ずっと苦しんで抱えていたのは、共感者が誰一人としていない事だった。
俺もこっちの世界に来て1週間ちょっとだが、もう何回も前の世界との違いに悶絶した。
滝沢は産まれてから今まで何回悶絶したのだろう?
「なぁ、滝沢。女性が怖いか?」
何気なく聞いてみると
「えっ?いや女性とゆうか集団が怖いっす。先輩も気をつけた方がいいっすよ。」
うん。こいつ間違いなくまたやられるな。
最初は感動的な再会かと思ったが、相変わらずな滝沢に笑いしか起きなかった。
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クロハナです。(*`・ω・)ゞ
ストック無くなりました。
気長にお待ちください。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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