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第一章 The war ain't over!
12-1 負け犬的ジレンマ
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パパラッチの標的にされているのはストレスだったが、都心へ出る事の少ないレインにとっては大きな問題ではなかった。しかし、警察に妙な嫌疑をかけられている状況は行動すべてに疑いが向けられる。
後ろめたい物は無いにせよ、レインは頭を抱えていた。
「親が暴走したんだろうけどさぁ……なら、まずは例の焼死体事件の時に警察に連絡しろと……」
半ば逃げるようにアバラへと転がり込んだレインに、ランは道場的だった。
「レイは一人っ子で、俺みたいに勘当申し付けられてるわけでもないし、心配の裏返しだとは思うけどねぇ」
「それにしても、だよ。ていうかさ、海外のドキュメンタリーとか見たら、違法薬物って違法なだけあって、精製にいきなりガソリンぶち込んでみたりとか、体に悪いなんてレベルじゃない事平気でやるわけで……スプレーで死にかけたかもしれない人間がそんなもん使うかよ……つか、親ならそれ一番分ってるだろうに……あの時は流石に親まで連絡一端だよ? 大体、子供の頃からクソ虚弱で、プールの塩素で皮膚炎起こすし、大学辞めた原因のひとつが、どう足掻いても体育でプールに入るからだったってのに……」
「そりゃ酷いな」
ランは湯飲みの中を箸で掻き混ぜ、パックを引っ張り出す。
「通信制の方は事情説明したら、救急救命の講習受けて、水難救助についてレポート出せばいいって言ってくれたから助かったけど……」
「ま、これでも飲んで忘れなよ」
ランは何かを煮出した様な茶をレインに差し出す。
「ん、な、これ……人参か?」
レインはランの顔を見た。その顔は何処か楽しそうだった。
「国産のおたねにんじん。ま、元気出しなよ」
およそ味の想像はついていたが、茶にするとまた何とも形容しがたい味と香りである。
「すげー味……ラン、飲んだのか?」
「試飲はしたよ。輪ゴム煎じたかと思った」
「だよな」
一夜明け、人参茶の効果か多少体は温まっている様に思われたが、レインの沈み込んだ感情に貼り付いた厭世観は消えない。
そのまま迎えた夕刻、ミカからの電話にレインは途方もない憂鬱を覚えた。
「……もしもし」
「あ、レイさん……ねぇ、大丈夫? 何か大変な事に巻き込まれたりしていない?」
その不安げな声音に、レインは全てを理解した。
「まさか、警察が接触してきた?」
「うん……どこから連絡先仕入れたのかな」
「元凶は、多分親の暴走だと思うんだけど……スマホ見せた時に控えられたかな。昨日、刑事が直接話を聞きに来て、あれこれ調べられたんだよ、麻薬の嫌疑で」
「麻薬ぅ……」
「隠しても仕方ないから連れ合いが居るとは言ったけど……ごめんね、巻き込んでしまって」
「レイさんが謝らなくていいよ。私は潔白だから、全部突っぱねてやった。ていうか、ご両親の態度は、ちょっと尋常じゃないし、レイさんの方が心配」
「ほんとごめん。迷惑ばっかかけちゃって……元はといえば、携帯が壊れてたのが悪いんだけど……でも壊したの、多分携帯投げたかーさんなんだけど……携帯壊れたって連絡してなかったのは俺で……焼死体の仏さんと俺の背格好が似てるからって、なんかパニックになってたし……」
「レイさんだけの所為じゃないよ。焼死体の仏さんは悪くないし、そもそもケータイ壊したのお母さんでしょ? 携帯壊しておいて連絡なんてしてこないの普通だし。なにより、盗撮の週刊誌がまともなはずないのに、それで疑うとか、ちょっとヤバい風に見える」
「それは、そうかもだけど」
「それに、焼死体に心当たりが有るんだったら、警察行けばいいじゃない」
「やっぱ、そうだよな……」
「他に身寄りがないのに親と揉めるとか、大分しんどいけど、レイさんには頼れる人が他にもいるでしょ? だから、一人で無理せずに、仲裁してもらうなり、逃げるなりして、今はとにかく落ち着けるところに居て?」
「……わかった。ほんとごめんね、心配かけちゃった上に、こっちにも来てもらえなくて……その、プリンターとか小机とか、必要ならそっちに送るけど」
「大丈夫。プリンターはまだ使えるし、机も壊れてないから。私の事は気にしないで、自分の事、大事ね」
「……ほんとごめんね」
本来なら守りたいはずの存在を、今は近くに呼ぶ事すら出来ない。レインはその不甲斐なさに絶望を覚えるまま、電話を切った。
後ろめたい物は無いにせよ、レインは頭を抱えていた。
「親が暴走したんだろうけどさぁ……なら、まずは例の焼死体事件の時に警察に連絡しろと……」
半ば逃げるようにアバラへと転がり込んだレインに、ランは道場的だった。
「レイは一人っ子で、俺みたいに勘当申し付けられてるわけでもないし、心配の裏返しだとは思うけどねぇ」
「それにしても、だよ。ていうかさ、海外のドキュメンタリーとか見たら、違法薬物って違法なだけあって、精製にいきなりガソリンぶち込んでみたりとか、体に悪いなんてレベルじゃない事平気でやるわけで……スプレーで死にかけたかもしれない人間がそんなもん使うかよ……つか、親ならそれ一番分ってるだろうに……あの時は流石に親まで連絡一端だよ? 大体、子供の頃からクソ虚弱で、プールの塩素で皮膚炎起こすし、大学辞めた原因のひとつが、どう足掻いても体育でプールに入るからだったってのに……」
「そりゃ酷いな」
ランは湯飲みの中を箸で掻き混ぜ、パックを引っ張り出す。
「通信制の方は事情説明したら、救急救命の講習受けて、水難救助についてレポート出せばいいって言ってくれたから助かったけど……」
「ま、これでも飲んで忘れなよ」
ランは何かを煮出した様な茶をレインに差し出す。
「ん、な、これ……人参か?」
レインはランの顔を見た。その顔は何処か楽しそうだった。
「国産のおたねにんじん。ま、元気出しなよ」
およそ味の想像はついていたが、茶にするとまた何とも形容しがたい味と香りである。
「すげー味……ラン、飲んだのか?」
「試飲はしたよ。輪ゴム煎じたかと思った」
「だよな」
一夜明け、人参茶の効果か多少体は温まっている様に思われたが、レインの沈み込んだ感情に貼り付いた厭世観は消えない。
そのまま迎えた夕刻、ミカからの電話にレインは途方もない憂鬱を覚えた。
「……もしもし」
「あ、レイさん……ねぇ、大丈夫? 何か大変な事に巻き込まれたりしていない?」
その不安げな声音に、レインは全てを理解した。
「まさか、警察が接触してきた?」
「うん……どこから連絡先仕入れたのかな」
「元凶は、多分親の暴走だと思うんだけど……スマホ見せた時に控えられたかな。昨日、刑事が直接話を聞きに来て、あれこれ調べられたんだよ、麻薬の嫌疑で」
「麻薬ぅ……」
「隠しても仕方ないから連れ合いが居るとは言ったけど……ごめんね、巻き込んでしまって」
「レイさんが謝らなくていいよ。私は潔白だから、全部突っぱねてやった。ていうか、ご両親の態度は、ちょっと尋常じゃないし、レイさんの方が心配」
「ほんとごめん。迷惑ばっかかけちゃって……元はといえば、携帯が壊れてたのが悪いんだけど……でも壊したの、多分携帯投げたかーさんなんだけど……携帯壊れたって連絡してなかったのは俺で……焼死体の仏さんと俺の背格好が似てるからって、なんかパニックになってたし……」
「レイさんだけの所為じゃないよ。焼死体の仏さんは悪くないし、そもそもケータイ壊したのお母さんでしょ? 携帯壊しておいて連絡なんてしてこないの普通だし。なにより、盗撮の週刊誌がまともなはずないのに、それで疑うとか、ちょっとヤバい風に見える」
「それは、そうかもだけど」
「それに、焼死体に心当たりが有るんだったら、警察行けばいいじゃない」
「やっぱ、そうだよな……」
「他に身寄りがないのに親と揉めるとか、大分しんどいけど、レイさんには頼れる人が他にもいるでしょ? だから、一人で無理せずに、仲裁してもらうなり、逃げるなりして、今はとにかく落ち着けるところに居て?」
「……わかった。ほんとごめんね、心配かけちゃった上に、こっちにも来てもらえなくて……その、プリンターとか小机とか、必要ならそっちに送るけど」
「大丈夫。プリンターはまだ使えるし、机も壊れてないから。私の事は気にしないで、自分の事、大事ね」
「……ほんとごめんね」
本来なら守りたいはずの存在を、今は近くに呼ぶ事すら出来ない。レインはその不甲斐なさに絶望を覚えるまま、電話を切った。
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