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第一章 The war ain't over!
1-1-1 トラウマ掘削機(2022年晩冬)
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「えーと、どちら様で」
「あー、ユウキ君の友達でー、マキタと伝えて下さい」
「ゆぅ……分かりました、少々お待ち下さい」
玄関を開けた女性が奥に引き返すと、慌ただしい足音が勢いよく玄関扉を開いた。
扉を開けた男は、十五年前と変わりない茶髪の男と暫くの間見つめ合った。
「……久しぶり。直接会うの、何年振りだっけ」
「なんで此処が」
茶髪の男、ハリーは軽い調子で笑って見せるが、扉を開けた男は怪訝に表情を歪める。
「近所のおばさんに聞いたら、梅枝さんは引っ越したけど、ゆうくんはまだ住んでるって」
なんとお喋りなご婦人が居るのだろうか、黒髪の男は訝しげな表情のまま溜息を漏らす。
「聞き込みとはよっぽどですね。社長が亡くなりでもしましたか」
「おいおい、うちの社長を勝手に殺してくれるなって……まあ、人死にはしてねぇんだが、非常事態といえば、そうでな。どうする? ちと早いが、何処か飯でも食いに行くか?」
黒髪の男はますます表情を歪ませた。
「この近くに喫茶店が有ります。案内するんで、ちょっと待って下さい」
黒髪の男が手を放すまま閉じる玄関をハリーは眺めていた。
程無くして三度玄関扉が開き、黒髪の男は苦々しい表情で外に出る。
「すぐ其処なんで、ついてきて下さい」
黒髪の男は長い髪を乾いた寒風に曝すまま、買い物袋の様な袋を掴んで歩き出す。その後ろに続くハリーはノルディック模様のニットパーカーの背中にかつての面影を重ねていた。
二人が出会ったのは十五年ほど前の事。当時、その黒髪は肩にかかるほどで、坊ちゃん刈りを伸ばした様な野暮ったい雰囲気だった。そのあまりに野暮ったい髪をマッシュカットにするかウルフカットにするか、バンドメンバーの三人だけで本人を置き去りにして議論していた事をハリーは懐かしく思い出す。
五分ほど歩いたところで二人は住宅街の隅にある喫茶店へと辿り着く。その店は一見すると少し広い住宅にしか見えない佇まいであった。
「いらっしゃいま……あぁ、仕事の話か?」
「少し話し込みそうだ」
「奥が空いてるよ、そちらへどうぞ」
店主の白北はカウンター越しに二人を席へ案内し、形式的に冷水と手拭きを用意する。
「注文はコーヒー二つで」
「俺はミントソーダで」
注文を取ろうとした白北と黒髪の男は顔を見合わせる。
「この状況でさ、熱いコーヒーなんて飲めない」
真顔でコーヒーを断る黒髪の男から、白北はハリーに視線を移す。
「……そちら様はコーヒーでよろしいですか」
「あぁ、お願いします」
ハリーはさっと注文を済ませ、改めて黒髪の男を向き合った。黒髪の男は不機嫌そうに俯いていたが、不健康そうに青白い肌色と、その割に赤みを帯びた唇ははっきりと見て取れる。結わえる間も無く飛び出してきた黒髪のかかった顔はより白く見えるが、ニットの上からでも見て取れるほど体躯は逞しい。ハリーがが出会った当初の彼は痩せ型で、別れる頃には酷く窶れて骨ばっていた。
「……用件は、コリーさんが脱退したって事ですよね」
俯いていた男は顔を上げ、光の無い眼差しでハリーを見据えた。
「なんだ、知ってたのか」
「芸能ゴシップのトピックになってました。有名なロック歌手のバックバンドに引き抜かれたんですよね」
「まあ、そういう事になるな」
「それで、どうして俺の所に来たんですか」
「話すとちと長くなるんだがな……簡単に言うなら、アマミの為に戻ってきて欲しいんだ」
「断ります」
黒髪の男は間髪入れずに拒絶を明言し、居心地の悪い沈黙を作り出す。
沈黙の合間に熱いコーヒーと冷えたソーダが割り込むも、黒髪の男は光の失せた目をハリーに向けるばかりだった。
「あー、ユウキ君の友達でー、マキタと伝えて下さい」
「ゆぅ……分かりました、少々お待ち下さい」
玄関を開けた女性が奥に引き返すと、慌ただしい足音が勢いよく玄関扉を開いた。
扉を開けた男は、十五年前と変わりない茶髪の男と暫くの間見つめ合った。
「……久しぶり。直接会うの、何年振りだっけ」
「なんで此処が」
茶髪の男、ハリーは軽い調子で笑って見せるが、扉を開けた男は怪訝に表情を歪める。
「近所のおばさんに聞いたら、梅枝さんは引っ越したけど、ゆうくんはまだ住んでるって」
なんとお喋りなご婦人が居るのだろうか、黒髪の男は訝しげな表情のまま溜息を漏らす。
「聞き込みとはよっぽどですね。社長が亡くなりでもしましたか」
「おいおい、うちの社長を勝手に殺してくれるなって……まあ、人死にはしてねぇんだが、非常事態といえば、そうでな。どうする? ちと早いが、何処か飯でも食いに行くか?」
黒髪の男はますます表情を歪ませた。
「この近くに喫茶店が有ります。案内するんで、ちょっと待って下さい」
黒髪の男が手を放すまま閉じる玄関をハリーは眺めていた。
程無くして三度玄関扉が開き、黒髪の男は苦々しい表情で外に出る。
「すぐ其処なんで、ついてきて下さい」
黒髪の男は長い髪を乾いた寒風に曝すまま、買い物袋の様な袋を掴んで歩き出す。その後ろに続くハリーはノルディック模様のニットパーカーの背中にかつての面影を重ねていた。
二人が出会ったのは十五年ほど前の事。当時、その黒髪は肩にかかるほどで、坊ちゃん刈りを伸ばした様な野暮ったい雰囲気だった。そのあまりに野暮ったい髪をマッシュカットにするかウルフカットにするか、バンドメンバーの三人だけで本人を置き去りにして議論していた事をハリーは懐かしく思い出す。
五分ほど歩いたところで二人は住宅街の隅にある喫茶店へと辿り着く。その店は一見すると少し広い住宅にしか見えない佇まいであった。
「いらっしゃいま……あぁ、仕事の話か?」
「少し話し込みそうだ」
「奥が空いてるよ、そちらへどうぞ」
店主の白北はカウンター越しに二人を席へ案内し、形式的に冷水と手拭きを用意する。
「注文はコーヒー二つで」
「俺はミントソーダで」
注文を取ろうとした白北と黒髪の男は顔を見合わせる。
「この状況でさ、熱いコーヒーなんて飲めない」
真顔でコーヒーを断る黒髪の男から、白北はハリーに視線を移す。
「……そちら様はコーヒーでよろしいですか」
「あぁ、お願いします」
ハリーはさっと注文を済ませ、改めて黒髪の男を向き合った。黒髪の男は不機嫌そうに俯いていたが、不健康そうに青白い肌色と、その割に赤みを帯びた唇ははっきりと見て取れる。結わえる間も無く飛び出してきた黒髪のかかった顔はより白く見えるが、ニットの上からでも見て取れるほど体躯は逞しい。ハリーがが出会った当初の彼は痩せ型で、別れる頃には酷く窶れて骨ばっていた。
「……用件は、コリーさんが脱退したって事ですよね」
俯いていた男は顔を上げ、光の無い眼差しでハリーを見据えた。
「なんだ、知ってたのか」
「芸能ゴシップのトピックになってました。有名なロック歌手のバックバンドに引き抜かれたんですよね」
「まあ、そういう事になるな」
「それで、どうして俺の所に来たんですか」
「話すとちと長くなるんだがな……簡単に言うなら、アマミの為に戻ってきて欲しいんだ」
「断ります」
黒髪の男は間髪入れずに拒絶を明言し、居心地の悪い沈黙を作り出す。
沈黙の合間に熱いコーヒーと冷えたソーダが割り込むも、黒髪の男は光の失せた目をハリーに向けるばかりだった。
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