22 / 57
ライバル令嬢登場!?
09
しおりを挟む
♢ ♢ ♢
「ここにありましたか」
そういって“僕”がかがんで拾い上げたのは、“僕”の婚約者が落としてしまった花飾り。エレナの美しい黄金色の髪を彩っていたもの。それが先ほど突然吹いた風に飛ばされてしまい、拾いに来たのだ。
「夢みたいだ……」
左の手のひらに乗せてある花飾りを見て、思わず頬を緩ませた。
ずっとずっと憧れていた、そして愛おしかったエレナと過ごせる時間がたまらなく幸せだ。
今朝方、彼女の屋敷に赴き、城へ招いた。エレナに“見せたいもの”があったから。
数時間ほど前は夢でうなされていたけれども、馬車で色々な話をすると気がそれたのか顔色も幾分かよくなり安堵した。
馬車の中でエレナが見せた笑顔、感嘆したような表情、どこか恥じらうように頬を染めた顔、コロコロと表情を変える彼女は一緒に居て飽きない。むしろ、もっと色々な表情を見たいとさえ思った。
けれども
「……悲しい顔をさせてしまった」
彼女の悲しそうな表情を見たいとは思わない。先ほど彼女が見えた悲しそうな、それでいてどこか諦めたような表情が脳裏に浮かんだ。その表情を思い出すと胸の奥が苦しくなる。
エレナを苦しめてしまった原因はわかっている。
『ベル・フォーサイス』。彼女の存在だ。この国の宰相の娘。
彼女……いや、“ベル”とは、は王族と貴族が通う『ガルシア』の王立学校で10歳の時に出会った。出会った際は、さほど目立つようなタイプではなかったのだけれども、年々美しさを増していき、いつしか『ガルシアの妖精』とまで言われるようになった。
宰相の娘ということもあり、父とともによくこの屋敷に来ていたため、学校以外でもかかわることはあった。
特に、母からは気に入られており、“僕”の婚約者候補の1人であったことには違いない。だからこそ、この城を自由に出入りすることを許されていた。母としては、ベルと婚約を結んで欲しかったのだろうけれども、“僕”にはエレナがいた。もちろん、父と母との約束で、そのことをベル本人に言うことはできなかった。
だからだろう。“僕”の18歳の誕生日、ベルが“僕”に婚約を申し込んできたのは。“僕”としては、その日、やっと胸を張ってエレナを迎えに行けると思っていたのにも関わらずだ。
それまでも様々な令嬢から婚約の申し出があった。けれども、相手は宰相の娘。しかも、母のお気に入りだ。丁重に断りを入れて、他に大切な人がいるからとその場を納得させるのに10日程かかってしまった。ベル本人もその時に納得したと思っていたのだけれども……。
「誤算……でしたね」
まさかエレナの目の前で自らを婚約者であると名乗るとは。あの時はあまりにも突拍子すぎて言葉が出なかった。そして
「“僕”は、まだ貴女の中では、子どもなのでしょうね」
同時に思い知らされた。エレナに自分の気持ちがきちんと伝わっていないのだと。それにきっとエレナは自分のことは突然現れた婚約者だとしか思っていない。
だからこそ、『ただの友人』と言われたときは、本当にどうしてくれようかとさえ思った。けれど、自分に出来ることは一つだけ。“僕”は、花飾りを見つめながら、そっと自らの唇を右の親指でなぞった。
「“僕”はこんなにも想っているのに……」
エレナに気持ちを伝えるために行動するだけ。けれども、エレナは“僕”がどれほど彼女を愛しいと思っているのか知らない。
だからこそ、エレナはベルの言葉に傷ついた表情をしたのだ。ただ何も言うわけではなく、たた困ったように微笑む表情を浮かべて。そんな彼女の顔を見て、居ても立っても居られなくなった。大切で、大切でたまらないから。
“僕”の不手際のせいでエレナに悲しい思いをさせてしまった。けれども、彼女は“僕”のせいではないと、ベルの言うとおりだからと目を伏せた。その様子が何かに耐えるように健気で、“僕”は胸を打たれた。
そんな顔をさせたくて、この城に招いたわけじゃない。笑顔にさせたくて、この場所まで連れてきたのに。だからこそ、このあとは今まで以上に彼女をうんと甘やかすと決めている。“僕”のことをまだ子どもだと思っているようなら一人の男として意識してもらうように行動するだけだ。
右手で懐から取り出した銅でできた懐中時計を見ればちょうど昼時だ。彼女に見せたいものが見ることができるまでまだしばらく時間がある。上で待たせている彼女を誘ってお昼にしようかと思った時だった。
「……――っ」
右手の手のひらに痛みが走った。痛みをしたところを見れば、2cmほど赤い細い線が入っていた。どうやら懐中時計の装飾部分で擦ってしまったようだ。普段このようなことはないのに。
「エレナ――」
何故だか嫌な胸騒ぎがする。彼女が落とした花飾りを懐に入れて立ち上がった。
「ここにありましたか」
そういって“僕”がかがんで拾い上げたのは、“僕”の婚約者が落としてしまった花飾り。エレナの美しい黄金色の髪を彩っていたもの。それが先ほど突然吹いた風に飛ばされてしまい、拾いに来たのだ。
「夢みたいだ……」
左の手のひらに乗せてある花飾りを見て、思わず頬を緩ませた。
ずっとずっと憧れていた、そして愛おしかったエレナと過ごせる時間がたまらなく幸せだ。
今朝方、彼女の屋敷に赴き、城へ招いた。エレナに“見せたいもの”があったから。
数時間ほど前は夢でうなされていたけれども、馬車で色々な話をすると気がそれたのか顔色も幾分かよくなり安堵した。
馬車の中でエレナが見せた笑顔、感嘆したような表情、どこか恥じらうように頬を染めた顔、コロコロと表情を変える彼女は一緒に居て飽きない。むしろ、もっと色々な表情を見たいとさえ思った。
けれども
「……悲しい顔をさせてしまった」
彼女の悲しそうな表情を見たいとは思わない。先ほど彼女が見えた悲しそうな、それでいてどこか諦めたような表情が脳裏に浮かんだ。その表情を思い出すと胸の奥が苦しくなる。
エレナを苦しめてしまった原因はわかっている。
『ベル・フォーサイス』。彼女の存在だ。この国の宰相の娘。
彼女……いや、“ベル”とは、は王族と貴族が通う『ガルシア』の王立学校で10歳の時に出会った。出会った際は、さほど目立つようなタイプではなかったのだけれども、年々美しさを増していき、いつしか『ガルシアの妖精』とまで言われるようになった。
宰相の娘ということもあり、父とともによくこの屋敷に来ていたため、学校以外でもかかわることはあった。
特に、母からは気に入られており、“僕”の婚約者候補の1人であったことには違いない。だからこそ、この城を自由に出入りすることを許されていた。母としては、ベルと婚約を結んで欲しかったのだろうけれども、“僕”にはエレナがいた。もちろん、父と母との約束で、そのことをベル本人に言うことはできなかった。
だからだろう。“僕”の18歳の誕生日、ベルが“僕”に婚約を申し込んできたのは。“僕”としては、その日、やっと胸を張ってエレナを迎えに行けると思っていたのにも関わらずだ。
それまでも様々な令嬢から婚約の申し出があった。けれども、相手は宰相の娘。しかも、母のお気に入りだ。丁重に断りを入れて、他に大切な人がいるからとその場を納得させるのに10日程かかってしまった。ベル本人もその時に納得したと思っていたのだけれども……。
「誤算……でしたね」
まさかエレナの目の前で自らを婚約者であると名乗るとは。あの時はあまりにも突拍子すぎて言葉が出なかった。そして
「“僕”は、まだ貴女の中では、子どもなのでしょうね」
同時に思い知らされた。エレナに自分の気持ちがきちんと伝わっていないのだと。それにきっとエレナは自分のことは突然現れた婚約者だとしか思っていない。
だからこそ、『ただの友人』と言われたときは、本当にどうしてくれようかとさえ思った。けれど、自分に出来ることは一つだけ。“僕”は、花飾りを見つめながら、そっと自らの唇を右の親指でなぞった。
「“僕”はこんなにも想っているのに……」
エレナに気持ちを伝えるために行動するだけ。けれども、エレナは“僕”がどれほど彼女を愛しいと思っているのか知らない。
だからこそ、エレナはベルの言葉に傷ついた表情をしたのだ。ただ何も言うわけではなく、たた困ったように微笑む表情を浮かべて。そんな彼女の顔を見て、居ても立っても居られなくなった。大切で、大切でたまらないから。
“僕”の不手際のせいでエレナに悲しい思いをさせてしまった。けれども、彼女は“僕”のせいではないと、ベルの言うとおりだからと目を伏せた。その様子が何かに耐えるように健気で、“僕”は胸を打たれた。
そんな顔をさせたくて、この城に招いたわけじゃない。笑顔にさせたくて、この場所まで連れてきたのに。だからこそ、このあとは今まで以上に彼女をうんと甘やかすと決めている。“僕”のことをまだ子どもだと思っているようなら一人の男として意識してもらうように行動するだけだ。
右手で懐から取り出した銅でできた懐中時計を見ればちょうど昼時だ。彼女に見せたいものが見ることができるまでまだしばらく時間がある。上で待たせている彼女を誘ってお昼にしようかと思った時だった。
「……――っ」
右手の手のひらに痛みが走った。痛みをしたところを見れば、2cmほど赤い細い線が入っていた。どうやら懐中時計の装飾部分で擦ってしまったようだ。普段このようなことはないのに。
「エレナ――」
何故だか嫌な胸騒ぎがする。彼女が落とした花飾りを懐に入れて立ち上がった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
処刑回避のために「空気」になったら、なぜか冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで。
チャビューヘ
ファンタジー
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の、すれ違い溺愛物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる