ようこそ、占い喫茶オラクルへ!

詩方夢那

文字の大きさ
6 / 35

第六話 折パイ式タロット講座

しおりを挟む
 明日歌の汗が引いた頃、フトゥールは机を片付け、前日と同じ様に青いヴェルヴェットのクロスを広げた。
「よく使う展開法スプレッドをまずは三つ教えるわね」
 シャッフルされたカードの山がひとつ、クロス上に出来あがる。
「まずはワンオラクル。今日の運勢が知りたい、という人向けに、零番から二十一番までのだいアルカナ二十二枚で占う方法。解読が難しいかもしれないけれど、今日一日の指標としての大雑把な物だから、難しく考えないで。問題に直面しそうなら、もう一枚、山から補助カードを引いて、それを対策として解読して。注意としちゃ、カードをお守りとして下さいっていうお客が居るけど、絶対にカードには触らせない事。ワンオラクルでも開運スイーツサービスがあるから、そっちに誘導して」
「はぁ……」
「で、次からはしょうアルカナ五十六枚を入れた、七十八枚をフルに使った方法よ」
 フトゥールはカードを並べ直し、全てのカードのシャッフルをする。
「これから見せるのはファクターリーディング。二枚のカードを使って、今の問題を読み解くと同時に、それに対する原因から解決策を探す方法。何となくついていないと言うお客に勧める方法で、現状理解に使う方法。カードはカットしたらふたつの山にして、今の問題とその原因についてのカードを引いて。補助カードはそれぞれに引いてね」
「なんだか、難しいですね……」
 明日歌は渋い表情で呟く。
「現状とその障害になっている事をカードから読み説くだけだから、難しく考えないで。原因が分かれば、解決策が見えてくるはずだから、原因が知りたいお客の為の占い。解決策が必要なら、別の展開法があるから、問題の本質を見極めた上で、解決までしたいと言うお客には使わないでね」
 フトゥールはカードをひとつの山に整える。
「次が一番よく使う展開法、タイムラインリーディングよ」
 カードが三つの山に整えられた。
「何かの問題について、過去、現在、未来の状況をカードから読み説く方法。補助カードはそれぞれに引けるけど、私は解決策の為には引かないわ。あくまで、現状を解読する為の方法。特にネガティブな未来が示された時には、そのカードが示す“最悪のシナリオ”を回避する事を考える、そういう方法」
「あの、それって、二枚のカードの占いとの違いに意味を感じないんですけど」
「んー、問題の原因が知りたいならファクター、問題の行く末を知りたいならタイムライン……どうしてこうなったかを知るのと、これからどうなるかを見るのが差、と言えば分かる?」
「そう言われたら、なんとなく……」
「じゃ、次は解決策までまとめて読む方法よ」
 フトゥールは再びカードをひとつの山にして、三つの山を作り直す。
「これから見せるのは、ピラミッド・トライアングル。底辺の三枚をタイムラインとして、二段目の二枚は過去から現在に至るまでに生じた障害と、現在から未来に生じる障害、頂点が未来への解決策。これもよく使う展開法。並べる時には、左の山から順にカードを引いて、両脇から二段目、最後は中央から引いてね。あと、タイムライン以外は基本的に残った山から適当に補助カードを引いてね」
「どういう時に使うんですか?」
「ある問題について、過去から未来を見通した上で解決策が欲しい、という時。普通はタイムラインから読み説くけど、過去の出来事に於ける障害がある時や、お客自身が考え過ぎている時にはこれにして。ただ、失敗したらその時点で占いは止めた方がいいわ。問題の推移を見守る事も時に必要だから。もし、お客が不安だというなら、代わりに今日の運勢を占うか、開運スイーツの方に回してあげて」
 明日歌は色々と詰め込まれ、何がなんだか、そろそろ分からなくなっていた。
「ま、手順は全部手順書に書いてあるから、後でそれを読んで。別に、占いの時に手順書を見てはならないわけでもないし。勿論、集中が切れるから覚えているに越した事は無いけど、簡略化した手順書もあるから、そう思い詰めないで」
 フトゥールが、紅茶でも入れてくるわと席を立とうとした時、エレベーターが上がって来た。
「あら、出来たみたい」
 フトゥールはエレベーターの方に向かう。すると、エレベーターを降りて来た白いエプロンの女は、出来あがったクッキーをフトゥールに手渡した。
「明日の分、ひとまずねこちゃんで作っておきましたー」
「ありがとう」
 白いエプロンの女はエレベーターに、フトゥールは元居た席に戻る。
「使い魔のしろが出来あがったわよ」
 明日歌が見せられたのは、猫耳の生えた、比率的には二等身の、胴体のバランスは、胴体の方が若干多めの、間抜けな人形型クッキーだった。
「明日からはこのクッキーを箱に入れて置いておくから、そこから聞こえる使い魔の声をよく聞いて、代弁してね」
 明日歌は此処に来て、漸く自覚した。
 此処が普通の場所ではない事を。



 八月十七日。
 午前十一時前に店に行くと、玄関は開いていた。
「来た来た」
 フトゥールは待ち構えていたらしく、カウンター席から玄関に向かう。
「えっと、今日もよろしくお願いします」
 明日歌は頭を下げるが、フトゥール首を傾げる。
「あら、あなた、まだ何か聞きたい事があるの?」」
「え……」
 明日歌はフトゥールの言う事が理解出来なかった。
「あのさ、今日はあなたに、後はよろしくって言う為に待ってただけなの」
「え……えぇ? ちょ、ちょっと待って! 私、とてもじゃないけど」
「大丈夫、助手は残してあるから」
 フトゥールはカウンターを見遣る。明日歌も同じ方を見ると、其処には黒いマントが座っていた。
「……まさか」
「死神のプルート。魔界の住民相手に困ったら助けてくれるわ。それと、タロットルームのクッキーにはタロットの使い魔が待っててくれるから、基本的に使い魔に従ってね。あ、上に蛇の奥方がドレスを用意してくれているから、着替えてね。それじゃ、二週間ほどよろしく」
 フトゥールは満面の笑みを浮かべ、ヴェールをひるがえすと、関係者専用になっている地下への階段へと進んでいった。
「地下は魔界との連絡通路を兼ねてるんだ。ボクがキミの魂を回収する時にも、あそこを通るんだよ」
 無邪気な声が、不意に彼女を現実に連れ戻す。
 ――後、一ヶ月……。
 不思議と未練は無かった。ただ、良く分からなかった。死ぬとは、どういう事なのか。
「さ、上に行って、蛇のおばさんがドレス作ってくれてるから」
「……え、つ、作った?」
 急激に引き戻された現実は、現実離れしていた。
「そ。あ、でも人間が作るのとは違うから、気にしないで、さ、上行こう」
 席を離れたプルートは明日歌の手を掴み、エレベーターに向かった。
「ちょ、ちょっと、これ本当に動くの?」
「もちろん。中身はちゃんと点検してもらってるから大丈夫ー」
 透明な籠が、鳥籠の中を上へと進む。どうやら、内側の鳥籠は内装だったらしい。
 三階に着き、テーブルのフロアに入ると、テーブルが少しかわされ、一体のトルソーが置かれていた。
「あれが蛇のおばさんのドレス、凄いでしょ?」
 用意されていたのは、丈が少し長めで、深い紫色の、ワンピースよりも少し華やかなドレスだった。
「本当に、あれ、着るの?」
 明日歌はプルートを見遣る。
「嫌? 似合うと思うんだけどなー、ヴェールもあるし」
「べ、ヴェール?」
「うん。フトゥールがいつも被ってるでしょ? キミにも似合うと思うけど?」
 明日歌は改めてドレスを見る。
(あぁ、マジでやるんだな……)
「さ、ブラインド開ける前に着替えて」
 プルートは笑って階段を下りて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...