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王子様は誰のもの!?
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♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「.......___怪我はないですか!?」
そういってレイ君は心配そうに私を覗き込んできた。レイ君の胸から聴こえる心音が耳に心地よく、先ほどまで強張っていた身体に自由が戻ってきた。
「......____大丈夫、怪我してないよ」
私がそういえば安堵したかのように胸を撫でおろすレイ君。背に感じる彼の腕の温もりとわずかに触れる彼の柔らかな亜麻栗色のこそばゆさが夢心地のように感じてしまい、幻でもみているようで。
「.......____レイ君こそ、どうして、ここに?」
やっとの思いで口から出たのはそんな言葉。私は思わず右手で彼の頬を撫でた。
「もちろん、貴女に逢いたくて」
すると、レイ君は私の手に自らの手を重ね、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
「レナ姉にデート断られたけど、我慢できず逢いに来てしまいました」
そういっていたずらっぽく笑う彼をみて、私の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「うん、私も逢いたかった__.......」
「あれれー??コソコソ、二人で、秘密の話かいな。仲間はずれで、ボク寂しいわぁー」
そんな私たちの様子を見てか、“彼”は割って入り大げさに両手を上げて見せた。まるで私たちを品定めするかのような視線を私たちに向けてきて、居心地が悪い。
「......____あなたは一体何者ですか?」
そういいながらレイ君は私を抱いていた腕を緩めて、私を庇うように前に立ちふさがった。ついで、腰に帯びていた左手に剣を構えた。先ほどまで優しげに細められていたエメラルドグリーンの瞳は今まで見たことないほど鋭くその“男”を見ていた。
「改めまして、ガルシア王室の第三王子、レイ殿下。お初にお目にかかりますー。ボクの名前は“シモン”♪♪以後、お見知りおきを~!」
そういって恭しく礼をするシモンと名乗ったその男。レイ君もシモンの異常性に気づいたのか、怪訝な表情を浮かべた。レイ君がこの国の王子だと知っている人物は極少数のはず。レイ君を知っているということは『ガルシア』王室に所縁があるものなのだろうか。
「......____あなたの目的は何ですか?」
レイ君は剣の切っ先をシモンに向けて単刀直入に問いかけた。
「エレナはんとの逢瀬に決まっているやん♡ここで“王子様”の登場は無粋すぎやと思わへん?」
対するシモンはどこ吹く風で全く気にしたそぶりがない。シモンは吹き飛ばされた際に乱れた白銀の髪を右手で抑え、反対の方の手は腰辺りに置き、おまけに余裕そうにわずかに顎を上げていた。
「そないエレナはんが大事?」
「......___質問に答えてください」
「えー、どないしようかなー?」
剣を構え直したレイ君に対して、あざ笑うようにシモンが言う。
「......___話す気がないのなら、覚悟はいいですか?」
「覚悟って、なんの覚悟ですのん?」
シモンの言葉にレイ君が形の良い眉を顰めた。その瞬間
......__ガサッ
葉が何かに踏まれる音がして、思わず音のした方へ視線を向けた。
(誰!?増援!?)
けれども私の心配をよそにシモンの背後の木の陰からひょっこり現れたのは
「レ...イ、急にっ....____走り...___出して、どう__し_.......」
息切れをしているルーカスだった。全力疾走をしたのだろうか、額には大粒の汗が浮かんでいた。
「ルーカス!?」
私は思わず身を乗り出して、ルーカスの名を呼ぶ。
「お姉様!?レイ!?」
対するルーカスはこの異様な状況に目を丸くしていた。私とレイ君、そして対峙しているシモンを交互に見やるルーカス。そんなルーカスに
「何や、弟はんやん!」
シモンはまるで級友にあったかのような気軽さで片手を上げ、ゆらゆらと手まで振ってみせた。
「えっ...__!?」
場違いなリアクションに、一瞬、呆けた様子だったルーカスだったが
「ルーカス!援護してください!」
「あ、うん!」
レイ君の声掛けでハッとしたようにシモンを見やった。
......___まさに一触即発前の静寂。その静寂を破ったのは
「王子様ととある令嬢の“恋”の始まりは、王子様の小さな小さな恋心から始まった」
シモンのこの言葉。まるで物語の語り手のような話し方だ。おまけに、パチパチと両手で拍手までし始めた。
「そして、その小さな小さな恋心はやがて愛に変わり、ついには愛しい人と結ばれたのです」
まるで、今からこの世界で一番面白いショーが始まるとばかりに、高らかに言い放った。一体、何を始めようというのだろうか。そんな私の心配を余所にシモンは、さっきほどの語り手のような話し方ではなく、それまでの掴み取ろのない話し方でこう続けた。
「エレナはんは、王子はんの初恋の人やもんなー。大切な人やもんなー」
「い、いきなり何を言うの!?」
脈略のない、シモンの言葉に私は思わず動揺してしまう。
「大切に決まっています。この世で一番大切な人です」
動転している私に対してレイ君は、至極当たり前に答えていた。
「エレナはんしか知らへんもんなー」
「だから、なんです?」
シモンの捲し立てる言葉に一歩も引かず、レイ君は言い切る。
「......____本当、おもんない。綺麗すぎて、虫唾が走るわ~」
シモンはレイ君の言葉が気に入らないのか、不愉快そうに眉を顰めて吐き捨て、ふっと一瞬不敵に笑ったかと思うと
「綺麗すぎて、壊したくなったぁぁぁぁ!!」
紫陽花色の瞳を妖しく光らせた。そしてそのまま膝を折って地面に右手をついた。
(一体、何をするつもり!?)
今までにないほど凄みのある声に私は思わず後退りをする。
「汝を呪えぇぇぇ!忘却魔法っっっっ!!!!」
シモンが魔法を唱えるとシモンの足元に禍々しい魔法陣が展開された。シモンの白髪がその魔法陣から吹き出した風で乱れるほどで、私は堪らず眼を閉じた。
......____次の瞬間
「レナ姉!!/お姉様!!」
焦ったようなレイ君とルーカスの声が聞こえた。ハッとして目を開けたがもう遅かった。
「....___っ!?」
シモンが展開した魔法陣から飛び出した禍々しい光が私に迫っていた。
「......____さぁ、あんさんたちの物語の結末はどないなるんやろうね?」
禍々しい風が吹き荒れる魔法陣の中、シモンはあざ笑うように邪悪な笑みを浮かべていた。
「.......___怪我はないですか!?」
そういってレイ君は心配そうに私を覗き込んできた。レイ君の胸から聴こえる心音が耳に心地よく、先ほどまで強張っていた身体に自由が戻ってきた。
「......____大丈夫、怪我してないよ」
私がそういえば安堵したかのように胸を撫でおろすレイ君。背に感じる彼の腕の温もりとわずかに触れる彼の柔らかな亜麻栗色のこそばゆさが夢心地のように感じてしまい、幻でもみているようで。
「.......____レイ君こそ、どうして、ここに?」
やっとの思いで口から出たのはそんな言葉。私は思わず右手で彼の頬を撫でた。
「もちろん、貴女に逢いたくて」
すると、レイ君は私の手に自らの手を重ね、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
「レナ姉にデート断られたけど、我慢できず逢いに来てしまいました」
そういっていたずらっぽく笑う彼をみて、私の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「うん、私も逢いたかった__.......」
「あれれー??コソコソ、二人で、秘密の話かいな。仲間はずれで、ボク寂しいわぁー」
そんな私たちの様子を見てか、“彼”は割って入り大げさに両手を上げて見せた。まるで私たちを品定めするかのような視線を私たちに向けてきて、居心地が悪い。
「......____あなたは一体何者ですか?」
そういいながらレイ君は私を抱いていた腕を緩めて、私を庇うように前に立ちふさがった。ついで、腰に帯びていた左手に剣を構えた。先ほどまで優しげに細められていたエメラルドグリーンの瞳は今まで見たことないほど鋭くその“男”を見ていた。
「改めまして、ガルシア王室の第三王子、レイ殿下。お初にお目にかかりますー。ボクの名前は“シモン”♪♪以後、お見知りおきを~!」
そういって恭しく礼をするシモンと名乗ったその男。レイ君もシモンの異常性に気づいたのか、怪訝な表情を浮かべた。レイ君がこの国の王子だと知っている人物は極少数のはず。レイ君を知っているということは『ガルシア』王室に所縁があるものなのだろうか。
「......____あなたの目的は何ですか?」
レイ君は剣の切っ先をシモンに向けて単刀直入に問いかけた。
「エレナはんとの逢瀬に決まっているやん♡ここで“王子様”の登場は無粋すぎやと思わへん?」
対するシモンはどこ吹く風で全く気にしたそぶりがない。シモンは吹き飛ばされた際に乱れた白銀の髪を右手で抑え、反対の方の手は腰辺りに置き、おまけに余裕そうにわずかに顎を上げていた。
「そないエレナはんが大事?」
「......___質問に答えてください」
「えー、どないしようかなー?」
剣を構え直したレイ君に対して、あざ笑うようにシモンが言う。
「......___話す気がないのなら、覚悟はいいですか?」
「覚悟って、なんの覚悟ですのん?」
シモンの言葉にレイ君が形の良い眉を顰めた。その瞬間
......__ガサッ
葉が何かに踏まれる音がして、思わず音のした方へ視線を向けた。
(誰!?増援!?)
けれども私の心配をよそにシモンの背後の木の陰からひょっこり現れたのは
「レ...イ、急にっ....____走り...___出して、どう__し_.......」
息切れをしているルーカスだった。全力疾走をしたのだろうか、額には大粒の汗が浮かんでいた。
「ルーカス!?」
私は思わず身を乗り出して、ルーカスの名を呼ぶ。
「お姉様!?レイ!?」
対するルーカスはこの異様な状況に目を丸くしていた。私とレイ君、そして対峙しているシモンを交互に見やるルーカス。そんなルーカスに
「何や、弟はんやん!」
シモンはまるで級友にあったかのような気軽さで片手を上げ、ゆらゆらと手まで振ってみせた。
「えっ...__!?」
場違いなリアクションに、一瞬、呆けた様子だったルーカスだったが
「ルーカス!援護してください!」
「あ、うん!」
レイ君の声掛けでハッとしたようにシモンを見やった。
......___まさに一触即発前の静寂。その静寂を破ったのは
「王子様ととある令嬢の“恋”の始まりは、王子様の小さな小さな恋心から始まった」
シモンのこの言葉。まるで物語の語り手のような話し方だ。おまけに、パチパチと両手で拍手までし始めた。
「そして、その小さな小さな恋心はやがて愛に変わり、ついには愛しい人と結ばれたのです」
まるで、今からこの世界で一番面白いショーが始まるとばかりに、高らかに言い放った。一体、何を始めようというのだろうか。そんな私の心配を余所にシモンは、さっきほどの語り手のような話し方ではなく、それまでの掴み取ろのない話し方でこう続けた。
「エレナはんは、王子はんの初恋の人やもんなー。大切な人やもんなー」
「い、いきなり何を言うの!?」
脈略のない、シモンの言葉に私は思わず動揺してしまう。
「大切に決まっています。この世で一番大切な人です」
動転している私に対してレイ君は、至極当たり前に答えていた。
「エレナはんしか知らへんもんなー」
「だから、なんです?」
シモンの捲し立てる言葉に一歩も引かず、レイ君は言い切る。
「......____本当、おもんない。綺麗すぎて、虫唾が走るわ~」
シモンはレイ君の言葉が気に入らないのか、不愉快そうに眉を顰めて吐き捨て、ふっと一瞬不敵に笑ったかと思うと
「綺麗すぎて、壊したくなったぁぁぁぁ!!」
紫陽花色の瞳を妖しく光らせた。そしてそのまま膝を折って地面に右手をついた。
(一体、何をするつもり!?)
今までにないほど凄みのある声に私は思わず後退りをする。
「汝を呪えぇぇぇ!忘却魔法っっっっ!!!!」
シモンが魔法を唱えるとシモンの足元に禍々しい魔法陣が展開された。シモンの白髪がその魔法陣から吹き出した風で乱れるほどで、私は堪らず眼を閉じた。
......____次の瞬間
「レナ姉!!/お姉様!!」
焦ったようなレイ君とルーカスの声が聞こえた。ハッとして目を開けたがもう遅かった。
「....___っ!?」
シモンが展開した魔法陣から飛び出した禍々しい光が私に迫っていた。
「......____さぁ、あんさんたちの物語の結末はどないなるんやろうね?」
禍々しい風が吹き荒れる魔法陣の中、シモンはあざ笑うように邪悪な笑みを浮かべていた。
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