夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第二章 Gambling with the Devil

2-15-4 The stage is ready for you

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「別にヨーロッパのヘビメタなんか知らなくてもヒットソングは生まれるだろう。現にヨーロッパのヘビメタがどれだけ日本で売れている? 売れないものに感化されたところで、売れるものは生まれない」
 早川は侮蔑を帯びた眼差しをレインに向けるが、当のレインはそれに気づいてなどいない。
「確かに欧州のヘヴィメタルが記録的な売り上げを出す事はもうないかもしれません。しかし、とりわけドイツ周辺のバンドの楽曲は日本人好みの哀愁を誘う雰囲気が有りましたし、結局はレインもそうしたバンドを愛好しているわけです。背景にある音楽が邦楽でなくとも、日本人受けする雰囲気というのはよく分かっているでしょう」
「洋楽かぶれに日本人の心が分かるわけがないだろう」
「だったら僕もそうですね、僕が一番好きなのはショパンなので」
 レインを巻き込もうとする早川に対し、ルーシーは当てつけの様に言い放つ。
「ルーシー」
 鴇田は言い争いに発展する議論を止めようとするが、ルーシーはそれを突っぱねた。
「結局のところ、現代音楽なんてものは全部欧米から影響を受けた物じゃないですか。もし、本当に日本人の心や精神に訴えかけられるものが有るとしたら、それは民謡や謡、諸外国からの影響が極めて少なかった時代に形成された音楽だけでしょう……それをミリオンヒットさせられるなら、いくらでも罵倒していただいて構いませんよ」
 早川は静かに拳を握り締め、ルーシーから視線を逸らす。
「ルーシー、君の屁理屈はよーくわかったよ。しかし、どれほど御託を並べたとしても、ヘビメタが売れるとは思わない。それにだよ、滝上君がどれほど努力してきたか分かっているのか? バンドに対する熱意を持った未来ある若者を無碍にするのは、人間としてどうかと思うんだが」
 早川はケリーとハリーに視線を向ける。
「ケリー、君の強みは世代を超えて受け入れられる懐かしくて新しい歌謡曲風味のメロディラインであり、それを活かせるのは邦楽をよく知るギタリストだろう。実際、肩肘張ったグラムロックスタイルからカジュアルダウンした今の方がセールスは伸びているんだ。確かに今は伸び悩んでいるが、此処から起死回生に打って出るなら、少しベクトルの違うフレッシュな才能を受け入れるべきじゃないのか?」
 早川の言葉に、全ての決断を負うケリーの心は揺らぐ。
 俯いて立ち尽くすレインを除く全員の視線を一身に受けながら、ケリーは意を決して口を開いた。
「早川さんの言う事は、よく分かります。でも、俺は……俺は、十四年前、俺の為にギターを聞かせてくれたレインの、誰かの物じゃない、俺達の為の演奏が、知りたいんです」
「ケリー」
 早川はケリーの説得を試みるが、ケリーにそれを受け入れる意思はなかった。
「レイン……あの時弾いてくれた曲、なんだっけ。あれから色々有って、タイトル、思い出せないんだ。あれを聴いて、君に任せたいって思ったのに」
 それはレインにとって悪夢の始まりであり、思い出したくはない光景だった。だが、あの時と同じくケリーに見つめられ、レインは答えざるを得なくなる。
「……ウォリアー。ライオットの、ウォリアー。一曲目のナリタと同じバンドの曲だよ」
 早川は眉を顰めて目を伏せた。
「……社長」
 鴇田は鷲塚に向き直る。
「メンバーはレインの復帰を望んでいて、彼もそれを承諾しました。私もそれに異論はありません。私もまた、レインが何を作るのか、聴いてみたいですからね」
 鴇田の言葉を受け、鷲塚は立ち上がった。
「滝上君、ちょっといいかね。それと、早川さんも」
 鷲塚は滝上と早川を連れ、別室へと向かった。
「あれ、鴇田さん?」
 鷲塚らが去った後、鴇田もまた立ち上がり、ハリーに口を噤むよう身振りで伝え、時間を空けて部屋を出た。
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