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第十三話 覚悟
scene31 タイムリミット
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ー朔也ー
目が覚めると、天井が真っ白だった。
ベッドのシーツが冷たい。微かな消毒の匂いが鼻を掠め、ここが病院であることに気がつく。
胸元に触れると、見慣れた電極がくっついていた。頭上では心電図のモニターが動いている。まるで危篤の重症患者だ。
左手を動かすと、何かに触れた。
どうにか首を動かして見てみると、ベッドに突っ伏すようにして、名木ちゃんが眠っていた。
髪の毛を撫でる。すぐに気がついたのか、名木ちゃんは弾かれたように顔を上げた。
「桃瀬さん……!」
はらはらと涙をこぼしながら、名木ちゃんは覆い被さるようにして抱きついてきた。
「良かった……っ!」
「何……俺、どうしたんだっけ?」
名木ちゃんの体を受け止めながら、必死で記憶を巻き戻す。
名木ちゃんと、ソファで寝たところまでは覚えている。
その後の記憶が、無い。
「気がついたか」
聞き覚えのある声がして首を巡らすと、世良が険しい表情で病室に入って来たところだった。
「世良……俺、何で病院にいるの?」
するといきなり、アホか!、と怒鳴られた。
「無茶するな、ってあれ程言っただろ!セックスの最中に発作起こして、泡食ったこの子が救急車呼んだんだよ。覚えてないのか?」
体を起こした名木ちゃんの顔が、首筋まで真っ赤になる。
「えー……まじ。俺、カッコ悪」
「馬鹿言ってんじゃねえ、死ぬとこだったんだぞ」
世良は吐き捨てるようにそう言った後、ちょっと席外してくれ、と名木ちゃんを病室から追い出し扉を閉めた。
「ったく。どこかのボンボンと別れたと思ったら、まさか透人チャンと付き合ってるとはね」
世良は手元のカルテをめくりながらため息をついた。
「え。世良、名木ちゃんと知り合いなの?」
「知り合いというか、俺の友達と付き合ってたはずなんだけどな。それで何度か会ったことがある」
そう言われ、涼しげな目元が印象的な男の顔を思い出す。
「うわー、まじか。世間狭いな……」
「軽口叩くのはここまでにして、真面目な話するぞ。桃瀬」
言葉通りに、世良の顔から笑みが消えて真剣な表情になる。
「手術を受けろ。もう無理だ、時間が無い」
「……そっか」
軽く息をつき、胸元に触れる。
規則正しく鼓動を刻んでいるのに。俺の心臓はまるで、安全装置の外れた爆弾だ。
「世良」
「何だ」
「少しだけ、時間くれない?」
目が覚めると、天井が真っ白だった。
ベッドのシーツが冷たい。微かな消毒の匂いが鼻を掠め、ここが病院であることに気がつく。
胸元に触れると、見慣れた電極がくっついていた。頭上では心電図のモニターが動いている。まるで危篤の重症患者だ。
左手を動かすと、何かに触れた。
どうにか首を動かして見てみると、ベッドに突っ伏すようにして、名木ちゃんが眠っていた。
髪の毛を撫でる。すぐに気がついたのか、名木ちゃんは弾かれたように顔を上げた。
「桃瀬さん……!」
はらはらと涙をこぼしながら、名木ちゃんは覆い被さるようにして抱きついてきた。
「良かった……っ!」
「何……俺、どうしたんだっけ?」
名木ちゃんの体を受け止めながら、必死で記憶を巻き戻す。
名木ちゃんと、ソファで寝たところまでは覚えている。
その後の記憶が、無い。
「気がついたか」
聞き覚えのある声がして首を巡らすと、世良が険しい表情で病室に入って来たところだった。
「世良……俺、何で病院にいるの?」
するといきなり、アホか!、と怒鳴られた。
「無茶するな、ってあれ程言っただろ!セックスの最中に発作起こして、泡食ったこの子が救急車呼んだんだよ。覚えてないのか?」
体を起こした名木ちゃんの顔が、首筋まで真っ赤になる。
「えー……まじ。俺、カッコ悪」
「馬鹿言ってんじゃねえ、死ぬとこだったんだぞ」
世良は吐き捨てるようにそう言った後、ちょっと席外してくれ、と名木ちゃんを病室から追い出し扉を閉めた。
「ったく。どこかのボンボンと別れたと思ったら、まさか透人チャンと付き合ってるとはね」
世良は手元のカルテをめくりながらため息をついた。
「え。世良、名木ちゃんと知り合いなの?」
「知り合いというか、俺の友達と付き合ってたはずなんだけどな。それで何度か会ったことがある」
そう言われ、涼しげな目元が印象的な男の顔を思い出す。
「うわー、まじか。世間狭いな……」
「軽口叩くのはここまでにして、真面目な話するぞ。桃瀬」
言葉通りに、世良の顔から笑みが消えて真剣な表情になる。
「手術を受けろ。もう無理だ、時間が無い」
「……そっか」
軽く息をつき、胸元に触れる。
規則正しく鼓動を刻んでいるのに。俺の心臓はまるで、安全装置の外れた爆弾だ。
「世良」
「何だ」
「少しだけ、時間くれない?」
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