アラサー令嬢の婚約者は、9つ下の王子様!?

九条りりあ

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ライバル令嬢登場!?

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♢ ♢ ♢







庭園がある場所から半刻ほど経った頃。

「この辺りでしょうか?」

 そういって少し先を行くレイ様が立ち止まったのは、城の北側に位置する場所。この辺りは人が出入りする門はない。左手には城の塔が入り組み、右手には高い塀が城を覆うようにそびえ立っている。

レイ様の言葉に、ノアの変身魔法でエレナ・クレメンスに化けた私は心の中で笑いが止まらなかった。いい具合にレイ様をここまで連れて来れた。あとは、この女の姿であの計画を実行するだけだ。

「この辺りは警備が手薄ですが、それにしても人気がなさすぎますね」

 レイ様は『この辺りは、3人の警備がいるはずなのですが……』と自らの顎に左手の人差し指と親指をかけ何やら考え事をしているご様子。そろそろ仕掛けるには、いい頃合いかもしれない。
 
私は周囲にいる家臣に合図を送るために大きく息を吸って

「あ!レイ君、あそこに人影が!!」

この周囲に息をひそめている家臣たちに聞こえるようにレイ様に声をかけた。私の言葉に彼は振り向いた。すかさず、私は左手の建物のある一角を指さした。そこは城の塔と塔の間に出来た細い道がある。レイ様は私の指を辿って指さした先を見て、スッとエメラルドグリーンの瞳を細めた。射貫くような強い視線を向けてから、一度目をゆっくりと閉じて、私に向き直って

「では、あちらへ向かいましょうか?」

私が指し示した方へ自らの左手を指し示した。『えぇ』と頷くとレイ様は私に背を向け、あの場所へゆっくりと歩き出す。私は気づかれないようにそっとドレスの右の袖をずらして、あるものを握りしめた。

(さぁ、準備は整ったわ)





♢ ♢ ♢









 “彼女”と共にやってきたのは北側の塔が入り組み路地のようになっている場所。この場所は、南側にある門に比べ、出入りがほとんどいないため警備は手薄で人気はほとんどない。
“彼女”の言った通り薄暗い路地を進んでいると、塔で日が遮られ、吹き抜ける風は冷たく感じた。黄金色の髪を風になびかせ“僕”の後ろに付いてくる“彼女”をちらちらと見ながら歩を進めていると、わずかにザァッという砂が擦れる音が聞こえた。私はそこで歩みを止めた。

「レイ君?」
「貴女はそこから動かないで」

 不思議そうな声を上げた彼女に後ろを向いたまま手のひらを見せて静止の合図を送ると“彼女”の足音も止まった。

「そこにいるのは誰ですか?」

 10mほど先にある壁のある一帯を見据え私が声を低めて問えば、壁の辺りからクツクツと数人の男の笑い声が聞こえた。そして、『レリース(解除魔法)!』と魔法を解除する声が聞こえ、次の瞬間には

「さすが、殿下ですね」と眼鏡をかき上げながらいう青年が、

「ばれないと思ったのですが」と長い緋色の髪を一つに束ねた壮年の男が、

「どこで気が付きましたか?」と白髪交じりで初老に差し掛かった男が、

壁の前に唐突に現れた。どうやら同化魔法で壁と同化していたのだろう。けれども、どうしてか、彼らに見覚えがあった。なぜなら、彼らはこの場所の警備を任されているはずの3人だったのだから。

「靴の底で砂が擦れる音が聞こえました。大方、私が貴方の近くに行ったときに襲う算段だったのでしょうか?少し気が急いていた方がいらっしゃったようですね」

 “僕”のこの言葉に長髪の男が『殿下は用心深いようで』と首を竦めて見せた。

「さすがに、私も婚約者を攫われたとなっては用心深くもなりましょう」

 “僕”がそういうと彼は”僕”の背後を指し示して

「攫われたとは失礼なことをおっしゃる。我々はエレナ・クレメンスを攫っていませんよ」

と大仰に白髪交じりの男が答えた。そのあとの言葉を眼鏡をかけた少年が引き継いで、どこかおかしそうにこう続けた。
 
「そこにいるエレナ・クレメンスと殿下を嵌めたんですよ」と。

 その瞬間、彼の眼鏡に反射して映り込んだ浅葱色の瞳がいびつに歪んだ。
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