とある腐女子が乙女ゲームの当て馬役に転生してしまった話

九条りりあ

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噂の騎士様のイベントが起きないように頑張るようです

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♢ ♢ ♢






「アリア様、最近顔色が優れないようですかが?」

 そう心配そうに問いかけてくるのは、メイドのミーナだ。私が「Magic Engage」のヒロインのライバル役、つまりは、当て馬キャラのアリア・マーベルであると思い出してから、はや4日。私は、メイドのミーナと揺られる馬車に乗っていた。

「……そうかしら?」

 こちとら入学前から退学フラグが発生しているのだ。のほほんと今まで通り過ごせるわけもない。

「勉学もよいですが、アリア様は根を詰めすぎです。最近は、書庫にこもってばかりおりましたし、少しは、休まれてください」
「……そうね、善処するわ」

 けれどもそれを言えるはずもなく心配するミーナを安心させるために微笑む。そして、私はミーナに気づかれないようにこっそりと息を吐いた。

『Magic Engage』の記憶を思い出してから、私の行動は早かった。

 翌朝、家の地下室にある車庫でいつもは魔法に関する本しか読み漁っていなかった私はその日からこの世界が『Magic Engage』のゲームの世界なのかどうか調べるために文献を探しに探し回った。

 その結果、思い出されるきっかにもなったハース・ルイスのルイス家は、代々この国を守る騎士の家系であったり、莫大な魔力を保持したことにより「悪魔の子」と呼ばれることになるルーク・ウォーカーの生家、ウォーカー家もあったり、この国の王の側近で有能夫婦で知られるクラーク家の名前も見つかったり、魔法薬学の第一人者がホワイトだというのがわかったり、著名な画家のアーロンの絵画も我が家にあったり、とにかくこの世界が「Magic Engage」の世界を裏付ける証拠ばかりが見つかってしまったのである。

 とどのつまり、私は、ヒロインをいじめる当て馬キャラの「アリア・マーベル」で、どのルートも最終的にはヒロインに対する陰湿ないじめが発覚して学園を退学になる。

 その後のアリア・マーベルの行方は誰も知らないという。アリア・マーベルだけ恐ろしい結末に。アリア・マーベルだけ、Bad End 不可避。オゥ、マイゴット!なんてこったい。

 これだけで、正直脳内のキャパがオーバーブレイクしそうなのに……。

「本日の社交界には、たくさんの方々が来るそうですよ。その中でも、アリア様と同じく御年14才のハース・ルイス様は、とても紳士的な方だそうですし「英明のナイト」と言われている方だそうで、強化魔法を使える希有な才能の持ち主だとのこと。アリア様は魔法が本当に好きですから、ぜひお話なさってください。興味深い話が聞けると思いますよ」
「……そうね、ありがとう」

 励ますようにいうミーナに力なく礼を言う。その説明は、4日前に、オリバーから説明を受けたよ。うん。というか、そもそも私の悩みの原因はこれなのだ。

 ハース・ルイス。
 この「Magic Engage」の攻略対象の1人。金髪碧眼の王道の騎士様だ。何でも、簡単にこなしてしまう、いわゆる天才肌の彼は、他の人が一生懸命努力して行おうとすることもできてしまうため、努力することを無駄だと感じている。周りも天才肌の彼に対して、何でもできると思っているため、過度な期待を寄せる。その期待を難なくこなしてしまうほどの天才である彼は、どこか無機質な日々を送っていた。期待は、ただのノルマ。それをこなすだけの力が彼にはあったのである。

 そんな彼は、当然の如くフィアーバ国立学校に入学しヒロインと出会う。そして、できないものを一生懸命努力で補おうとしているヒロインの姿に次第に惹かれていくのである。

 まぁ、私は別キャラの名前に置き換えてプレイしていたんだけどね!

 イケメンキャラ同士の恋愛……、いや、本当、尊い。2次創作、本当にうまい。某つぶやきサイトで流され来たイラストにハートを投げまくったり、神絵師様のブログの絵を見て、液晶の画面の前で悶えていたあの日々が懐かしい。

……―ーと、ごほん!まぁ、これ以上語ると話題が大幅に逸れそうなので、ここで軌道修正しておこう。

 そのままヒロインとハース・ルイスがすぐにゴールインするだけならば、乙女ゲームとは言えないだろう。そう!つまり!乙女ゲームの性質上、ストーリーを盛り上げるために攻略対象をヒロインと奪い合うキャラクターが存在するのだ。そのキャラクターこそが、「アリア・マーベル」なのである。

 ハース・ルイスルートの場合は、確か「アリア・マーベル」とハース・ルイスはとある社交界で出会うはず。社交界で出会ったときのエピソードは、アリア・マーベルに興味がなかったから、詳しくは忘れてしまったが、ハース・ルイスの容貌と紳士的な振る舞いに、傲慢知己なお嬢様育ちの「アリア・マーベル」は、一目惚れ。以来、フィアーバ国立学校に入学するまで、しつこく婚約を迫るのである。

 もちろん、このルートでもヒロインとハース・ルイスが婚約する前に邪魔をしようとしたところで、すべての悪事が明るみになり学校を退学になっている。そして、アリア・マーベルの行方は誰も知らない……ちゃんちゃん。

……―ーじゃないわよ!!!それでは、非常に困る!!

 何度もいうが、アリア・マーベルは私なのだ。なぜなら、前世では通り魔に遭って刺されて死んでしまった私は、今度の生こそ、学校で学び通したいのだ。それは、是が非でも。

 というわけでアリア・マーベルである私は社交界で「ハース・ルイス」と出会わなければ、そのようなことにはならないのではないかと思い立った。根本を断つとはこのことよ!

 つまり!!
 ハース・ルイスが来る社交界に行かなければ退学Endにならないのよ!!

 と思っていたのがついさっき。

「それにしても、旦那様と奥様は本当に仲がよろしいですね」
「今回は、風邪を引いたお母様の看病をお父様がして、今度はお父様が風邪を引いて、お母様が看病しているのよね」

第1の攻略対象「ハース・ルイス」、社交界の出会いイベント回避できず!!


 まぁ、要するに母の風邪が父にうつったのである。お父様に頼んで今回の社交界に行かないように手を打っていた!けれども、父は病に倒れ、母は病み上がりだ。

 父の古くからの友人が開く社交界だから、「マーベル家」から誰もいかないのは失礼に当たると言うことで、私一人が行くことになった。がってむ!なんてこったい!!

 とまぁ、悔やんでもしかたがない。なるべく、影を薄くして目立たないように行動するしかない。そうね、森の中にいる小動物並みに息をひそめておくとするわ。

 間違っても、ハース・ルイスと遭遇しないわ!と決意を込めて心に誓っていると、私が緊張していると思ったのだろう。私を安心させるように微笑みながらミーナが話題を振ってきた。

「そういえば、旦那様と奥様は、社交界で出会われて、婚姻なさりましたからね。今回の社交界に、もしかしたら、アリア様の将来の伴侶となる方がいらっしゃるかもしれませんね」
「それはない、絶対に」

私は、それに対してきっぱりそう答えた。
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