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序章 転生先は寄せ植えの世界
中条聡也は異世界に転生した
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「中条聡也、生まれたのは今から二十九年前、平凡極まりない勤め人の父親と、スーパーのレジ打ちをする母親の許に生まれた男。
二歳年下の弟とは幼少期こそ仲が良かったが、気が付けば出来の良い弟の方が可愛がられ、家庭内で孤立。
五歳年下の妹の事は両親と並び溺愛していたが、気が付いた時にはシスコンアニキの汚名を着せられ、妹からは距離を置かれる。
当の本人は中学受験はおろか、高校受験にも失敗。趣味はクイズの博識も試験本番では役に立たず、弟妹の為にと私立のすべり止めも無しに受験した結果、公立の定時制へ仕方なく進学。家庭では出来損ないの恥さらしと罵倒されるも、本来は優秀だった故に首席で卒業し、地元市役所へ入庁を果たす。
しかし、理不尽な市民対応に疲弊し二十歳にして退職、家族から更に罵倒され、ネットカフェを拠点に就職活動を開始する。
ところが、早々に決まった就職先はブラック企業、実家に戻る事が出来たにもかかわらず、朝五時出勤の深夜一時帰宅に耐えかねて会社で寝泊まりする日々を送る。仕事も飛び込み営業で客先から罵倒され、塩をまかれるほどの悪質営業を強いられる有様で一年経たずして退職、ネカフェ難民になる。
それでも負けじと仕事を探し、寮付きの期間工募集から人間扱いされないライン工を半年勤め上げ、レストランの厨房や製パン工場のバイトを転々とした。その間に大型車両の免許も取得し、運送会社に就職。通信販売の需要が急増する中、軽貨物の輸送を中心にこなすが、誤配送を重ねて叱責を受ける事数知れず。
そしてつい数時間前、お主はサイドブレーキを十分に引かぬまま坂道で停車し、車止めを忘れたまま荷物を取り出そうとしてその下敷きになり、死んだ……というわけじゃ」
ふてぶてしい佇まいの何者かに語られたその人生は、悲惨極まりない。
「……あなた、誰ですか。ていうか此処何処ですか。何も無いんですけど、僕仕事が」
「愚か者。言ったであろう、お主は死んだのじゃ」
殻の倉庫の様に灰色で何も無い空間、立っているのは若い男と巻き毛の女だけ。
「いや、死んだって」
「覚えておらぬのか? お主は配送トラックの下敷きになって、さっき死んだのじゃ」
「いやだから死んだって……えぇえ?!」
男は漸く、事の重大さに気付いたらしい。
「し、死んだって、それは困りますよ! まだ再配送の荷物が」
「落ち着かんか。もう荷物を運ぶ必要など無い。お主は死んだのじゃ」
男は力なく冷たい床へ崩れ落ちる。
「そ、そんな……」
男の脳裏を駆け巡るのは、自分の人生が何だったのかという自問自答。
「荷物残したまま死ぬとか、上司になんて言えばいいんだ……荷物だって届けられてないし、何なら事故物件……荷主に怒られちゃうよ……」
「安心せい、その上司とやらも荷主とやらももうお主には関係ない。お主はとっくにただの屍なのじゃ」
「そ、そんなぁ……そ、それじゃあ、僕の人生って……」
「本当に救い様の無い人生じゃったな」
巻き毛の女にとどめを刺され、男は項垂れる。
「とはいえ、絶望するにはまだ早い」
巻き毛の女は静かに男へと近付き、その髪を乱暴に掴んで上を向かせる。
「お主の魂は、幸か不幸か輪廻を外れたのじゃよ」
「りん……ね?」
「そうじゃ。考えてみよ、何ゆえお主は此処に居る?」
男は目を瞠った。少しばかり冷静になれば、今こうして冷たい床に崩れ落ち、乱暴に髪を掴まれている全ての感覚は、肉体に感じていた感覚と何ら変わりないのである。
「そ、それじゃ……」
「お主に新たな名を与えよう。お主は今からソーヤ、何処の誰でもない、純粋無垢なひと柱の魂じゃ」
巻き毛の女は突き放す様に乱暴な勢いで男の髪を放した。
「付いて来い、この世界を案内してやろう」
男は立ち上がり、巻き毛の女の後に続いた。
二歳年下の弟とは幼少期こそ仲が良かったが、気が付けば出来の良い弟の方が可愛がられ、家庭内で孤立。
五歳年下の妹の事は両親と並び溺愛していたが、気が付いた時にはシスコンアニキの汚名を着せられ、妹からは距離を置かれる。
当の本人は中学受験はおろか、高校受験にも失敗。趣味はクイズの博識も試験本番では役に立たず、弟妹の為にと私立のすべり止めも無しに受験した結果、公立の定時制へ仕方なく進学。家庭では出来損ないの恥さらしと罵倒されるも、本来は優秀だった故に首席で卒業し、地元市役所へ入庁を果たす。
しかし、理不尽な市民対応に疲弊し二十歳にして退職、家族から更に罵倒され、ネットカフェを拠点に就職活動を開始する。
ところが、早々に決まった就職先はブラック企業、実家に戻る事が出来たにもかかわらず、朝五時出勤の深夜一時帰宅に耐えかねて会社で寝泊まりする日々を送る。仕事も飛び込み営業で客先から罵倒され、塩をまかれるほどの悪質営業を強いられる有様で一年経たずして退職、ネカフェ難民になる。
それでも負けじと仕事を探し、寮付きの期間工募集から人間扱いされないライン工を半年勤め上げ、レストランの厨房や製パン工場のバイトを転々とした。その間に大型車両の免許も取得し、運送会社に就職。通信販売の需要が急増する中、軽貨物の輸送を中心にこなすが、誤配送を重ねて叱責を受ける事数知れず。
そしてつい数時間前、お主はサイドブレーキを十分に引かぬまま坂道で停車し、車止めを忘れたまま荷物を取り出そうとしてその下敷きになり、死んだ……というわけじゃ」
ふてぶてしい佇まいの何者かに語られたその人生は、悲惨極まりない。
「……あなた、誰ですか。ていうか此処何処ですか。何も無いんですけど、僕仕事が」
「愚か者。言ったであろう、お主は死んだのじゃ」
殻の倉庫の様に灰色で何も無い空間、立っているのは若い男と巻き毛の女だけ。
「いや、死んだって」
「覚えておらぬのか? お主は配送トラックの下敷きになって、さっき死んだのじゃ」
「いやだから死んだって……えぇえ?!」
男は漸く、事の重大さに気付いたらしい。
「し、死んだって、それは困りますよ! まだ再配送の荷物が」
「落ち着かんか。もう荷物を運ぶ必要など無い。お主は死んだのじゃ」
男は力なく冷たい床へ崩れ落ちる。
「そ、そんな……」
男の脳裏を駆け巡るのは、自分の人生が何だったのかという自問自答。
「荷物残したまま死ぬとか、上司になんて言えばいいんだ……荷物だって届けられてないし、何なら事故物件……荷主に怒られちゃうよ……」
「安心せい、その上司とやらも荷主とやらももうお主には関係ない。お主はとっくにただの屍なのじゃ」
「そ、そんなぁ……そ、それじゃあ、僕の人生って……」
「本当に救い様の無い人生じゃったな」
巻き毛の女にとどめを刺され、男は項垂れる。
「とはいえ、絶望するにはまだ早い」
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「お主の魂は、幸か不幸か輪廻を外れたのじゃよ」
「りん……ね?」
「そうじゃ。考えてみよ、何ゆえお主は此処に居る?」
男は目を瞠った。少しばかり冷静になれば、今こうして冷たい床に崩れ落ち、乱暴に髪を掴まれている全ての感覚は、肉体に感じていた感覚と何ら変わりないのである。
「そ、それじゃ……」
「お主に新たな名を与えよう。お主は今からソーヤ、何処の誰でもない、純粋無垢なひと柱の魂じゃ」
巻き毛の女は突き放す様に乱暴な勢いで男の髪を放した。
「付いて来い、この世界を案内してやろう」
男は立ち上がり、巻き毛の女の後に続いた。
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