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第五話 孤独を照らす花火
21.花火大会会場
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―賢知―
日がだいぶ短くなったなと思いながら、堤防の上から人混みを見下ろす。
小さい島だが、花火大会となると島中から人が集まってくるらしい。俺みたいに、近くの島から来ている人もいるのかも知れないが。
「たそがれてるな」
声と共に足音が近づいてくるが、誰なのかは分かってるので振り向かない。
「……立花達はどうしたんだよ」
祐輔を花火に誘っていた女子の名前を出す。
今日は祐輔と俺と、同じ塾に通う女子二人の計四人で、淡海島の花火大会に来ていた。
「トイレだってよ。二人とも浴衣だから、長くかかると思って置いてきた。場所は確保してあるから、花火始まったらそこ行けば落ち合えるだろ」
手にしたイカ焼きを齧りながら、祐輔は俺の隣に立った。
「ずっとそうやってスマホ見てんの」
「……」
無言で手にしたスマホの画面に触れる。何の通知も着信もない。あったら、こんな風に手汗で濡れるほど強く握りしめたりしていない。
「まだ期待してんの」
ため息混じりの声に、意地になって言い返す。
「来るかも知れないだろ」
「んなわけないって」
「そんなの分からない」
「もう連絡先、捨てられたんじゃね」
容赦ない祐輔の指摘に、心が揺れた。
「……そんな事ない」
声が弱る。否定には何の根拠も無い。勝手に俺が期待して、勝手に落胆しているだけだ。
そんな事は、分かってる。
「もう諦めろって」
祐輔が肩を叩いてくる。
「そもそも年が違い過ぎんだよ、一回りって」
「……一回りの年の差の、何が問題なんだよ」
スマホを握りしめる手に、力がこもる。
「年齢なんか関係ないだろ」
ちげえよ、と呆れた声が返ってきた。
「立場の問題だろ」
見ろよ、と祐輔は人がひしめく花火会場の方を顎でしゃくった。
「ここの会場、何人いるか知ってる?」
「……知らない」
「千人弱だってさ。ほぼこの島の人口と一緒だよ」
言われ、改めて人混みを見渡す。
ざっくりブロック分けされているが、ビニールシートで場所取りした家族連れや、友人同士らしき集まり、子ども達のグループなどがひしめきあって見える。
確かに多いが、これが島全体の縮図だと考えたら、自分が住む潮路島の人口とは比較にならない。本当に小さな島なのだ。
「ここから見渡せる程度の人数しか住んでないような、こんな小さな島でさ。一人で店やってるような人に、おかしな噂立てるわけにはいかないだろ。……男と付き合ってるとか。しかもそいつは、未成年だとか」
「……」
「良かったじゃん、間違い起こす前で。お前がこれ以上手出してたら、あの人犯罪者になってたんだぜ?」
祐輔が放つ正論一つ一つが、不安でひび割れた心に突き刺さる。
―十七歳だと明かした瞬間の、響也さんの打ちひしがれた様な表情が脳裏に浮かぶ。
関係ないと思っていた。年の差なんてどうにもならないし、年上だったら恋愛対象に見てはいけないとか、そんな概念は俺の中には無かった。
……祐輔の言うことは、正しい。
俺が勝手に惚れただけ。
連絡先を押し付けたのも、きっと響也さんを困らせただけ。
部屋に上げてもらったからっていけると勘違いして、相手のトラウマを踏み荒らして、迷惑をかけ、それでもまだ期待してる。
踏みとどまるべきは、俺の方だ。
だけど―。
「……まだ、聞いてない」
「え?」
「響也さんの気持ち、まだ聞いてないんだって」
無言を貫くスマホをポケットにしまう。
「行ってくる」
「は?どこに……おい、賢知っ」
戸惑う祐輔の声を振り切り、港の方角へ向かって駆け出す。
―全身が震えるような重い破裂音と、人々の歓声が夜空に弾けた。
日がだいぶ短くなったなと思いながら、堤防の上から人混みを見下ろす。
小さい島だが、花火大会となると島中から人が集まってくるらしい。俺みたいに、近くの島から来ている人もいるのかも知れないが。
「たそがれてるな」
声と共に足音が近づいてくるが、誰なのかは分かってるので振り向かない。
「……立花達はどうしたんだよ」
祐輔を花火に誘っていた女子の名前を出す。
今日は祐輔と俺と、同じ塾に通う女子二人の計四人で、淡海島の花火大会に来ていた。
「トイレだってよ。二人とも浴衣だから、長くかかると思って置いてきた。場所は確保してあるから、花火始まったらそこ行けば落ち合えるだろ」
手にしたイカ焼きを齧りながら、祐輔は俺の隣に立った。
「ずっとそうやってスマホ見てんの」
「……」
無言で手にしたスマホの画面に触れる。何の通知も着信もない。あったら、こんな風に手汗で濡れるほど強く握りしめたりしていない。
「まだ期待してんの」
ため息混じりの声に、意地になって言い返す。
「来るかも知れないだろ」
「んなわけないって」
「そんなの分からない」
「もう連絡先、捨てられたんじゃね」
容赦ない祐輔の指摘に、心が揺れた。
「……そんな事ない」
声が弱る。否定には何の根拠も無い。勝手に俺が期待して、勝手に落胆しているだけだ。
そんな事は、分かってる。
「もう諦めろって」
祐輔が肩を叩いてくる。
「そもそも年が違い過ぎんだよ、一回りって」
「……一回りの年の差の、何が問題なんだよ」
スマホを握りしめる手に、力がこもる。
「年齢なんか関係ないだろ」
ちげえよ、と呆れた声が返ってきた。
「立場の問題だろ」
見ろよ、と祐輔は人がひしめく花火会場の方を顎でしゃくった。
「ここの会場、何人いるか知ってる?」
「……知らない」
「千人弱だってさ。ほぼこの島の人口と一緒だよ」
言われ、改めて人混みを見渡す。
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確かに多いが、これが島全体の縮図だと考えたら、自分が住む潮路島の人口とは比較にならない。本当に小さな島なのだ。
「ここから見渡せる程度の人数しか住んでないような、こんな小さな島でさ。一人で店やってるような人に、おかしな噂立てるわけにはいかないだろ。……男と付き合ってるとか。しかもそいつは、未成年だとか」
「……」
「良かったじゃん、間違い起こす前で。お前がこれ以上手出してたら、あの人犯罪者になってたんだぜ?」
祐輔が放つ正論一つ一つが、不安でひび割れた心に突き刺さる。
―十七歳だと明かした瞬間の、響也さんの打ちひしがれた様な表情が脳裏に浮かぶ。
関係ないと思っていた。年の差なんてどうにもならないし、年上だったら恋愛対象に見てはいけないとか、そんな概念は俺の中には無かった。
……祐輔の言うことは、正しい。
俺が勝手に惚れただけ。
連絡先を押し付けたのも、きっと響也さんを困らせただけ。
部屋に上げてもらったからっていけると勘違いして、相手のトラウマを踏み荒らして、迷惑をかけ、それでもまだ期待してる。
踏みとどまるべきは、俺の方だ。
だけど―。
「……まだ、聞いてない」
「え?」
「響也さんの気持ち、まだ聞いてないんだって」
無言を貫くスマホをポケットにしまう。
「行ってくる」
「は?どこに……おい、賢知っ」
戸惑う祐輔の声を振り切り、港の方角へ向かって駆け出す。
―全身が震えるような重い破裂音と、人々の歓声が夜空に弾けた。
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