35 / 91
第一章 The war ain't over!
13-2 締め出しと抜け駆けのメリーゴーランド
しおりを挟む
遅めの昼食を終え、ルーシーを連れて自宅に向かったレインは眉間にしわを寄せた。どうにも鍵の金具が妙に新しく見えるのだ。
「……やられた」
レインの低い声にルーシーは首を傾げながら、鍵の先が示す物を見る。
「これ」
レインが持っている鍵は鍵穴に入らない。
「どうする」
顔を見合わせ、ルーシーは眉を顰める。
「鍵屋さん、呼べば何とかなるかな。一応、俺の家なんだけど。賃貸契約もしてないし」
「……交換したのはこの一時間以内の事だろう、近隣の神屋に問い合わせてみるか」
「うん」
レインはルーシーと二人、この近辺で営業している鍵屋を探して電話をかけて回った。すると、その内の一軒が鍵の交換をした事を認めた。どうやら取り換え工事に不備が有った物として話を聞いているらしく、レインはそのまま現場にもう一度来て欲しいと依頼した。
それから一時間半あまり、件の鍵屋が再びやって来た。
レインは何も知らない職人に、交換の依頼主は自分の親だが此処には住んでいない事、住んでいるのは自分であり、持ち分の一部を譲渡された共有者である事、賃貸契約はしておらず、口約束で自分が現状暮らしている事を伝えた。
幸い、職人は住んでいる人物が締め出されているのは異常だと理解し、レインにスペアキーを手配したが、二人が中に入れたのは夕刻の事だった。
「中、大丈夫か」
玄関を開けると、玄関先の電話代に妙な物が置かれていた。
――差し押さえ告知書。
桜色の紙に印刷されたそれは何らかの行政文書の様だったが、用紙は明らかに民生品の薄い印刷用紙で、印字に顔料か染料の擦れた後が見受けられる。
手の込んだ嫌がらせをするものだとルーシーが呆れていると、仕事部屋を覗いたレインの間抜けな声が聞こえた。
「どうした」
「これ酷くね? モニター、一カ月前に慌てて買った中華製とはいえ、この扱い、無くね?」
仕事部屋に置かれた椅子や机にも容赦なく令状を模した物がばらまかれているが、パソコンのモニターに関しては強粘着性のテープで液晶画面に直接それが貼り付けられている。
「それ……ダクトテープの類じゃないのか?」
「ダクトテープ……あの映画でよく口塞いでる」
「どんな認識だ」
「てか、これは液晶終了のお知らせだね、粘着取れる気がしない。しかもさ、キャビネットは、多分かーさんの趣味、百円のマステなのにね」
モニターへの悪辣な仕打ちに比べ、その隣にあるキャビネットのガラス戸に貼り付く礼状もどきはハート柄のテープでぎりぎり止まっている状態だった。
「中身は……案の定ね」
キャビネットの中にあるハードディスクドライブの筐体は荷紐で括られており、紐の隙間に礼状もどきが差し込まれていた。
「中古のハードディスクはフォーマットしないと使えないんだけど……ま、パソコンのログインコードは知らない相手だし、多分中身は大丈夫かな。完成品のデータはフィンランドにも有るし」
レインは机の引き出しを開けて鋏を取り出し、荷紐を切った。
「ユウキ君、ちょっと待っててくれるか」
家の中の惨状を見たルーシーは何かに気付いた様子で、外に出る。そして程無くして戻ってきた。
「ユウキ君、車、やられたな。車止めのロックがされていた」
「はぁ?」
レインは表情を歪ませる。
「心当たりは」
「あぁ、そっか、あれはとーさんに借金して買ったけどさぁ……借用書作って返済はきちんとしてるよ? そりゃ、引き落としみたいに毎月同じ日にきっかりではないし、仕事の都合で返せる金額が変動するにせよ、年額は正しく返してる。つか、車使えなくするって、これもう業務妨害じゃん」
ルーシーはおじとおばの振る舞いに眉を顰めていた。
「ユウキ君、他の部屋も見た方がいい」
「あー、そうだね」
レインが見て回ったところ、家中の家財道具に礼状もどきがばらまかれていたが、可愛らしい柄のテープでは保持できず、何枚もの紙が床に落ちていた。
レインはそんなテープを剥がしてそこら中に放り出しながら、家財を持ち出さねばならないだろうと考えていた。
「ユウキ君、大丈……」
一階に戻ってきたレインに声を掛けようとして、ルーシーはその手に有る物に絶句した。
それは強粘着テープを巻き付けて封印された箱の様な物。
「それは」
「アクセサリーケースにしてるパーツケース。量販店の安物なんだけど、凄いよね、なんかの映画に出てくるバクダンみたい」
言いながら、レインはダイニングテーブルにまな板を出し、少し錆びの見えるカッターナイフをテープに突き刺した。
「ブランドも宝石も入ってないんだけど、自分で作ったり、連れ合いに任せて作って貰ったりした物が入っててね、ま、プライスレスってところかな」
粘着テープに切り込みを入れ、レインはそれをこじ開ける。
「お惣菜パックが棚にあるの、取ってくれる?」
「あ、あぁ……」
ルーシーは台所の棚に押し込まれた食品容器を手渡す。
透明な容器に収められるのは、銀細工のペンダントや、大ぶりなガラスビーズを使ったイヤリング。
「パワーストーンの類もさ、気に入ったのが有ると安い時に買ってたんだ。連れ合いに頼んで、なんかいい感じにして欲しいと言ったら、ガラスビーズ調達して、サンキャッチャーみたいにしてくれた。めったに使う事無いんだけど、ステージで着けると綺麗なんだ。髪で隠れちゃうのが、勿体ないくらい」
粘着テープの封印に際して中身はかき乱されていたが、壊れた物は無かった。
キッチンペーパーを緩衝材に詰め込まれたそれを鞄に押し込み、レインは粘着テープに固められたケースを手に取った。
「ランに連絡して、こっちに来てもらおうと思う。荷造りするから、少し手伝ってくれるかな」
「分った」
「……やられた」
レインの低い声にルーシーは首を傾げながら、鍵の先が示す物を見る。
「これ」
レインが持っている鍵は鍵穴に入らない。
「どうする」
顔を見合わせ、ルーシーは眉を顰める。
「鍵屋さん、呼べば何とかなるかな。一応、俺の家なんだけど。賃貸契約もしてないし」
「……交換したのはこの一時間以内の事だろう、近隣の神屋に問い合わせてみるか」
「うん」
レインはルーシーと二人、この近辺で営業している鍵屋を探して電話をかけて回った。すると、その内の一軒が鍵の交換をした事を認めた。どうやら取り換え工事に不備が有った物として話を聞いているらしく、レインはそのまま現場にもう一度来て欲しいと依頼した。
それから一時間半あまり、件の鍵屋が再びやって来た。
レインは何も知らない職人に、交換の依頼主は自分の親だが此処には住んでいない事、住んでいるのは自分であり、持ち分の一部を譲渡された共有者である事、賃貸契約はしておらず、口約束で自分が現状暮らしている事を伝えた。
幸い、職人は住んでいる人物が締め出されているのは異常だと理解し、レインにスペアキーを手配したが、二人が中に入れたのは夕刻の事だった。
「中、大丈夫か」
玄関を開けると、玄関先の電話代に妙な物が置かれていた。
――差し押さえ告知書。
桜色の紙に印刷されたそれは何らかの行政文書の様だったが、用紙は明らかに民生品の薄い印刷用紙で、印字に顔料か染料の擦れた後が見受けられる。
手の込んだ嫌がらせをするものだとルーシーが呆れていると、仕事部屋を覗いたレインの間抜けな声が聞こえた。
「どうした」
「これ酷くね? モニター、一カ月前に慌てて買った中華製とはいえ、この扱い、無くね?」
仕事部屋に置かれた椅子や机にも容赦なく令状を模した物がばらまかれているが、パソコンのモニターに関しては強粘着性のテープで液晶画面に直接それが貼り付けられている。
「それ……ダクトテープの類じゃないのか?」
「ダクトテープ……あの映画でよく口塞いでる」
「どんな認識だ」
「てか、これは液晶終了のお知らせだね、粘着取れる気がしない。しかもさ、キャビネットは、多分かーさんの趣味、百円のマステなのにね」
モニターへの悪辣な仕打ちに比べ、その隣にあるキャビネットのガラス戸に貼り付く礼状もどきはハート柄のテープでぎりぎり止まっている状態だった。
「中身は……案の定ね」
キャビネットの中にあるハードディスクドライブの筐体は荷紐で括られており、紐の隙間に礼状もどきが差し込まれていた。
「中古のハードディスクはフォーマットしないと使えないんだけど……ま、パソコンのログインコードは知らない相手だし、多分中身は大丈夫かな。完成品のデータはフィンランドにも有るし」
レインは机の引き出しを開けて鋏を取り出し、荷紐を切った。
「ユウキ君、ちょっと待っててくれるか」
家の中の惨状を見たルーシーは何かに気付いた様子で、外に出る。そして程無くして戻ってきた。
「ユウキ君、車、やられたな。車止めのロックがされていた」
「はぁ?」
レインは表情を歪ませる。
「心当たりは」
「あぁ、そっか、あれはとーさんに借金して買ったけどさぁ……借用書作って返済はきちんとしてるよ? そりゃ、引き落としみたいに毎月同じ日にきっかりではないし、仕事の都合で返せる金額が変動するにせよ、年額は正しく返してる。つか、車使えなくするって、これもう業務妨害じゃん」
ルーシーはおじとおばの振る舞いに眉を顰めていた。
「ユウキ君、他の部屋も見た方がいい」
「あー、そうだね」
レインが見て回ったところ、家中の家財道具に礼状もどきがばらまかれていたが、可愛らしい柄のテープでは保持できず、何枚もの紙が床に落ちていた。
レインはそんなテープを剥がしてそこら中に放り出しながら、家財を持ち出さねばならないだろうと考えていた。
「ユウキ君、大丈……」
一階に戻ってきたレインに声を掛けようとして、ルーシーはその手に有る物に絶句した。
それは強粘着テープを巻き付けて封印された箱の様な物。
「それは」
「アクセサリーケースにしてるパーツケース。量販店の安物なんだけど、凄いよね、なんかの映画に出てくるバクダンみたい」
言いながら、レインはダイニングテーブルにまな板を出し、少し錆びの見えるカッターナイフをテープに突き刺した。
「ブランドも宝石も入ってないんだけど、自分で作ったり、連れ合いに任せて作って貰ったりした物が入っててね、ま、プライスレスってところかな」
粘着テープに切り込みを入れ、レインはそれをこじ開ける。
「お惣菜パックが棚にあるの、取ってくれる?」
「あ、あぁ……」
ルーシーは台所の棚に押し込まれた食品容器を手渡す。
透明な容器に収められるのは、銀細工のペンダントや、大ぶりなガラスビーズを使ったイヤリング。
「パワーストーンの類もさ、気に入ったのが有ると安い時に買ってたんだ。連れ合いに頼んで、なんかいい感じにして欲しいと言ったら、ガラスビーズ調達して、サンキャッチャーみたいにしてくれた。めったに使う事無いんだけど、ステージで着けると綺麗なんだ。髪で隠れちゃうのが、勿体ないくらい」
粘着テープの封印に際して中身はかき乱されていたが、壊れた物は無かった。
キッチンペーパーを緩衝材に詰め込まれたそれを鞄に押し込み、レインは粘着テープに固められたケースを手に取った。
「ランに連絡して、こっちに来てもらおうと思う。荷造りするから、少し手伝ってくれるかな」
「分った」
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日7時•19時に更新予定です。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お嬢様の“専属”
ユウキ
恋愛
雪が静かに降りしきる寒空の中、私は天涯孤独の身となった。行く当てもなく、1人彷徨う内に何もなくなってしまった。遂に体力も尽きたときに、偶然通りかかった侯爵家のお嬢様に拾われた。
お嬢様の気まぐれから、お嬢様の“専属”となった主人公のお話。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる