夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第二章 Gambling with the Devil

2-15-2 The stage is ready for you

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「ケリー」
 鴇田に声を掛けられたケリーは頷き、立ち上がる。
「社長、早川さん、それと、滝上君」
 声が震えるのを堪えながら、ケリーは二人を見た。
「長らくギタリストが不在の状態で、色々と奔走してもらって、その事には、感謝してもしきれません。だけど……コリーが居なくなった時、ファンミーティングでレインと同じステージに立って、改めて思ったのは……俺達は、やっぱりレインとやっていきたいという事でした」
 ケリーの言葉に滝上の表情が曇る。
「あの時……まだ二十歳にならないレインと一緒に居た頃、彼は俺達の言いなりで、アビーが残していった物をそのまま弾いてもらうばかりで、俺達は彼が作る物を知る事が出来ませんでした。でも、三度目のギタリストの不在に直面した時、あぁ、レインが居たら、一体どんな物を作ってくれるんだろうかって事が、拭いきれなくなってしまいました」
 早川の表情は渋いが、鷲塚は淡々とケリーの言葉を受け止める。
「俺達のファンでもある滝上君を探し出してくれた社長、そして、俺達の為に努力を惜しまずに待っていてくれた滝上君には、本当に申し訳なくて、謝っても、謝り切れない思いですが……俺と、ハリーと、そしてルーシーの総意は、レインに戻ってきて欲しい、ただそれだけなんです」
 早川は悔しさとも怒りともつかない感情を湛え、唇を噛む滝上を見た。
「……ケリー、キミの言い分は分ったよ。だが、事ここに至って、それだけ努力をしてきた滝上君の加入を拒むのはどうかと思うよ。正直言って、日本国内の音楽事情をろくに知りもしない洋楽かぶれの芸術家気取りを出戻りさせるよりは、もっと新しい挑戦をすべきだ。毎度振るわないセールスに辛酸を舐めて来たなら、分かっているだろう?」
「彼を洋楽かぶれの芸術家気取りというなら、僕なんかクビですね」
 早川に異を唱えたのはルーシーだった。
「音大卒の音楽教師の成り損ない、誰も弾かないセミコンがかわいそうだからと、事あるごとにショパンだモーツァルトだと弾きに来る僕は、インテリぶった芸術家気取り以外の何物でもありませんからね」
 刺々しく吐き捨てる様に捲し立てるルーシーは、張り詰めた視線を早川とぶつけ合う。
「……早川さん」
 ハリーは静かな調子で早川の視線を自分に向けさせ、言葉を続けた。
「確かに、俺らのセールスは振るわないし、新しい事をすべきだとは思いますよ。でも、それを言うなら、今まで自分の意思で弾いてこなかったレインを呼び戻したって同じ事じゃないですか」
「音楽的には似たり寄ったりで結果は知れている」
「やってみなくちゃ分からない、そうじゃないんですか?」
「それは」
「確かに、洋楽にインスパイアされたという大きな括りは同じでも、レインがやっている事は俺達とはまるで違う事で、彼のやってる音楽は一種の前衛音楽、これまでに無い物を作り出そうっていう挑戦的な事ですよね?」
「挑戦的?」
「えぇ、挑戦的ですよ。早川さんとしちゃB級映画のサントラ扱いでしょうけど、売れる為に保守的な物を作るよりはよほど面白い事をしていると思いませんか? それこそ、メタルバンドが作るB級映画のサントラってのは、この上なくぶっ飛んでると思うんですがねえ」
「それは一理ある、だが、君たちはヘビメタじゃあないんだ。ギャンギャンしたギターも、喚き散らかすコーラスも、必要ないだろう」
「確かに俺らはグラムロックですよ。しかし早川さん、今日日ヘビメタだからなんだっていうんです? ジャンルのミクスチャーなんて珍しくも何でもないでしょうよ」
「だが、ヘビメタである必要はないだろう」
「じゃあ俺はどうなるんです? 俺の原点は、早川さんの言うヘビメタ、なんすけど」
「それはそれだよ。別にバンドにそれを持ち込んでないなら関係ないだろう」
「持ち込んでないとは言い切れないっすよ?」
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