87 / 91
第二章 Gambling with the Devil
2-15-2 The stage is ready for you
しおりを挟む
「ケリー」
鴇田に声を掛けられたケリーは頷き、立ち上がる。
「社長、早川さん、それと、滝上君」
声が震えるのを堪えながら、ケリーは二人を見た。
「長らくギタリストが不在の状態で、色々と奔走してもらって、その事には、感謝してもしきれません。だけど……コリーが居なくなった時、ファンミーティングでレインと同じステージに立って、改めて思ったのは……俺達は、やっぱりレインとやっていきたいという事でした」
ケリーの言葉に滝上の表情が曇る。
「あの時……まだ二十歳にならないレインと一緒に居た頃、彼は俺達の言いなりで、アビーが残していった物をそのまま弾いてもらうばかりで、俺達は彼が作る物を知る事が出来ませんでした。でも、三度目のギタリストの不在に直面した時、あぁ、レインが居たら、一体どんな物を作ってくれるんだろうかって事が、拭いきれなくなってしまいました」
早川の表情は渋いが、鷲塚は淡々とケリーの言葉を受け止める。
「俺達のファンでもある滝上君を探し出してくれた社長、そして、俺達の為に努力を惜しまずに待っていてくれた滝上君には、本当に申し訳なくて、謝っても、謝り切れない思いですが……俺と、ハリーと、そしてルーシーの総意は、レインに戻ってきて欲しい、ただそれだけなんです」
早川は悔しさとも怒りともつかない感情を湛え、唇を噛む滝上を見た。
「……ケリー、キミの言い分は分ったよ。だが、事ここに至って、それだけ努力をしてきた滝上君の加入を拒むのはどうかと思うよ。正直言って、日本国内の音楽事情をろくに知りもしない洋楽かぶれの芸術家気取りを出戻りさせるよりは、もっと新しい挑戦をすべきだ。毎度振るわないセールスに辛酸を舐めて来たなら、分かっているだろう?」
「彼を洋楽かぶれの芸術家気取りというなら、僕なんかクビですね」
早川に異を唱えたのはルーシーだった。
「音大卒の音楽教師の成り損ない、誰も弾かないセミコンがかわいそうだからと、事あるごとにショパンだモーツァルトだと弾きに来る僕は、インテリぶった芸術家気取り以外の何物でもありませんからね」
刺々しく吐き捨てる様に捲し立てるルーシーは、張り詰めた視線を早川とぶつけ合う。
「……早川さん」
ハリーは静かな調子で早川の視線を自分に向けさせ、言葉を続けた。
「確かに、俺らのセールスは振るわないし、新しい事をすべきだとは思いますよ。でも、それを言うなら、今まで自分の意思で弾いてこなかったレインを呼び戻したって同じ事じゃないですか」
「音楽的には似たり寄ったりで結果は知れている」
「やってみなくちゃ分からない、そうじゃないんですか?」
「それは」
「確かに、洋楽にインスパイアされたという大きな括りは同じでも、レインがやっている事は俺達とはまるで違う事で、彼のやってる音楽は一種の前衛音楽、これまでに無い物を作り出そうっていう挑戦的な事ですよね?」
「挑戦的?」
「えぇ、挑戦的ですよ。早川さんとしちゃB級映画のサントラ扱いでしょうけど、売れる為に保守的な物を作るよりはよほど面白い事をしていると思いませんか? それこそ、メタルバンドが作るB級映画のサントラってのは、この上なくぶっ飛んでると思うんですがねえ」
「それは一理ある、だが、君たちはヘビメタじゃあないんだ。ギャンギャンしたギターも、喚き散らかすコーラスも、必要ないだろう」
「確かに俺らはグラムロックですよ。しかし早川さん、今日日ヘビメタだからなんだっていうんです? ジャンルのミクスチャーなんて珍しくも何でもないでしょうよ」
「だが、ヘビメタである必要はないだろう」
「じゃあ俺はどうなるんです? 俺の原点は、早川さんの言うヘビメタ、なんすけど」
「それはそれだよ。別にバンドにそれを持ち込んでないなら関係ないだろう」
「持ち込んでないとは言い切れないっすよ?」
鴇田に声を掛けられたケリーは頷き、立ち上がる。
「社長、早川さん、それと、滝上君」
声が震えるのを堪えながら、ケリーは二人を見た。
「長らくギタリストが不在の状態で、色々と奔走してもらって、その事には、感謝してもしきれません。だけど……コリーが居なくなった時、ファンミーティングでレインと同じステージに立って、改めて思ったのは……俺達は、やっぱりレインとやっていきたいという事でした」
ケリーの言葉に滝上の表情が曇る。
「あの時……まだ二十歳にならないレインと一緒に居た頃、彼は俺達の言いなりで、アビーが残していった物をそのまま弾いてもらうばかりで、俺達は彼が作る物を知る事が出来ませんでした。でも、三度目のギタリストの不在に直面した時、あぁ、レインが居たら、一体どんな物を作ってくれるんだろうかって事が、拭いきれなくなってしまいました」
早川の表情は渋いが、鷲塚は淡々とケリーの言葉を受け止める。
「俺達のファンでもある滝上君を探し出してくれた社長、そして、俺達の為に努力を惜しまずに待っていてくれた滝上君には、本当に申し訳なくて、謝っても、謝り切れない思いですが……俺と、ハリーと、そしてルーシーの総意は、レインに戻ってきて欲しい、ただそれだけなんです」
早川は悔しさとも怒りともつかない感情を湛え、唇を噛む滝上を見た。
「……ケリー、キミの言い分は分ったよ。だが、事ここに至って、それだけ努力をしてきた滝上君の加入を拒むのはどうかと思うよ。正直言って、日本国内の音楽事情をろくに知りもしない洋楽かぶれの芸術家気取りを出戻りさせるよりは、もっと新しい挑戦をすべきだ。毎度振るわないセールスに辛酸を舐めて来たなら、分かっているだろう?」
「彼を洋楽かぶれの芸術家気取りというなら、僕なんかクビですね」
早川に異を唱えたのはルーシーだった。
「音大卒の音楽教師の成り損ない、誰も弾かないセミコンがかわいそうだからと、事あるごとにショパンだモーツァルトだと弾きに来る僕は、インテリぶった芸術家気取り以外の何物でもありませんからね」
刺々しく吐き捨てる様に捲し立てるルーシーは、張り詰めた視線を早川とぶつけ合う。
「……早川さん」
ハリーは静かな調子で早川の視線を自分に向けさせ、言葉を続けた。
「確かに、俺らのセールスは振るわないし、新しい事をすべきだとは思いますよ。でも、それを言うなら、今まで自分の意思で弾いてこなかったレインを呼び戻したって同じ事じゃないですか」
「音楽的には似たり寄ったりで結果は知れている」
「やってみなくちゃ分からない、そうじゃないんですか?」
「それは」
「確かに、洋楽にインスパイアされたという大きな括りは同じでも、レインがやっている事は俺達とはまるで違う事で、彼のやってる音楽は一種の前衛音楽、これまでに無い物を作り出そうっていう挑戦的な事ですよね?」
「挑戦的?」
「えぇ、挑戦的ですよ。早川さんとしちゃB級映画のサントラ扱いでしょうけど、売れる為に保守的な物を作るよりはよほど面白い事をしていると思いませんか? それこそ、メタルバンドが作るB級映画のサントラってのは、この上なくぶっ飛んでると思うんですがねえ」
「それは一理ある、だが、君たちはヘビメタじゃあないんだ。ギャンギャンしたギターも、喚き散らかすコーラスも、必要ないだろう」
「確かに俺らはグラムロックですよ。しかし早川さん、今日日ヘビメタだからなんだっていうんです? ジャンルのミクスチャーなんて珍しくも何でもないでしょうよ」
「だが、ヘビメタである必要はないだろう」
「じゃあ俺はどうなるんです? 俺の原点は、早川さんの言うヘビメタ、なんすけど」
「それはそれだよ。別にバンドにそれを持ち込んでないなら関係ないだろう」
「持ち込んでないとは言い切れないっすよ?」
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日7時•19時に更新予定です。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お嬢様の“専属”
ユウキ
恋愛
雪が静かに降りしきる寒空の中、私は天涯孤独の身となった。行く当てもなく、1人彷徨う内に何もなくなってしまった。遂に体力も尽きたときに、偶然通りかかった侯爵家のお嬢様に拾われた。
お嬢様の気まぐれから、お嬢様の“専属”となった主人公のお話。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる