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平成三十年八月十四日(仏滅)
第十二幕 盂蘭盆会
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「皆無事に遊べてるかなー」
鈴子は道の駅でソフトクリームを頬張りながら、港からの運転で火照《ほて》った体を冷やしていた。
「一応、猿が出たらクラッカー鳴らせって、パーティーグッズのクラッカーは持ってきたみたいだけどー」
彼らのSNSを眺めながら、美琴は黒いブラウスの襟を広げる。
「もー、美琴も着替え持ってくればよかったのに」
「ばか、魔女ってのはいつだって黒い正装を……」
「正装もなにも、そこまで胸広げてちゃ、何もないわよ」
美琴は観念した様に溜息を吐いた。
「食べたら上に行ってみるかー……」
あの遠征では何も出来なかったジャングル・ウォーカーズのメンバー達だったが、せめて△△市で何か思い出が作れないかと嘆いていた。
そこで、市内の海岸に行くか、山のアスレチックに行くか、それなら動画が作れるだろうと鈴子は言った。
その結果、約一ヵ月半を経て、彼らは別のメンバーも同行しての遠征を実行した。
今回は真夏の山奥、それも、猪や猿が出るかもしれないある意味危険なアスレチックと公園をめぐるという企画である。
「でも、外出るの?」
「鯉に餌撒く所は涼しいわよ」
遠く聞こえる蝉の声が、鈴子の耳にはアスレチック広場で騒ぐ若者達の声の様にも思われた。
「……あ」
ふと、顔を上げた鈴子は、壁に飾られた一枚の絵画に気付く。
鈴子は徐に立ち上がり、カウンターの奥に立つ女性に声を掛けた。
「すみません……」
女性は気さくな笑顔で鈴子に答えた。
「あの……あそこの水彩画なんですけど……」
「あぁ、あれね。私が持ってきたのよー、ほら、なんだか殺風景でしょ?」
「確かに、あの一枚で、随分明るく見えますね」
「褒めてもらって嬉しいわ」
女性は照れ臭そうに笑う。
「あれって、どういう作家の作品なんですか?」
「あぁー……それがねぇ、分からないの。主人が知り合いづてに貰って来た物なんだけど……あなた、何か知ってる?」
「確証はないんですけど、ちょっと、知った作家の作品に、似ている様な気がして……」
「それ、有名な人?」
「多分……今では、そのお兄様の方が有名ですけど……」
鈴子は壁の水彩画を見上げ、作者と思しきその画家の名を女性に告げた。
「へぇ……不思議ねぇ。京宮雅彦って、うちの娘が随分好きで、もう、何冊も本を買ってたわ……」
女性はカウンターを出て、まじまじとその絵画を見上げる。
鈴子が再びその絵画を見上げた時、絵画の少女は笑った。
(え……)
そして、それまでは気に留めていなかった、小さなサインを凝視した。
――1985.6 to my daughter
「鈴」
呼ばれ、鈴子は振り返った。
「鯉の池、行くよ」
「う、うん。あ、ごちそうさまでした」
鈴子は女性に礼を言って、美琴の後を追いかけた。
背中に、蝉の声にかき消されてゆく、幼女の笑い声を聞きながら。
鈴子は道の駅でソフトクリームを頬張りながら、港からの運転で火照《ほて》った体を冷やしていた。
「一応、猿が出たらクラッカー鳴らせって、パーティーグッズのクラッカーは持ってきたみたいだけどー」
彼らのSNSを眺めながら、美琴は黒いブラウスの襟を広げる。
「もー、美琴も着替え持ってくればよかったのに」
「ばか、魔女ってのはいつだって黒い正装を……」
「正装もなにも、そこまで胸広げてちゃ、何もないわよ」
美琴は観念した様に溜息を吐いた。
「食べたら上に行ってみるかー……」
あの遠征では何も出来なかったジャングル・ウォーカーズのメンバー達だったが、せめて△△市で何か思い出が作れないかと嘆いていた。
そこで、市内の海岸に行くか、山のアスレチックに行くか、それなら動画が作れるだろうと鈴子は言った。
その結果、約一ヵ月半を経て、彼らは別のメンバーも同行しての遠征を実行した。
今回は真夏の山奥、それも、猪や猿が出るかもしれないある意味危険なアスレチックと公園をめぐるという企画である。
「でも、外出るの?」
「鯉に餌撒く所は涼しいわよ」
遠く聞こえる蝉の声が、鈴子の耳にはアスレチック広場で騒ぐ若者達の声の様にも思われた。
「……あ」
ふと、顔を上げた鈴子は、壁に飾られた一枚の絵画に気付く。
鈴子は徐に立ち上がり、カウンターの奥に立つ女性に声を掛けた。
「すみません……」
女性は気さくな笑顔で鈴子に答えた。
「あの……あそこの水彩画なんですけど……」
「あぁ、あれね。私が持ってきたのよー、ほら、なんだか殺風景でしょ?」
「確かに、あの一枚で、随分明るく見えますね」
「褒めてもらって嬉しいわ」
女性は照れ臭そうに笑う。
「あれって、どういう作家の作品なんですか?」
「あぁー……それがねぇ、分からないの。主人が知り合いづてに貰って来た物なんだけど……あなた、何か知ってる?」
「確証はないんですけど、ちょっと、知った作家の作品に、似ている様な気がして……」
「それ、有名な人?」
「多分……今では、そのお兄様の方が有名ですけど……」
鈴子は壁の水彩画を見上げ、作者と思しきその画家の名を女性に告げた。
「へぇ……不思議ねぇ。京宮雅彦って、うちの娘が随分好きで、もう、何冊も本を買ってたわ……」
女性はカウンターを出て、まじまじとその絵画を見上げる。
鈴子が再びその絵画を見上げた時、絵画の少女は笑った。
(え……)
そして、それまでは気に留めていなかった、小さなサインを凝視した。
――1985.6 to my daughter
「鈴」
呼ばれ、鈴子は振り返った。
「鯉の池、行くよ」
「う、うん。あ、ごちそうさまでした」
鈴子は女性に礼を言って、美琴の後を追いかけた。
背中に、蝉の声にかき消されてゆく、幼女の笑い声を聞きながら。
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