とある腐女子が乙女ゲームの当て馬役に転生してしまった話

九条りりあ

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それは太陽のような笑顔でした

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♢ ♢ ♢







 ある日の昼下がり。

「アリア、疲れてない?」
「大丈夫よ、ルーク」

 私はルークと二人きりで街へ降りていた。

「でも、よかったの?街へ付き合ってもらって」
「もちろんだよ。アリアのためなら、どこにだって行くよ」

 ルークは車道側に立ち、さりげなく手を引いてエスコートしてくれる。

「にしても、ハース様来れなくて残念でしたわね」
「僕的には、アリアと二人きりで来れてよかったけどね」

 エスコートしながら笑顔で見つめられ、思わずくらりとくる。
 無意識にやっているのならば、末恐ろしい。将来どれほどの女性を虜にするのだろうか。

 さすが、作中随一の小悪魔男子だ。
 私の隣を歩く絶世の美少年ことルーク・ウォーカーは私が前世でプレイしていた「Magic Engage」の攻略キャラの1人だ。
 ルークルートでのアリア・マーベルは、ヒロインである主人公に嫌がらせを続けた結果学園から追放されることになる。嫌がらせを続ける性悪女、ざまぁと誰もが思うだろう。実際、私もプレイ中思ったよ。

 いやいや、ざまぁじゃないよ。アリア・マーベルは私!!!なんてこったい。どんな神様のいたずらだ。

 前世で途中でフェードアウトせざる終えなかった私としては是が非でも今世では学び通したい。

 というわけで、ハース・ルイスでは回避できなかった出会いイベントを回避させようと奮闘した結果……。

 見事、出会いイベントクリア!!……――じゃないよ!!本来なら出会いイベントクリアは喜ばしいはずなのに!!こっちは退学がかかってるんだから!!

 あとで思い出したことだが、アリア・マーベルとルーク・ウォーカーとの出会いは彼の父の所有する教会だった。そこでルーク・ウォーカーと父マーク・ウォーカーとのいざこざに巻き込まれ、アリア・マーベルは髪を切られてしまう。父と和解することができず、自分のせいで誰かを傷つけてしまいルーク・ウォーカーは自分は化け物なのだと思い込んでしまう。そうとは知らないアリア・マーベルはルーク・ウォーカーの顔が好みだという理由で学園まで追いかけ、婚約をしつこく迫る。いやー、確かにイケメンだけどさ。第一印象大事だけどさ。ハース・ルイスもそうだけど、結局顔か!?顔なのか!?まぁ、それはさておき、話を戻そう。

 そういった一件もあってルーク・ウォーカーがアリア・マーベルを見るたびに、正確にいえば髪だが、その時のことを思い出してしまい、自己嫌悪にかられ所詮自分は「悪魔の子」なんだと孤独に走らせるのだ。自分は人とは違うもの、傷つけるもの、だったら自分を知らない誰かを傷つけても構わない。そういうふうに考えていき、多くの令嬢を自身の虜にしては捨てるを繰り返す。そうした中で、自分をしっかり持っていて凛としているヒロインに次第に心を惹かれていくのだ。ヒロインのおかげで、誰かを愛する気持ちを知っていくルーク・ウォーカーの話は作中一感動した。

 いやー、まぁ、なんていうかね……。もう少し早く思い出したかった!

 理由はわかりきってるんだけどさ。誰も興味ないっしょ、アリア・マーベルと攻略対象との出会いなんて。アリア・マーベルなんて、主人公の引き立て役、言うてなれば当て馬だからね。そんな当て馬役よりやっぱメインストーリー覚えるでしょ。しかも、アリア・マーベルのセリフの中やルーク・ウォーカーのセリフの端々で出会いが語られるしさ。やっぱり記憶に残んないでしょ。

 とはいえ、実際のストーリーと少し違うところも存在する。例えばあの場にいないはずのハース・ルイスがいたし。いや、実際アリア・マーベルとの出会いイベントの話は、ゲーム中のセリフで察するしかなかったから、もしかしたらアリア・マーベルが話していないだけで、あの場にハース・ルイスがいたのかもだけど。

 あとは父マーク・ウォーカーとの和解とか。これは確実に違うはず。なんてったって、ルーク・ウォーカー編の目玉は、アリア・マーベルが悪化させたマーク・ウォーカーとの関係の和解だ。真っすぐなヒロインの言葉に胸打たれたあの展開は本当に泣けた。

 ……悪化はさせてないはず、きっと。

 などなど。少々、実際のストーリーとは違う点が存在する。これが吉とでるか凶とでるかよくわからないが、私としてはこれ以上、攻略対象……否、私にとっては破滅の使者が増えてしまっては困る。

 だが、如何せん、アリア・マーベルとの出会いエピソードが思い出せない。

 けれども、私には一つだけ秘策があるのだ。ふふふ。そう私の秘策……それは!!

 まずは、私の秘策を知ってもらうためにも、昨日へ遡ってもらわおう。



♢ ♢ ♢






 昨日のこと。

『そういえば明日のお茶の時間、街の広間で催しがあるらしいですわね!』

 私はさきほど家庭教師のオリバーに聞いた話を屋敷のテラスで披露した。円形のテーブルに3つ紅茶カップが載っている。何でも明日の街の広場で、動物を使った芸や人の曲芸などを行うそうだ。前世でいうサーカスのようなものだろう。

『そうなの!?』

 どこか弾んだ声を出したのは私の右斜め前に座るルーク。あの事件の一件から我が屋敷に出入りするようになった。
 本来ならアリア・マーベルがウォーカー家に通い詰め、アリアに会いたくないルークは街の中をフラフラ。それが一層、ルークを孤独にさせているとは知らずに。けれど、今はどうだろう。ハース・ルイス同様に3日と開けずにやってくる。マーク・ウォーカーとの仲も良好なようで、修業の話をよくしてくれるほど。

 父と母もルークが『悪魔の子』という噂を知ってはいたが、なんとルークの父マーク・ウォーカーと私の父がフィアーバ国立学校の先輩後輩ということで、マーク・ウォーカーからの口添えもあったらしく、私が何かいうまでもなくルークを受け入れていた。私が魔力がないせいか、魔力の高いルークは、むしろ迎合されていた。っていうか、マーク・ウォーカー、お父様より年上なの!?不老者なのか。お父様より年上には到底見えなかった。恐るべし、美形一家。

『明日……ですよね』

 対して私の左斜め前に座るハース・ルイスは笑顔が固まっている。まるで、知られたくないものでも知られたかのようだ。

『それで、ですね。よかったらお二人をお誘いしようと思って』

 ハース・ルイスの様子に若干ひるみながらも、私はぱちんと両手を叩いて提案した。

 私、アリア・マーベル。
 ハース・ルイスとルーク・ウォーカーに退学に追いやられないためにある作戦を立てました。

 名付けて『ヒロインの邪魔はしないんで、退学にさせないでください作戦!』だ。


 やることは、そのままの通り。
 とにかく自分は無害だということをアピール作戦だ。もし、ヒロインが現れても私はいい友人。だから、退学させないでということで、さっそく友情を深めるために作戦決行!ちょっとせこいが、出会ってしまった今となっては、子の手しか思いつかない。
 ちょうどオリバーから耳より情報聞いててよかったと思っていると

『楽しみだね、アリア!』

 にこりと嬉しそうな笑みを浮かべたのはルークだ。ここに通うようになって当初浮かべていた暗い表情は一切見せず表情は明るい。いいことだ。そんなルークをハース・ルイスはそういってちらっと見た。

『……明日は剣の披露会がありまして』

 ルークはそんなハース・ルイスの視線に気が付いていないのか、あらぬ方向を向いている。ハース・ルイスは、ゆっくり左右に首を振った。そして、私に一気に言い募った。

『えぇ、アリアなら、きっとこの催しに興味を持つことはわかっていたんです。ですが、もし持ったとしても私は行くことができない。アリアの傍にいることができないんです。ですから、そのことを言わないようにしていたのですが』

 にこやかに言うもののなんだか穏やかではない。おまけに『披露するのは最後になっていますが、いっそのこと最初にさせてもらいましょうか』なんていているわけで……。
 私のためにそんなことまでしてもらうのは申し訳なく『では、ハース様はまたの機会にお誘いいたしますわ』そう言おうと口を開きかけた瞬間

『アリアは、僕が守りますからご安心ください』

割って入ったのはルークだ。ぴたりと止まりハース・ルイスはルークを見る。

『貴方だから安心できないんですが』

 そして一言そういった。またもや笑顔が固まる。

 え?なんで?ルーク、マーク様の修業でかなり鍛えられているし。下手なボディーガードよりも腕は確かだ。思わず言いそうになったが、その前にルークがハース・ルイスを見ずに私を見る。

『ほかの用心に任せるよりは安心できますよ。僕ならアリアを守るために何だってできますし』

 そして、“ね、アリア”と笑顔で言ってから、“ハース様は最後のトリをきっちり決めてくださいね”と付け加えた。

『そういうことを言っているのではないのですが。私はアリアと貴方が二人きりというのが解せないんですよ』
『僕としては嬉しい限りです』
『最初の頃は可愛げがあったのに。ずいぶんと逞しくなりましたね』
『それはありがとうございます。ハース様に褒められるとは光栄です。父から大切なものを守りたいのなら強くなれと日頃から言われてますからね』

 穏やかな表情を二人は浮べてはいる。けれども、背後に獅子と黒竜が見えるのは私の気のせいだろうか。

『えっと……喧嘩はよくないと思いますわ』

 剣呑な雰囲気にどうにか口を挟めば

『喧嘩ではありません』
『喧嘩じゃないから大丈夫だよ』

と二人同時にいうわけで……。なんだろう。息がぴったりなんだけれど。

『それにアリアの身辺を護衛するだけではないんですよ。気が付けばフラフラと迷いに行くアリアを見ておかないといけないんですよ』
『大丈夫ですよ。いくら目を離すとどこかに行ってしまう迷い癖があるアリアでもあの辺りは見通しもいいですし、迷いようがありませんよ』

 あれ?途中から私とばっちりじゃない?私の悪口入っていない?

『いいですか?アリアは夜の社交界で会場に戻ろうとして、明らかに会場とは逆の方向の人気のない庭に迷い込んで、光り輝く花に興味を惹かれて暗闇の中、供もつけずに一人で入るような人ですからね』
『確かに、アリアは明らかに人気がない教会の扉を平気で開けるような興味を持ったものには一直線みたいな性格ですけど、アリアが迷子にならないようにしっかり見ていますし、アリアが万が一迷ってしまっても僕が必ず見つけ出します』

 ちょっと私泣いていい?

 そうなんだよね。まぁ、二人が言っていることも正しい。だって、二人とも出会いイベント、知らないうちに始まってたし。

 それもこれも私が迷ったせいで……。残り3人いる攻略対象。思い出せないんだよな。出会いイベントのタイミングが。

 ん?でも、二人とも迷った先にいて、出会いイベントが始まったんだよな。っていうことは、逆に考えてしまえば迷わなければ出会いイベント発生しない?

『それだ―――!!』

 突然の私の大声に二人がぽかんと私を見ていた。けれども、私はそれどころではなかった。
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