アラサー令嬢の婚約者は、9つ下の王子様!?

九条りりあ

文字の大きさ
25 / 57
ライバル令嬢登場!?

12

しおりを挟む
♢ ♢ ♢







 エメラルドグリーンの瞳は真っ赤な紅色に、そして、柔らかそうな亜麻栗色の髪は薄いネイビーブルーの色へ変わっていく。着ている服もきっちりとした白色のタキシードから、黒の燕尾服へとその姿を変えた。瞳は切れ長の二重で、鼻筋が通っている。かなりの美形ではあるが、年の功は私とさほど変わらないだろう。私の目の前にいるのは、レイ君の面影を見ることはできない。

キッと彼の瞳を見返すと、彼はお手上げだとばかりに両手を上げて、両手足を縛られている私の目の前に胡坐をかいて腰を下ろした。

「“俺”の変身魔法を見破ったのは、あんたが初めてだよ」
「変身魔法?」
「そう。対象の姿形、背格好に変化させる変身魔法。対象を目視するだけで、どんなやつにだって化けれる。おまけに、俺は見た目だけじゃなくて、声まで変えれる。そこまで変化させる変身魔法を使うことができるやつは、そうそういないんだぜ?」

 そういいながら両腕を背後に回して体重をかける彼はどこか得意げに語る。そして、器用にも右手で顔の右半分を覆い、左半分だけレイ君の姿を形どる。そのまま顔の左半分に手をずらせば、彼の姿に戻った。要するにレイ君に変身魔法で化けていたらしい。

「利き手と匂いは盲点だったな。利き手の情報はクライアントから聞いていなかったし、煙の匂いは香水で消したつもりだったんだが、あんた鼻がいいんだな」

 そういって彼は肩をすぼめてみせた。そして、懐から細長い煙管を取り出した。『バレたしな、もういいだろ?』と煙管を一回転させて。

「一体、貴方は誰なの!?私を拘束して何がしたいの!?それに、レイ君に化けてた目的は何!?」

 目の前で慣れた手つきで煙管の中に刻み煙草を入れている彼に私はそう問いかけた。

わからないことが多すぎる、そう思った。すると彼は『質問が多いご令嬢だな……』と鼻で笑って口を開く。

「俺の名前は、今は『ノア』と名乗っている」
「今は?どういうこと?」
「俺は仕事なら何でも請け負う何でも屋のようなことをやっている。それで、依頼に応じて、毎回名前を変えているのさ」
「じゃあ、今回も誰かに依頼されてやっていることなの?」

 私がそう問いかけると彼は『あぁ』といって煙管に火をつけて、その煙管を口元にあてがった。そして、大きく煙を吸い込み、ゆっくりとそれを吐き出した。部屋の中に煙の匂いが充満する。

「俺が受けた依頼は、全部で4つ。一つは誰にもばれないようにあんたをこの場所に隔離すること」
「ばれないようにって……。どうやって運んだの?」

 ここがどの場所かはわからないけれども、人ひとりを運ぶのだって重労働だ。移動している際に誰かに見られないなんてことあるのか。そんな私の疑問に

「テレポーション」

彼は煙管をふかしながら何事もないように言う。

「つまりは、移動魔法さ。あんたを眠り薬で眠らせたあと、この場所へテレポートするだけ。それにここは他の場所とは違って人避けの結界魔法をかけてある。結界魔法を破るにはこの空間を外で囲ってある魔法陣を術者が解くか、この部屋自体を爆破でもすればいい。ちなみに俺は、解く気はないけどな」
「…………」
「そうふて腐れるなよ。綺麗な顔が台無しだぜ?まぁ、要するに結界魔法がかかってる今、探知魔法を使ったとしても、この場所は見つからないし、テレポーションで突然途絶えてしまったあんたの気配からこの場所を特定することはできない」
「そんな……」
「そして、二つ目はここであんたを拘束すること。それにここは城内だけれども、警備も手薄だ。あんたがいたあの塔からかなり離れている場所だしな。おまけに、この場所の周りには、俺が警備員に化けさせたクライアントの仲間がいる。万が一にもこの場所に助けは来ないし、逃げ出せたとしてもクライアントの仲間があんたを捕まえる」

 自力での脱出は不可能。それに仮にこの男の目を盗んでこの場所を抜け出したとしても、彼の仲間に見つかってしまえば一巻の終わりだ。おまけに助けまで望めそうもない。絶望的な気分で思わず拳を握りしめる私に

「三つめは、あんたに第三王子への不信感を抱かせることだ」

彼は口元を歪めて言った。

「まぁ、これは失敗してしまったんだがな」

 落胆したように肩を落として。

「どうして、そんなことを?」

私がレイ君へ不信感を抱いたからと言ってなんなんだ。この計画の首謀者の目的がわからない。すると、彼は『さぁ?』と言って首をかしげる。まるで興味など一切ないかのように。

「さぁ?って……。他に何も聞かされていないの?」
「報酬さえもらえれば俺はいい。それ以上首を突っ込む必要を感じない」
 
 本当に何も知らないようだ。では、この計画の首謀者は一体何がしたいのだろう。私を隔離、拘束して、レイ君への不信感を抱かせて、一体何になるというんだ。そんなことを思ってふとあることに気が付いた。

「じゃ、じゃあ、貴方のもう一つ受けた依頼って?」

 彼は四つあるといっていた。その以来の中に首謀者の意図があるのではと思った私は、煙管を傾ける彼の紅色の瞳を見返す。すると、彼はその紅色の瞳を細めて私を見て一言言い放った。「あぁ、俺のクライアントをあんたに化かせることだよ」と。

「私に……化けること……?」

 彼の言葉をオウム返しに繰り返した私にノアと名乗る彼は『あぁ』と首を縦に振った。

(どういうこと?私に化けて何をするつもり?)

 一介の中流令嬢である私に化けたところで他の誰かにメリットがあるとは……と思いかけたところで、はたと気が付いた。

「もしかして……、レイ君?」

(私に化けて、レイ君に何かをするつもり!?)


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処刑回避のために「空気」になったら、なぜか冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで。

チャビューヘ
ファンタジー
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の、すれ違い溺愛物語!

処理中です...