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第二章 Gambling with the Devil
2-6-1 西の外れの幽霊屋敷
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イエロー・リリー・ブーケのファンミーティングに元メンバーのレインが出演したという話題はマスコミにも取り上げられ、オンラインコミュニティは賑わっていた。
だが、当のレインはプレス向けのコメントを出しただけで取材を受け付けておらず、ファン達の反応を見る事も無かった。彼にしてみれば後は対価を受け取るだけ、負債と化した口座残高を清算して日常に戻れるならそれだけで十分だった。
ファンミーティングから数日、半年余りは居住する権利を年初として勝ち取った自宅と、この数カ月の騒動で運営に支障が出始めている白北の通信販売業の作業場をひっそりと往復する日常に戻ったレインはこの日、ランに呼び出されてあばら家へと向かった。
「レイ、喜べ!」
レインが上がるなり、ランは一枚の紙をレインに押し付ける。
「ん……な……は?」
その内容に目を通し、レインは目を瞠った。
それはドイツに拠点を置く音楽出版社、シュヴァルツ・ネーベル・レコーズからの電子メールだった。
「どういう事だよ、これ」
レインはランの顔を真正面から凝視する。
「この前のデモテープ送ってみたらさ、興味持ってくれた」
「この前の……あ、あれを?」
声を弾ませるランを前に、レインは目を瞠る。
「レイさえよければ契約、細かい事は亀山社長が国際法の分かってる弁護士さん探してくれるって!」
「弁護……そんなところまで勝手に進めてたのかよ……」
どうして話してくれなかったのかとは言えず、溜息交じりにレインは呟く。
「だってレイはあっちの仕事も有ったし、別に悪い話じゃないじゃん?」
「そりゃそうだけど、サッド・レインの社長にはなんて言うんだよ」
「スヴェンに話して、それとなく伝えてるよ。まだ決まったわけじゃないし、挨拶周りはこれからでもいいんじゃないかな。どのみち、まだ向こうの関係者がこっちに来るのは難しいし、急ぐ契約じゃないよ」
「それはそうだけど……シュヴァルツ・ネーベルか……」
日本においてドイツの独立系出版社であるシュヴァルツ・ネーベル・レコーズを知る音楽ファンは少ないが、ポスト・ブラックメタルとそれに類するジャンルの音楽を知っている者にとっては決して無名の出版社では無く、此処から記録的な売り上げを出したバンドは欧州のチャートにもその名が記される。
「……挨拶回り、しなきゃな」
「そだね!」
サッド・レイン・サウンズの社長に何と伝えるべきかレインは決めかねていたが、この好機を断る理由は無い。もし契約が成立すれば、今までとは比べ物にならない製作費を持って制作する事が叶い、プレスされた商品は日本法人も持つ世界的なネット通販の流通に乗る。
ランの満面の笑顔を前に、実感は湧かずともレインの覚悟は決まった。
その日の内にランはシュヴァルツ・ネーベル・レコーズに対し契約に向けた交渉を申し入れ、レインは亀山に対し、早急に正式なマネジメント契約を結びたいと伝えた。亀山は自分の事務所から海外進出できるバンドが誕生すると喜び、数日中に契約を結び、法務顧問に契約の相談をすると約束した。
一方、この数年間レインの作品を発売してきたサッド・レイン・サウンズの社長に対し、彼は感謝とこの先々の事について改まった文面を送った。
レインは自室でひっそりと作った勢い任せの作品を拾い上げ、現地でのイベントに招いてくれた社長に対して一抹の申し訳なさを持っていたが、社長からは零細レーベルから出世するレインとランに対する祝意が返された。
そうして数日が過ぎ、世間の子供達が夏休みを迎えようとする頃、レインはリアルツーディーとの契約に合意し、ゴースト・モノリスはシュヴァルツ・ネーベル・レコーズ初の日本出身アーティストとなる事が決まった。
だが、契約書が効力を持ったところで、まだ何も始まりはしていない。
アルバム制作は契約のきっかけとなったデモテープ以外に構想が無く、予算も付いていない。更にマネジメントからも出版社からも宣材写真を出す様にと指示されているが、レインとランがゴースト・モノリスとして撮影した写真は一枚も無い。
だが、当のレインはプレス向けのコメントを出しただけで取材を受け付けておらず、ファン達の反応を見る事も無かった。彼にしてみれば後は対価を受け取るだけ、負債と化した口座残高を清算して日常に戻れるならそれだけで十分だった。
ファンミーティングから数日、半年余りは居住する権利を年初として勝ち取った自宅と、この数カ月の騒動で運営に支障が出始めている白北の通信販売業の作業場をひっそりと往復する日常に戻ったレインはこの日、ランに呼び出されてあばら家へと向かった。
「レイ、喜べ!」
レインが上がるなり、ランは一枚の紙をレインに押し付ける。
「ん……な……は?」
その内容に目を通し、レインは目を瞠った。
それはドイツに拠点を置く音楽出版社、シュヴァルツ・ネーベル・レコーズからの電子メールだった。
「どういう事だよ、これ」
レインはランの顔を真正面から凝視する。
「この前のデモテープ送ってみたらさ、興味持ってくれた」
「この前の……あ、あれを?」
声を弾ませるランを前に、レインは目を瞠る。
「レイさえよければ契約、細かい事は亀山社長が国際法の分かってる弁護士さん探してくれるって!」
「弁護……そんなところまで勝手に進めてたのかよ……」
どうして話してくれなかったのかとは言えず、溜息交じりにレインは呟く。
「だってレイはあっちの仕事も有ったし、別に悪い話じゃないじゃん?」
「そりゃそうだけど、サッド・レインの社長にはなんて言うんだよ」
「スヴェンに話して、それとなく伝えてるよ。まだ決まったわけじゃないし、挨拶周りはこれからでもいいんじゃないかな。どのみち、まだ向こうの関係者がこっちに来るのは難しいし、急ぐ契約じゃないよ」
「それはそうだけど……シュヴァルツ・ネーベルか……」
日本においてドイツの独立系出版社であるシュヴァルツ・ネーベル・レコーズを知る音楽ファンは少ないが、ポスト・ブラックメタルとそれに類するジャンルの音楽を知っている者にとっては決して無名の出版社では無く、此処から記録的な売り上げを出したバンドは欧州のチャートにもその名が記される。
「……挨拶回り、しなきゃな」
「そだね!」
サッド・レイン・サウンズの社長に何と伝えるべきかレインは決めかねていたが、この好機を断る理由は無い。もし契約が成立すれば、今までとは比べ物にならない製作費を持って制作する事が叶い、プレスされた商品は日本法人も持つ世界的なネット通販の流通に乗る。
ランの満面の笑顔を前に、実感は湧かずともレインの覚悟は決まった。
その日の内にランはシュヴァルツ・ネーベル・レコーズに対し契約に向けた交渉を申し入れ、レインは亀山に対し、早急に正式なマネジメント契約を結びたいと伝えた。亀山は自分の事務所から海外進出できるバンドが誕生すると喜び、数日中に契約を結び、法務顧問に契約の相談をすると約束した。
一方、この数年間レインの作品を発売してきたサッド・レイン・サウンズの社長に対し、彼は感謝とこの先々の事について改まった文面を送った。
レインは自室でひっそりと作った勢い任せの作品を拾い上げ、現地でのイベントに招いてくれた社長に対して一抹の申し訳なさを持っていたが、社長からは零細レーベルから出世するレインとランに対する祝意が返された。
そうして数日が過ぎ、世間の子供達が夏休みを迎えようとする頃、レインはリアルツーディーとの契約に合意し、ゴースト・モノリスはシュヴァルツ・ネーベル・レコーズ初の日本出身アーティストとなる事が決まった。
だが、契約書が効力を持ったところで、まだ何も始まりはしていない。
アルバム制作は契約のきっかけとなったデモテープ以外に構想が無く、予算も付いていない。更にマネジメントからも出版社からも宣材写真を出す様にと指示されているが、レインとランがゴースト・モノリスとして撮影した写真は一枚も無い。
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