幻の宿

詩方夢那

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幻の宿

第十幕 備忘録

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平成三十年七月六日
 平成三十年七月六日午後二時、△△市××地区私有地山中。
 三十三年前の六月、豪雨によって生じた土砂崩れにて亡くなった作家・京宮雅彦先生の弟さん並びにその奥様、そして、奥様が身ごもっていたお子さんの三十三回忌に伴う弔い上げの法要が営まれた。
 三十三回忌法要は既に執り行われているが、土地所有者が余命宣告を受けた事から、土地を手放す為に、京宮先生へ一連の供養を依頼されたとの事。
 法要は滞りなく執り行われ、かつて桃源楼が存在した山の因縁に終止符が打たれたと思われた。

 だが、実際は違っていた

 昨夜、私達が経験した怪異を突きとめようと、法要後に周囲を探索したジャングル・ウォーカーズのメンバーは古い車両と白骨死体を発見した。
 そして、山を下り、京宮先生にお話を伺っていた私達もまた、私の友人が不審車両(おそらくはその中の死体をも予見していた)を発見し、警察へ通報した。

 藪蚊やマムシの危険、時間的に日没へと向かう事から(山あいであり、日が陰りだすと非常に暗い為)警察からの事情聴取は真谷寺に近い旅館・蓮華庵にて行われた。
 私はそのまま旅館に宿泊する事となり、友人と共に、ある事件について京宮先生から聞く事となった。

 まず、私の友人が発見した車両は、四日前から行方が分からなくなっている女性に関連し、警察が重要参考人として行方を追っていた男性の所有している車両で、公開されていた同型車両の写真と一致していた。
 中からは二人の遺体が発見されたらしく(この時点で私達は移動していた車両へ戻り、警察の指示でお寺へ戻った)、おそらく、運転席の男性は重要参考人の男性。トランクから発見された遺体は、行方不明の女性だろうとの見立て。
 そして、その女性は、やはり私と大学の同級生だった女性だろう。行方不明になっていたのが、その女性なのだから。

 次に、ジャングル・ウォーカーズの方々が発見した古い車両と白骨死体。
 これに関しては、私が見た昭和六十年の新聞の話と、美琴が見た出っ歯の男(おそらく新聞で見たのと同一人物)の話から、先生はある事件について心当たりがあると調べて下さり、知る事となった。
 事件が明るみになったのは昭和六十年(三十五年前)で、当時はOL失踪事件としてセンセーショナルな報道がなされていたと言う。
 行方が分からなくなった女性は都会で働くOLだったが、ある骨董店経営者と金銭トラブルがあり、二人とも行方が分からなくなったとの事。その後の報道の痕跡を見ると、痴情のもつれがあったのかもしれない。
 当時配布されたチラシもネット上に残されており、それを見て、私は戦慄した。 
 あの夜、私の腕を掴んだ女性は濃い緑色のワンピースを着ていた様に思ったが、チラシに残る写真に写っていたのは、当時流行りのシルエットをした、濃い緑色のワンピースを着た髪の長い女性で、失踪当日に着用していた可能性がある服装として紹介されていた。
 ……おそらく、御遺体はそれを身に着けていたのだろう。
 そして、その無念が……私を呼ぼうと、したのだろう。

 なお、ジャングル・ウォーカーズの方々が発見した車両は、高所から落ちた様な形で残されていたという。
 京宮先生曰く、建物の裏手に抜ける山道があった為、そこから飛び降りたのだろうとの事。
 土砂崩れがあった以前にそんな事がありながら、当時御存命だった夫妻が気付かなかった事が不思議ではあるが、三十五年前には夫妻の養親が相次いで他界された為、山を下りる事も多かったらしく、それ故に発見されず、土砂崩れの後にも、建物が全壊し、二人が飲み込まれた事にのみ関心が向かった事から、土砂崩れの直撃を免れる絶妙な位置関係にありながら、発見されなかった原因だろうと推測されており、私もそうであろうと考える。
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