夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

文字の大きさ
29 / 91
第一章 The war ain't over!

11-1 雑に粗くて噛み合わない罠

しおりを挟む
 五月十日、レインは自らに追加の悲劇をもたらした携帯電話を交換すべく、最寄りのショップへ向かった。必要な機種と来店時刻は予約しており、プランもおよそ決めていた分、店での手続きは早かった。だが、悲劇はまだ終わっていなかった。
 新しい携帯電話を受け取り自宅へ戻ると、見た事の無い男が二人立っていた。
梅枝うめがえ由雨生ゆうきさんですね」
 二人の男は身分証を見せ、警察官である事を示す。レインはなぜ彼らが此処に居るのかが分からず、名前は認めつつも首を傾げた。
「俺ー、なんかしました?」
 警察官は首を傾げるレインに対し、違法薬物使用の嫌疑が有る旨を伝えた。レインの表情が明らかに曇った事に警察官は目を光らせるが、レインは下世話な週刊誌の話を真に受けるのかと嫌悪を露わにその旨を伝える。
 年嵩の警察官は週刊誌の内容は証拠ではないと言い、彼の鞄を見せるようにと言った。
「何も入ってないですよ、あ、そのポーチは別にして下さい。すぐ中身見せるんで」
 レインは警察官が止める間もなく鞄の前面ポケットからポーチを引っ張り出し、その中を見せる。
「アナフィラキシーの緊急用自己注射、これ、無いと死ぬかもしれないんで」
 年嵩の警察官とレインは顔を見合わせた。
「子供の頃、スズメバチにやられまして。後、原因不明で一回、二枚貝かもしれない食品で一回、アナフィラキシーで死にかけてて、とりあえずスズメバチのアレルギーって事で、全額実費の頃からずっと処方を。それと、何かしら急激なアレルギーが出た時の処方で、抗ヒスタミン剤と、ステロイド剤も入れてるんです」
 ポーチの中には明らかに仰々しい注意書きのされた筒状の物と、薬のシートが入っている。
「処方箋は?」
「手帳に記録があります」
 ポーチの口を閉じ、レインは年嵩の警察官に渡した鞄に手を突っ込んで処方薬を記録した手帳を見せる。
「内服薬は大体半年に一回くらい、近くのアレルギー科のある内科で出してもらってます。注射は使用期限前に診察を受けて、交換を。必要に応じて、アレルギー検査もして貰ってますよ」
 手帳を確認し、年嵩の警察官は若い警察官と共に鞄の中を検めるが、先ほど購入した携帯電話の外装や財布、ハンカチや替えのマスクくらいしか入っていない。
「財布の中も見せて下さい」
「金欠ですけどね」
 若い警察官は財布の中を確認するが不審な物は入っておらず、免許証が入っていたが、不審な点は無い。
 鞄と財布を返され、レインはポーチを元の場所に戻す。
「車も見せて下さい」
「掃除してないっすけどね」
 二人の警察官は車内も点検するが、運転席の足元が砂だらけである以外、取り立ててみる場所は無い。備え付けるべき物は有るがスプレー缶の様な危険物は無く、車内用の空気清浄機が少し珍しいだけで模範的な状態である。
「あのタンブラーみたいなのって、空気清浄機ですか?」
「よくご存じで。今は黄砂も凄いし、俺、匂いの物嫌いなんで、空気全部綺麗にしてくれるのがいいですよね、中華製ですけど」
 車内を検め、若い警察官はレインの様子に不審な点が無いかを注意深く観察するが、彼は表情の窺えない様子で突っ立っているばかりだった。
「……ラッカーか何か、扱われました?」
 若い警察官はレインの爪に残る黒い塗料の様な物を見過ごさない。
「あ、ネイルの跡ですね」
「ネイル?」
「俺ギタリストなんで、職業柄、爪の保護にマニキュア塗ってて。今使ってるのがアルコールで溶けるタイプなもんですから、出かける前に一度取ったんですけど……どうせまた塗るしと思って、雑にしか取らなくて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様の“専属”

ユウキ
恋愛
雪が静かに降りしきる寒空の中、私は天涯孤独の身となった。行く当てもなく、1人彷徨う内に何もなくなってしまった。遂に体力も尽きたときに、偶然通りかかった侯爵家のお嬢様に拾われた。 お嬢様の気まぐれから、お嬢様の“専属”となった主人公のお話。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...