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第7章 Memory~二人の記憶~
18 露わになる問題
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「ここらで良いか」
「ええ、そうね」
馬を走らせること数十分、目的地の町へ無事辿り着いた私達は馬を降りると、食べ物を求めてやっていた店へと入って行く。その際に目立たないようにフードを被る事も忘れずに。
「そう言えば私達昨日の夜から何も口にしていなかったわね」
「そうだな。そんな余裕もなかったしな。漸く腹ごしらえが出来るな」
「そうね。後でアルテミスにもご飯あげないと」
やっと朝食をとれる事にテンションが上がっていた私がぽろっと口走った言葉にアレスは怪訝な顔をする。
「待て。アルテミスって誰だ?」
そうだった。まだ名前言ってないんだったね。私が勝手に決めちゃって呼んでただけなんだけど。
「馬の事よ。名前で呼んであげなくちゃ可哀想でしょう?」
そう、アルテミスとは私達をここまで乗せて来てくれた馬の名前!
私が命名したのよ!
「アルテミスって……」
「何よ!良いでしょう?それにぱっと思いついたのがこの名前だったんだもの。何か文句でもあるのかしら?」
私がじとりと睨んで反論あるなら受けるわよ、そう言えばアレスは慌てて首を横に振る。
「いやいや、文句はないけどさ。ま、まあいい名前なんじゃないか、アルテミス」
若干笑みが引きつっている気もするけれど、まあ良いとしましょう。
「そうでしょうそうでしょう!我ながら良い命名よね!」
「……そ、そうだな」
そんなこんなで、馬の名前で盛り上がっていたところに頼んでいた食事がタイミング良くが運ばれて来た。お腹がすいて限界だった私達は運ばれてくる食事をぺろっと間食しお腹を満たしたのだった。
「はい、どうぞアルテミス。遅くなってごめんなさいね」
お店の人にお願いして、少し分けて貰った食べ物をアルテミスに与えた。
アルテミスもお腹がすいていたみたいで直ぐにお皿が殻になり、満腹になったようでご満悦の様子。
「アルテミスってリリーシェに懐いているよな」
「え?」
アレスの零した言葉に私は首を捻る。
「リリーシェはやっぱり動物にも好かれるんだな」
「そう、かしら」
アルテミスは良い子と思っていたけれど、私動物に好かれているの?
そんな実感は今まで沸いた事ないけれど。それに特別動物が好きだとか、優しくしようとか意識して思っていないのだけどね。
「よし、腹も膨れた事だしそろそろ行けるか」
「ええ、私は大丈夫よ。アルテミスは平気かしら?」
アレスに頷き次いでアルテミスの様子を伺うと大丈夫とまるで返事のように上機嫌にいななき、その様子に顔が綻んでしまった。
「それじゃあまた後ろに乗ってくれ」
「分かったわ」
そうして今にも出発しようとしたその時――
「きゃーー!誰かっ!!」
「うるせーぞっ!黙ってそいつを寄越せっ!!」
何やら言い争う男女の声が辺り一帯に響き渡ったのだ。何事かと見れば、女性が地面に蹲り何かを懐に抱えていて、それを傍にいる男性が力ずくで奪おうとしているのが見えた。
事情はともかく、状況から見て男性に火があるように私には見え、そしてそう思った時には私は駆け出していた。
「おいっ!」
アレスが慌てて止める声がしたけれど、それを無視して私は二人の元へと駆けて行った。
「何をしているのっ!」
叫ぶと二人の顔が一斉にこちらへと向き、男性は鬼の形相で如何にも機嫌が悪そうだ。女性は今にも涙を流しそうでその表情が言わずもがな助けを求めていた。
「事情は知らないけれどやめなさい!それに無抵抗の女性に手を上げるなんて最低よ!」
「おい、リリーシェっ!」
後から追いかけて来たアレスに腕を掴まれるも気にせず、未だ女性の傍を離れようとしない男性を睨みつける。
「何だお前らっ!関係ねぇだろうが!引っ込んでろっ!お前も早く離せよ!!」
「きゃっ!」
「ちょっとっ!アレスも黙っていないで何とか言って!」
「……仕方ないな」
言っても聞かない男性に少々私も血が上っていたとは思う。けれどそんな中アレスは冷静過ぎなのでは?
そう思って彼に思わず当たってしまった。そんな私に呆れた顔をするもののお願いには答えてくれるようだった。
「おいっ!そこのお前」
私を庇うように前に出るとアレスは男性へと言葉を投げかけた。
「さっきから何なんだよ!すっこんでろっ!!」
「はぁ事情とかどうでも良いんだけどさ。とりあえず煩いし迷惑だからやめてくれないか」
「お前こそさっきからうるせえんだよっ!でしゃばって来るなガキがっ!」
完全に頭に血が上り切っている男性はアレスの分かりやすい挑発に凄い形相で叫び散らす。しかしその男性に対してアレスは臆する事無く、それどころか面倒くさそうにまたため息を吐いていた。
「面倒くせぇな。言っても聞かないんじゃ実力行使しかないよな?」
「なっ!」
そう言うなりアレスから急激な魔力反応。
覗くように見てみると前に突き出した掌に小さい炎が揺らめいていた。
「こいつは俺の加減次第で自由自在に大きさを変えられるんだ。お前を一瞬で消し炭にする事だって可能なんだ」
「ひっ!」
アレスの表情は窺い知れないけれど、凄く圧力をかけていると言う事は分かる。
一瞬で自分を殺せる。それが脅しではないと勘づいた男性は一瞬にして顔を真っ青にさせ、ぶるぶると震え出しアレスに対して分かりやすい程の恐怖の感情を見せた。
そして何度も足をもつれさせながらも慌ててその場から走り去って行き、女性はその様子に安堵してほっと息を吐いていた。
アレスも何度目かのため息を吐くと掌の炎を消しさった。
「あの、助けていただきありがとうございました」
「あーいや、煩かったから追い払っただけだ。礼を言われる事はしていない」
「何格好つけてるのよ。せっかくお礼を言われたんだから素直に受け取りなさいよね」
女性からのお礼を素直に受け取ろうとしない彼に思わず笑ってしまう。素直だったり素直じゃなかったり。未だに彼の情緒は計り知れないわね。
そんな事を思いながら私は改めて女性に向き直った。
「ところであの男はどうして貴方にあんな事を?」
「実は……」
口ごもりながらも話してくれた彼女の話によると、今町では食糧が不足していて苦しい現状があり、元々この町が小さい事と合わさって激しさを増す戦争のせいで更に貧困が悪化してしまっているらしいのだ。
確かに思い返せばお店で出された朝食は一人前と言うには少ない気がしてはいたのだが。あの時はお腹が減っていたから気にしている余裕もなかった。
ともかくそんな厳しい状態の中、食材は一人一つと言う決まりが出来ていたようで、彼女はそれを知っていながら食材を一つ多く買ってしまったらしい。
ここまで聞くと決まりを破った彼女が悪いようにも取れるけれど、それにはちゃんとした理由があった。
彼女のお腹の中には赤ん坊がいたのだ。
その子の分も身体に栄養をつけなくてはならない。
そのために自分の分とお腹の中の赤ちゃんの分で余分に食材を調達したと言う訳。
それならば仕方がないと思うところだけど、さっきの男性はそれを知ってなお責めるような態度をして来たのだと言う。
それは最早言いがかりのほかない。
それに女性にとって子どもは大切な宝だ。子どもを守ろうとするのは当たり前の事。それ位子どもを産んだ事がない私でも分かる。
貧困で皆苦しくて、落ち着かないのは分かるけれど、そんな時だからこそお互い助け合わなければならないのだ。
そんな時にこの現状は非常によろしくないわ。
国を統べる者として私が何とかしなくては。
「話してくれてありがとう。大丈夫よ。この状況を私が何とかして見せるから」
私は座り込んだままの彼女に手を貸しそっと立たせる。
「……あの、貴方達は一体……?」
不思議そうに見つめる彼女に私は笑って答えた。
「ただの旅人よ。それでは失礼するわね。行くわよアレス」
「ああ」
挨拶をするなりアレスを伴い、馬に乗り込むと早々に走り出した。
目的がはっきりとしたものになった。
少し前までは彼が目的を果たすのを支えると言った曖昧なものだったけれど、今心が決まったわ。
私の目的は貧困を無くす事。誰一人苦しむ事なく暮らせるようにする事。
誰も好き好んで争う人はいないし、それは何かしら理由があるからそうなってしまうだけで。皆楽しく笑顔で毎日平凡に暮らしたいはずなんだ。
だから私がその願いを叶える。
その思いを胸に、私は空を仰いだ。雲一つない青空。澄み渡ったその空は今の私の心の有様をそのまま映し出しているかのようだった。
その青空の元、私達を乗せたアルテミスは次の場所へとその足を止める事なく駆けて行くのだった。
「ええ、そうね」
馬を走らせること数十分、目的地の町へ無事辿り着いた私達は馬を降りると、食べ物を求めてやっていた店へと入って行く。その際に目立たないようにフードを被る事も忘れずに。
「そう言えば私達昨日の夜から何も口にしていなかったわね」
「そうだな。そんな余裕もなかったしな。漸く腹ごしらえが出来るな」
「そうね。後でアルテミスにもご飯あげないと」
やっと朝食をとれる事にテンションが上がっていた私がぽろっと口走った言葉にアレスは怪訝な顔をする。
「待て。アルテミスって誰だ?」
そうだった。まだ名前言ってないんだったね。私が勝手に決めちゃって呼んでただけなんだけど。
「馬の事よ。名前で呼んであげなくちゃ可哀想でしょう?」
そう、アルテミスとは私達をここまで乗せて来てくれた馬の名前!
私が命名したのよ!
「アルテミスって……」
「何よ!良いでしょう?それにぱっと思いついたのがこの名前だったんだもの。何か文句でもあるのかしら?」
私がじとりと睨んで反論あるなら受けるわよ、そう言えばアレスは慌てて首を横に振る。
「いやいや、文句はないけどさ。ま、まあいい名前なんじゃないか、アルテミス」
若干笑みが引きつっている気もするけれど、まあ良いとしましょう。
「そうでしょうそうでしょう!我ながら良い命名よね!」
「……そ、そうだな」
そんなこんなで、馬の名前で盛り上がっていたところに頼んでいた食事がタイミング良くが運ばれて来た。お腹がすいて限界だった私達は運ばれてくる食事をぺろっと間食しお腹を満たしたのだった。
「はい、どうぞアルテミス。遅くなってごめんなさいね」
お店の人にお願いして、少し分けて貰った食べ物をアルテミスに与えた。
アルテミスもお腹がすいていたみたいで直ぐにお皿が殻になり、満腹になったようでご満悦の様子。
「アルテミスってリリーシェに懐いているよな」
「え?」
アレスの零した言葉に私は首を捻る。
「リリーシェはやっぱり動物にも好かれるんだな」
「そう、かしら」
アルテミスは良い子と思っていたけれど、私動物に好かれているの?
そんな実感は今まで沸いた事ないけれど。それに特別動物が好きだとか、優しくしようとか意識して思っていないのだけどね。
「よし、腹も膨れた事だしそろそろ行けるか」
「ええ、私は大丈夫よ。アルテミスは平気かしら?」
アレスに頷き次いでアルテミスの様子を伺うと大丈夫とまるで返事のように上機嫌にいななき、その様子に顔が綻んでしまった。
「それじゃあまた後ろに乗ってくれ」
「分かったわ」
そうして今にも出発しようとしたその時――
「きゃーー!誰かっ!!」
「うるせーぞっ!黙ってそいつを寄越せっ!!」
何やら言い争う男女の声が辺り一帯に響き渡ったのだ。何事かと見れば、女性が地面に蹲り何かを懐に抱えていて、それを傍にいる男性が力ずくで奪おうとしているのが見えた。
事情はともかく、状況から見て男性に火があるように私には見え、そしてそう思った時には私は駆け出していた。
「おいっ!」
アレスが慌てて止める声がしたけれど、それを無視して私は二人の元へと駆けて行った。
「何をしているのっ!」
叫ぶと二人の顔が一斉にこちらへと向き、男性は鬼の形相で如何にも機嫌が悪そうだ。女性は今にも涙を流しそうでその表情が言わずもがな助けを求めていた。
「事情は知らないけれどやめなさい!それに無抵抗の女性に手を上げるなんて最低よ!」
「おい、リリーシェっ!」
後から追いかけて来たアレスに腕を掴まれるも気にせず、未だ女性の傍を離れようとしない男性を睨みつける。
「何だお前らっ!関係ねぇだろうが!引っ込んでろっ!お前も早く離せよ!!」
「きゃっ!」
「ちょっとっ!アレスも黙っていないで何とか言って!」
「……仕方ないな」
言っても聞かない男性に少々私も血が上っていたとは思う。けれどそんな中アレスは冷静過ぎなのでは?
そう思って彼に思わず当たってしまった。そんな私に呆れた顔をするもののお願いには答えてくれるようだった。
「おいっ!そこのお前」
私を庇うように前に出るとアレスは男性へと言葉を投げかけた。
「さっきから何なんだよ!すっこんでろっ!!」
「はぁ事情とかどうでも良いんだけどさ。とりあえず煩いし迷惑だからやめてくれないか」
「お前こそさっきからうるせえんだよっ!でしゃばって来るなガキがっ!」
完全に頭に血が上り切っている男性はアレスの分かりやすい挑発に凄い形相で叫び散らす。しかしその男性に対してアレスは臆する事無く、それどころか面倒くさそうにまたため息を吐いていた。
「面倒くせぇな。言っても聞かないんじゃ実力行使しかないよな?」
「なっ!」
そう言うなりアレスから急激な魔力反応。
覗くように見てみると前に突き出した掌に小さい炎が揺らめいていた。
「こいつは俺の加減次第で自由自在に大きさを変えられるんだ。お前を一瞬で消し炭にする事だって可能なんだ」
「ひっ!」
アレスの表情は窺い知れないけれど、凄く圧力をかけていると言う事は分かる。
一瞬で自分を殺せる。それが脅しではないと勘づいた男性は一瞬にして顔を真っ青にさせ、ぶるぶると震え出しアレスに対して分かりやすい程の恐怖の感情を見せた。
そして何度も足をもつれさせながらも慌ててその場から走り去って行き、女性はその様子に安堵してほっと息を吐いていた。
アレスも何度目かのため息を吐くと掌の炎を消しさった。
「あの、助けていただきありがとうございました」
「あーいや、煩かったから追い払っただけだ。礼を言われる事はしていない」
「何格好つけてるのよ。せっかくお礼を言われたんだから素直に受け取りなさいよね」
女性からのお礼を素直に受け取ろうとしない彼に思わず笑ってしまう。素直だったり素直じゃなかったり。未だに彼の情緒は計り知れないわね。
そんな事を思いながら私は改めて女性に向き直った。
「ところであの男はどうして貴方にあんな事を?」
「実は……」
口ごもりながらも話してくれた彼女の話によると、今町では食糧が不足していて苦しい現状があり、元々この町が小さい事と合わさって激しさを増す戦争のせいで更に貧困が悪化してしまっているらしいのだ。
確かに思い返せばお店で出された朝食は一人前と言うには少ない気がしてはいたのだが。あの時はお腹が減っていたから気にしている余裕もなかった。
ともかくそんな厳しい状態の中、食材は一人一つと言う決まりが出来ていたようで、彼女はそれを知っていながら食材を一つ多く買ってしまったらしい。
ここまで聞くと決まりを破った彼女が悪いようにも取れるけれど、それにはちゃんとした理由があった。
彼女のお腹の中には赤ん坊がいたのだ。
その子の分も身体に栄養をつけなくてはならない。
そのために自分の分とお腹の中の赤ちゃんの分で余分に食材を調達したと言う訳。
それならば仕方がないと思うところだけど、さっきの男性はそれを知ってなお責めるような態度をして来たのだと言う。
それは最早言いがかりのほかない。
それに女性にとって子どもは大切な宝だ。子どもを守ろうとするのは当たり前の事。それ位子どもを産んだ事がない私でも分かる。
貧困で皆苦しくて、落ち着かないのは分かるけれど、そんな時だからこそお互い助け合わなければならないのだ。
そんな時にこの現状は非常によろしくないわ。
国を統べる者として私が何とかしなくては。
「話してくれてありがとう。大丈夫よ。この状況を私が何とかして見せるから」
私は座り込んだままの彼女に手を貸しそっと立たせる。
「……あの、貴方達は一体……?」
不思議そうに見つめる彼女に私は笑って答えた。
「ただの旅人よ。それでは失礼するわね。行くわよアレス」
「ああ」
挨拶をするなりアレスを伴い、馬に乗り込むと早々に走り出した。
目的がはっきりとしたものになった。
少し前までは彼が目的を果たすのを支えると言った曖昧なものだったけれど、今心が決まったわ。
私の目的は貧困を無くす事。誰一人苦しむ事なく暮らせるようにする事。
誰も好き好んで争う人はいないし、それは何かしら理由があるからそうなってしまうだけで。皆楽しく笑顔で毎日平凡に暮らしたいはずなんだ。
だから私がその願いを叶える。
その思いを胸に、私は空を仰いだ。雲一つない青空。澄み渡ったその空は今の私の心の有様をそのまま映し出しているかのようだった。
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