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11日目 /岡崎優輝 【退院③】
しおりを挟むまさか死んだ悟に再会するとはな………
俺が最後だからと声を掛けなければすれ違いだったんだろうな。
とりあえず静子さんが来る時間が迫っていたから連絡先を交換した。後でまた話が出来るだろう。それと口止めをしておいた。
よくわからない世界に来て『違う世界から来ました』と話をして理解される訳がないから、記憶喪失のふりをしていると………頷いていたが、本当に理解していたのか心配だ。
まぁ悟が誰かに話したとしても信じる奴がいる訳ないだろうな。
悟との会話中に友則君達も談話室に来ていたから、悟との会話が終わった後に軽い挨拶をしておいた。
友則君達とは昨日のうちに退院してからの事や今日の退院の事など話していたから、特に今日話す事もなかった。
まぁ「「「「退院おめでとうございます。」」」」と言われて嬉しかったが………
正直、悟とはまだまだ話をしたかったが時間が押し迫っていた。なんとか予定の時間前までには病室に戻れた俺は静子さんを待った。
病室まで来るのかと待っていたが、やはり一般人は身内だろうが病棟には入れないみたいだ。
病室に来たのは鈴鳴先生に武ちゃん、それに婦長さん。
最後の応診も兼ねてらしい。
「まだいてもいいぞ。」と馬鹿な発言から始まった。
鈴鳴先生だ。
「よく考えたら会いたい時に会えるうえに、定期的に研究サンプルも貰える。私から見れば理想的な環境なのだ。」
っていつもならこんな発言をした鈴鳴先生を止めるはずの婦長も武ちゃんも何故に止めない!
「え?あれ?なんで?婦長さん?武ちゃん?」
鈴鳴先生の後ろに控えていた二人に視線を投げると
「えーと、優輝君を外に出すのは危険な気がするのよ。」
と武ちゃん。
「その………私にもチャンスがあるかと………」
と婦長さん。
なんのチャンス?
「そういう訳で退院を延期にしないか?」
初めて反対されない鈴鳴先生は自信ありげに言ってきた。
え?何この人達………武ちゃんの言い分はなんとなくわかる。心配してくれての意見なんだと………でも他2名の意見はおかしいだろ!
婦長さんのチャンスの意味はわからないが、鈴鳴先生に至ってはまんま自分の為だろ。
退院の延期を患者に求めるか。普通は逆だろ?
あまりにも馬鹿な発言に呆気に取られた。
「なっ!どうだ?入院費なら私が全部出すし、入院している間は仕事もしなくていいんだぞ。うちの鈴鳴家の保護区に入ったら兄なら絶対仕事させるだろうし、もしかしたら後釜として狙っているかもしれない。優輝君にも十分メリットがあると思うぞ。」
へ?俺にもメリットがある……だと………
流石に兄妹なのか虎太郎さんの考えが読めるのか、今日の朝に感じた不安をズバリ指摘してくるとは………
いやしかし静子さんにも準備して貰って迎えにも来てくれてる訳だし、友則君達にも退院すると最後の挨拶を済ませたばかりだし、何よりいい加減外に出たいし………
と俺が悩みだすと鈴鳴先生が追い討ちをかけてきた。
「なんなら一時帰宅として1度静子さんの家に帰ってもいいぞ。病院に戻ってきても定期的に一時帰宅を出来る様に申請を出そう。」
クッ…………そうきたか………1度外に出たいとの思いをピンポイントで…………クソッ何て甘い誘惑を仕掛けてくるんだ。
だが………俺は負けない。負けないぞ!若者達の先陣に立ってこの理不尽な女性が強者として振るまう世界を変えてやる。
「…………俺は………退院します。いや退院しなければ………彼等の為にも。」
「「「え?」」」
鈴鳴先生も他2人も、俺が提案に乗ってくると思っていたのか驚いた様子で声をあげた。
「いやいや優輝君!外は危険な弱肉強食の世界なんだぞ?わかっているのか?」
どうしても引き止めたいらしい鈴鳴先生。
「勿論わかってます。友則君達が逃げ込む程ここは安全なんだと………だけど此処は楽園じゃない。外が危険になったから一時的に逃げ込んだだけだ。男が空の下で自由に暮らせる場所じゃない。今は数の暴力で自由に暮らせないけど、いつか俺が変えてみせます。…………鈴鳴先生ならわかってくれますよね?」
実際に俺の種をばら蒔けば可能だ。ただ、まだ安全の確認がとれてないけど………下手をすれば今度は男だらけの世界になりかねない。
「…………優輝君一人で出来る訳ないじゃない。」
やはり俺の秘密を知らない武ちゃんは反論してきた。しかし知っている鈴鳴先生は………
「…………そう………わかったわ。退院を認めます。」
あれ?思った以上にすんなり認めてくれた。なんでだ?
武ちゃんも婦長も予想外らしく呆気に取られていたが武ちゃんがまた反論してきた。
「な、なんで簡単に認めるのよ!さっきまであんな我が儘言ってたのに………私は女に対してあまりにも警戒心が無い優輝君が心配で、賛成したのよ。急にどうして認めるのよ!わからないわよ!」
さっきまでの不真面目さが嘘の様に真面目な顔で鈴鳴先生は武ちゃんに言った。
「優輝君はちゃんとわかっているよ。女の事を………その上で明確にどうしたいかの決意もある。大丈夫、彼ならなんとかするわ。それに………外って言ってもうちの保護区だから。」
少しムスッとした感じを出しながらも納得したのか、武ちゃんは「わかった、わかったわよ。」と言ってくれた。
これで解決と思ったが………
「す、鈴鳴……せん……せい…………私の、私のチャンスは?チャンスはーーー!」
と半泣きの婦長さんが鈴鳴先生にしがみついた。
だからチャンスって何?
「うわっ、わ、わかったから離れなさいって!うちのチケットあげるから!」
それを聞いた婦長がピタリと止まった。
「金?」
「はぁ、わかったわよ。金のチケット準備するわ。」
「有休も!」
「はい、はい。院長に私から話してあげるから。」
「やったーーー!」
この世の終りみたいな顔で半泣きだった婦長が喜びでよくわからない踊り始めた。
何その金のチケットって?
って思いながら喜びの舞いを見ていたら、さすがに気がついたのかハッとして婦長が踊りをやめて真面目な顔で俺に
「優輝さん、退院おめでとうございます♪」
なんか嬉しくないんですけど?
それにさっきまで三人して退院延期にしようとしてましたよね?
まっ、とりあえず無事に退院の延期を阻止。
少ない荷物を武ちゃんが持ってくれたまま、ナースステーションの防犯ドアを通過した。
ドアから出ると静子さんと警護してくれる永島薫さんと佐々木望美さんがいた。
視線が合うと永嶋さんと佐々木さんが軽く会釈をしてくれた。
待ちに待ってましたと言わんばかりに俺に近づき笑顔で静子さんが
「優輝君、退院おめでとう。夢にまで見た優輝君とこんな近くでお話出来るなんて本当に嬉しいわ。」
「ありがとうございます。これからお世話になります、よろしくお願いします。」
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