三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第一章 よろこべ、これが異世界だ!

12.第三都市カリキ:広場の炊き出し

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 仮の手形を得た二人は第三都市の市街地へと出向き、ある広場に辿り着く。
「此処はー」
 オルドは見慣れない光景に辺りを見回す。
「魔獣退治ギルドの志願者が増えたんでな、篤志家が志願者の為に施しをしているんだ」
 広場には焜炉コンロが据えられ、大鍋から粥の様な物が取り分けられている。
「座る場所がある内にお前さんも食わせてもらえ」
「メテオーロさんはいいんですか?」
「あぁ。それに……俺は尋ねたい人が居るんでな、すぐに戻るから、この広間で待っててくれ」
「でも」
「俺の事は気にしなくていい、しっかり食っとけよ」
 メテオーロは笑ってそう言い残し、第三都市の雑踏へと吸い込まれてゆく。
 残されたオルドは鍋に続く列に並び、一杯の粥を受け取った。それはオルドがかつて生きていた世界で言うところの雑炊に近い物で、オートミールの様な穀物と崩れた豆や野菜がまとめて炊かれており、僅かに肉の繊維が入っている。味付けは干し肉の塩味だけだったが、豆類はオルドが知る豆のそれよりも甘く、温かい内ならば決して味は悪くない。
「あら、あなたは今日が初めて?」
 空になった器を片付けていた女性がオルドに近付いた。
「あ、はい。ごちそうさまでした」
「あら、珍しい。お礼を言ってくれる人なんてめったに居ないのよ」
 女性は肩を竦めて笑いながら、オルドの手から器を取り上げる。
「ところで、あなたも魔獣退治ギルドの志願者? それにしては、武器を持っていないみたいだけど」
「あ……えっと、その、ぼくは魔獣退治じゃなくて、とにかく仕事を探してるんです。その、村が、無くなって」
「あら、それは大変だったわね。それで、こっちに泊まる当ては有るの? 野宿してると追い払われるわよ?」
「え、えぇ?」
 女性はあっけらかんとしているが、屋内でなければ眠れないという事実を前に、オルドは狼狽ろうばいする。
「最近、あなたと同じ様に村が襲われたり焼かれたりして都市のギルドを目指す人が多い分、此処も浮浪者や盗人が増えているの。魔獣退治屋の志願者ならエフサに寝泊まりさせてもらえるし、多少の夕食も出してくれるけど」
「い、一応……此処に連れてきてくれた人が居るんですけど……人に会うって、何処かに行ってしまって」
「あら、それ、騙されたんじゃなくて?」
 オルドは思わず息を呑んだ。魔獣の襲撃を退けてくれた上に、僅かな稼ぎでパンを分けてくれたメテオーロがそんな事をするはずが無いと何処かで信じている半面、出会ってすぐに手厚く面倒を見てくれるなどおかしいと、かつての記憶でも同じ様な経験をした様に感じ始めていた。
「もしその方があなたを迎えに来なかったなら、此処のエフサを訪ねて」
 女性は腰のポーチから、一枚の紙きれを取り出す。それはオルドが生きていた社会では欠かせなかった名刺の様な物だった。
「私は錬金術ギルドの助手、アナスタシアよ」
「ぼくは……オルドです」
「それじゃ、もし何かあったら私を訪ねてきてね」
 女性が片付けに戻って暫くした頃、メテオーロはオルドの前に戻ってきた。
「待たせたな。働き口ってわけじゃねえが、ちょっとした仕事の口がある、案内するよ」
「はい!」
 オルドは慌てて立ち上がり、メテオーロに従って歩き始めた。


 オルドを伴ったメテオーロが向かったのは、印刷職人が集まる建物の一角だった。
「待たせたな、エステレラ」
 二人を待っていたのは白い肌に黒い髪を持った端正な顔立ちの男だった。
「そちらの方が」
「あぁ」
 メテオーロはオルドの背中を押し、男の前に立たせる。
「この人は半エルフの印刷職人、エステレラだ」
「は、はじめまして。オルドです」
 何も肩書の無いオルドは、ぎこちなく名乗って頭を下げる。
「君の事はメテオーロから聞きました。早速だけど、倉庫の中が散らかっているんで片づけをして欲しい。エルフ文字は読めないだろうけど、同じ文字を指定された棚に戻すだけだ。倉庫に案内しよう」
 オルドは訳が分からないままエステレラに従い建物の奥へと進む。
「此処はエルフ文字の書物を印刷する活版印刷の工房で、活字は作ったのだが、片付ける人間を抱えておけなくてね。文字は読めないだろうけど、棚に描いてある文字と同じ活字をその棚に戻して欲しい」
 オルドが案内された倉庫の中には細長い作業机が据えられているが、其処には解版された活字が無造作に積み上がっていた。
「インクは落ちているからそのまま片付けてくれ、頼んだよ」
「は、はい……」
 エステレラが出て行った倉庫の中、オルドは活字を拾い上げ、文字の形を探しながら棚に戻す作業を始めた。その文字は飾り文字の様に複雑な形をしていて、それが読めない人間にとってはまるでパズルの様な作業だった。これではあまりにも効率が悪いと不満を抱きながらも、日当が出るなら仕方がない事だと諦め、オルドは似た様な活字を集めては見比べ、同じ物だけを手に棚を探した。
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