夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第二章 Gambling with the Devil

2-5-3  道化師のお仕事

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 午後二時、イベントが始まりレインは長い待機時間を一人で過ごしていた。
 ステージ上では未発表曲のリスニングパーティーが開かれ、メンバーはレコーディング当時の裏話に花を咲かせるなどしていた。
 その後、トークはコリーの脱退やハリーと共演したアビーの話題へと移り、客席のファン達は興味深そうに耳を傾けている。
「レインさん、そろそろ化粧直しとかして下さい」
 イベント進行を見守るスタッフから声を掛けられ、レインは鏡の前に立つ。
(道化……いや、道化ですらないな)
 不機嫌さに表情を失った顔面に白粉を重ね、ピアスの様に見えるクリップ型のイヤリングを耳朶に押し込んで、鼓膜に流れる音量を抑える耳栓をねじ込んだ。
「待機お願いします」
 呼ばれるままレインがステージの袖に向かうと、既にステージは片付けられており、メンバーが待機していた。
「久々だな、このメンツ」
 ハリーは小さな声を弾ませてメンバーの顔を見る。
「円陣組めないのはちょっと残念だけど……レッツゴーっ」
 ケリーは景気付けに拳を上げ、ハリーとルーシーもそれに続く。
 場の空気に馴染まないレインを鴇田は不安を持って見つめたが、ケリーはステージへと出てゆく。
 客席からは盛大な拍手が沸き起こり、ケリーは所定の位置に就く。

「お待たせーっ。それじゃあ、本日のメインイベント、スペシャルライブセッション、みんな、盛大な拍手でゲストを迎えてくれ……本日のスペシャルゲスト……俺達の弟っ……レイン!」
 ケリーがステージの袖を指し示すと同時に、声にならない悲鳴と混乱に揃わない手拍子が起こる。
 レインは混乱する客席に向けて軽く手を上げながらステージへと上がり、所定の位置について軽く帽子のつばを持ち上げた。
「かれこれ十三年ぶりくらい、今日は俺達の弟が戻って来てくれましたーっ! はい、拍手―っ!」
 ケリーの手拍子に合わせ、客席からは落ち着きを取り戻した拍手が起こる。
「ほらみんな、マラカスマラカス」
 拍手を先導する様に、ルーシーは軽くドラムを叩く。
 その間にハリーとレインは楽器を用意し、演奏の態勢に入った。
「それじゃあ行くぜ、まずは俺達の大事なデビュー曲、掌の上のロマンスーッ」
 演奏が始まると同時に照明が揺れ始め、観客は歌う代わりに手拍子をしたりグッズのマラカスを鳴らしたりしながら一体感を作ってゆく。
 そうして五曲、デビューアルバムとインディーズ時代のアルバムから選曲された演奏曲が予定通りに終了した。
「みんなありがとう! 会場のみんなも! 中継の向こうのみんなも! これから見てくれるみんなもっ! みんな、みんな最高だーっ!」
 観客席からは呼応する様に盛大な音が鳴り響く。
「それじゃあもう一度、俺達の弟、レインに拍手ーっ」
 改めて沸き起こる拍手にレインは手を挙げて答え、手を振りながらステージの袖へと姿を消した。
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