夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

文字の大きさ
30 / 91
第一章 The war ain't over!

11-2 雑に粗くて噛み合わない罠

しおりを挟む
「そういえば、さっき見ましたけど、スマホは持たないんですか」
 年嵩の警察官は最大の疑問を投げかける。
「作業の方の片手間に電話をしたり、有線のヘッドフォンをかけた状態で触ったりする事が有るので、誤作動しやすいスマホは使えません。元々は金が無くてガラケーでしたけど、今でもそのタイプの方が便利で」
「メッセージアプリの類が使えないのは不便でしょう」
「あ、あの有名なアレは海外のサーバーから抜かれるって評判ですし、俺は使いませんよ」
「でもメールも今日日ガラケーじゃあ不便ですよね」
「格安キャリアのシムカードは買いましたよ、商談で自分の作品を聴いてもらう時にも便利なので」
「商談用といったところですか……しかし、持ってませんね」
「ケータイショップに行くだけですから、充電したままですよ」
「そうですか……それを見せてもらう事は出来ますか?」
 レインは一瞬の沈黙で状況を把握する。
「お待ち下さい」
 レインは家の中へと入り玄関先に鞄を投げると、居間で充電ケーブルに接続されたままの古いスマートフォンを手に取った。

「お待たせしました」
 外に出たレインは指紋と埃の残るスマートフォンを年嵩の警察官に渡した。
「画面ロックはしてないんで、上にスライドで」
 若い警察官と顔を見合わせつつ、年嵩の警察官は画面を開く。インストールされているアプリはプリセットの各種機能と、外資系の通販サービスが展開する映像や音楽の配信サービス用のアプリが上位に来ており、その他には簡易的なメモや描画ツール、無料のゲーム程度しか入っていない。
 連絡先の一覧には仕事の取引先と思しきものと複数の個人名が並ぶが、件数はあまりにも少ない。
「随分少ないですね」
「何がなんでも連絡がつかないと困る相手……今だと、配信者事務所の社長とバンドメンバー、後は身内くらいにしか番号を教えてないので」
「普段使いの方も見せて頂けますか」
「ええ」
 レインは再び家に入り、投げ出した鞄から真新しい携帯電話を取って外に出る。
「機種変したばかりなので、履歴は無いですけど」
 若い警察官はレインから携帯電話を受け取り、連絡先を開く。スマートフォンと比較すると登録された連絡先の数は多いが不審な点は見られない。ただ、何件かの個人名には絵文字が入っている。
「この絵文字の入った連絡先は、何か特別な間柄の方で?」
「あー、バンドメンバーとか、個人的にも付き合いのある人ですね」
「バンドメンバーの方はバンド名の登録はしてないんですか?」
「するまでもないです。だってバンドは俺と相棒だけなんで」
 若い警察官とレインは顔を見合わせる。
「バンド、ですよね」
「元々一人でやっていたので」
「はあ……あぁ、それと、女性の名前で一件だけ絵文字つけられてますけど」
「連れ合いです」
「奥様?」
「いえ、結婚はしてません。通い婚みたいな関係で」
 若い警察官と年嵩の警察官は視線を合わせる。
「通い婚というと、同居はされてないんですか」
 年嵩の警察官の問いに、レインは何ら動じる様子も見せず口を開いた。
「えぇ。新幹線の距離で遠距離恋愛なもんですから、デートが一ヶ月みたいな関係だと思って下さい、今は実家に帰ってますよ」
 二人の警察官は再び目配せする。
「……分かりました。お時間取らせてすみません、今日はこれで」
 年嵩の警察官はレインにスマートフォンを返し、それに続いて若い警察官も携帯電話をレインへ返す。
「失礼します」
 二人の警察官は小さく頭を下げ、そのまま去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様の“専属”

ユウキ
恋愛
雪が静かに降りしきる寒空の中、私は天涯孤独の身となった。行く当てもなく、1人彷徨う内に何もなくなってしまった。遂に体力も尽きたときに、偶然通りかかった侯爵家のお嬢様に拾われた。 お嬢様の気まぐれから、お嬢様の“専属”となった主人公のお話。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...