アラサー令嬢の婚約者は、9つ下の王子様!?

九条りりあ

文字の大きさ
14 / 57
ライバル令嬢登場!?

01

しおりを挟む
♢ ♢ ♢




 


 

 そこは、白を基調とした豪華な作りだった。伝え聞いているガルシア王室の王宮のようだとぼんやりと思う。

「広いわね……」

辺りを見渡すと左右には階段があり、豪華なシャンデリアが部屋を照らしている。扉がいくつかあり、そのどれも豪華な装飾が施されている。見知らぬ場所ではあったが、ここはどうやら玄関ホールのようだと考えに至ったときだった。

「レナ姉」

背後から声をかけられた。いつの間に立っていたのだろうか。声が聞こえた方を振り向くとそこに立っていたのは、柔らかな亜麻栗色の髪とエメラルドグリーンの瞳を携えた少年。見目麗しいその少年はこの国の第三王子。

「レイ君」

昨日、突然婚約者を名乗った『レイ・ガルシア』が、あの日と同じように白いタキシードを着こなし立っていた。10年前、怪我をしたところを助けた男の子で、“彼”に「結婚してください」と期待するような眼差しで言われた私は、無下に断ることもできずに『10年経ったら』と告げると、その10年後ものの見事に成長した“彼”は宣言通り私の前に現れたのだ。

 そんな彼は私に手招きする。彼の元に行き、彼の目の間に立つと

「貴女に見せたい人がいます」

そういって彼はにこやかに微笑んで、なぜだか右に避けた。

「誰?」

 すると、そこにはレイ君に隠れるようにしていた立っていた美しい少女がいて、思わずぽかんと口を開ける。年の頃は、レイ君と同じくらい。少し緑がかった長い髪とブラウンの瞳の容貌は、まさに妖精と形容すべきか。けれども、何故だろう。どこかで見たような気がした。おしとやかに微笑む彼女とレイ君が並んだだけで絵になる。そんなことを思っていると、レイ君は信じられないことを口にした。

「彼女は、私の“本当”の婚約者ですよ」
「え?」

 思わず間の抜けた声が出る。

微笑みあうレイ君と彼女。見つめあう姿は、どこからどう見ても仲睦ましく……。うら若い二人はお似合いに見えた。

「もしかして、本当に私と婚姻できると思っていましたか?」

 静かに言われたレイ君の言葉に私は息を飲む。

「アラサーの令嬢ごときが、18の私と婚約できるわけないでしょう?もしかして、本気にしていたんですか?」

 立て続けに言われた言葉は、なぜだか嘲笑を含んでいる気さえする。

「私の隣に立つべきは“彼女”のような同年代の令嬢に決まっているでしょう?」

 そういってレイ君は、傍で寄り添うようにして立つ美しい令嬢の手を取った。

「嘘でしょ……レイ君」

 信じられない想いで目の前のレイ君を見るとエメラルドグリーンの瞳がわずかに細められ

「さようなら、エレナ・クレメンス」

そういって美しい令嬢の手を引き私に背を向けた。亜麻栗色の髪が遠くなっていく。

「レイ君――……!!」

 私が呼んでも“彼”は振り向きもしない。伸ばした右手は虚しく空を掴んだ。


 


♢ ♢ ♢









「……――っ!!」

 まず感じたのは、眩しさだった。ぼんやりとした視野の中、眩しい光が瞳に入ってきて瞬く。眩しさに顔をしかめながらも、だんだんクリアになっていく視界に、まず目に入ったのは伸ばした右手。そして、見慣れたクリーム色の天井。ピピピと鳥のさえずりさえ聞こえる。窓から入ってくる風が肌にあたって心地よい。

「夢?」

 どうやら夢を見ていたらしい。なんていう不吉な夢だ。顔にかかっていた髪を左右に分けた。しかし、やけにリアルな夢だったなと思いながら、ベットから身を起こす。

その瞬間――……。

「どんな夢を見ていたんですか?」

と低くおだやかな声が左から聞こえたもんだから、反射的に『婚約者に騙された夢を……』と答えそうになった。けれども、そちらを見ていいかけた言葉を飲み込んだ。

「……レイ君!?」

その声の主こそが、悪夢の中の元凶。件の『レイ・ガルシア』だということに気が付いたから。柔らかそうな亜麻栗色の髪と宝石のエメラルドのような瞳が朝日を浴びて煌めていている。彼の両手は、私の左手に添えられ、ベットの近くに置かれた椅子の上に座っていた。

「うなされていたようですが……?」

 そういって心配そうに顔を覗き込んでくるレイ君。ち、近い。

 陶器のように滑らかな肌に、整った眉。切れ長の二重を縁取る長いまつげ。見れば見るほどに、本当に整った顔をしているし、なんだかわからないがすごくいい匂いまでする……。じゃなくて……!

「もしかして、これも夢……?」

 思い至ってぽつりと呟いた。我ながら素っ頓狂な声が出たと思う。

夢から醒めたと思ったら、また夢を見ているの?なんて考えていると目の前のレイ君は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐにクスクスと左手を口元に当て肩を震わせて笑い出した。

「……あれ?もしかして、夢じゃないの?」
 
レイ君の反応でもしかして夢じゃないのかと恐る恐る尋ねるとレイ君は「えぇ」と一度大きく頷いてから

「さきほどは、どんな夢を見ていたのですか?」

 そして、首を傾げる。その顔はどこか心配げだ。うなされていた様子を見ていたと言っていたなと思いながら

「えっと……」

思わず言いよどむ。まさか『貴方に捨てられた夢です』とは言えようはずもない。だから、咄嗟に話題を変える。

「そ、それよりも!!レイ君はなんで部屋にいるの?」

 昨日、婚約者だと名乗り出てから、初めての訪問。まぁ、昨日の今日だから初めてに決まっているのだけれども。そもそも、私はあの誕生日にレイ君と再会したことすらどこか信じられずにもはや夢だと思っていた節がある。レイ君が目の前にいるということは、やっぱりあれは夢ではないわけで……。

 っていうか、冷静に考えたら間抜けな寝顔見られてた!?やばい、変な寝言は言ってない……はず。夢が夢だっただけに心配だ。混乱しかけた頭で、どうにかそれだけを言うと

「貴女に会いたくて」

レイ君はさらりと言ってのける。

「――っ……!!」

 この男はアラサーが舞い上がるようなことを何のことはないように言ってのける。アラサー人生×2の婚期逃した女の男性の耐性力を舐めない方がいい。

けれども、待てと我に返り、先ほどの夢を思い出す。もしや、これは期待させるだけさせておいて、『アラサーが何舞い上がってるんだ。滑稽だな』って嘲笑いながら裏切られるパターンのやつ!?前世のドラマとかでよくあったよね。年下の男の子が本当は若い彼女がいるのに、別の年上の女の人に貢ぐだけ貢がせといて、最後は年上の女の人をこっぴどく捨てるパターンのやつ。で、そのあと優しい年上の男性と出会って本当の恋に落ちるという……あの働く女性必見みたいな恋愛ドラマ。ただドラマと違うのは、優しい年上の男性がいないということ。オーマイゴッド。これじゃ、ただの惨めなアラサー令嬢じゃない。

 そうよ。そうじゃなきゃ、レイ君みたいな若くてイケメンな王子が私のような大して若くもないアラサー令嬢と婚約なんてするわけないわ!!やっぱり、罠だわ!!

 そんなことを思っていると

「何を考えているんですか?」
「ひゃっ!!」

と低くて穏やかな声が近くでして、ぼんやりしていたもんだからすごく間の抜けた声が漏れた。アラサーにもなって、「ひゃっ!」とか恥ずかしすぎる。年甲斐もない。見れば椅子から立ち上がり、レイ君はこちらに身を乗り出している。

 いちいち近い。これじゃ、心臓が持たないわ。まるで作り物のような美しい顔が近くにあって、顔に熱を持たない人なんているのだろうか。いや、いない。沈まれ、熱よ。心の中でひたすら唱えていると彼は何故だか嬉しそうにくすりと笑って、椅子に腰を下ろした。

 た、助かった……。心の中でほっと安堵する。そんな私にレイ君は、今度はどこかいたずらっぽく笑って、こういった。

「今日は、貴女に見せたいものがあるんです。王宮へ招待いたします」と。

 まさか……ね。一瞬、頭の中で、夢での出来事がよぎった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処刑回避のために「空気」になったら、なぜか冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで。

チャビューヘ
ファンタジー
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の、すれ違い溺愛物語!

処理中です...