幸せな人生を目指して

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番外編

皆のバレンタインの話

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これはとある日の少年少女達の話。

ある日の前日。

ルカside

ある日の朝。僕は姿の見えない主人の姿を探し、屋敷内を歩いていた。
あの方は思いついたら即行動する性格なので、このように屋敷内を探し回るのはもう日常茶飯事となっている。
いつもは頭を悩ませるところだが、今日に限ればそれとなく居場所が分かる。

そう考え僕はある場所へと足を向けた。

向かった先は厨房。通常シェフや使用人が使用する場だが、今日に限ってその場所で思った通りの人物を見つけた。
こちらに背を向け、一生懸命何か作業をしているらしく僕がいる事に気が付いていない。一度集中すると周りが見えなくなるのは困りものだが、もう見慣れてしまった。
それに彼女が今何をしているのかにも見当はつく。

「やはりここでしたか。エル様」

声をかけると肩をびくりとさせ、彼女が振り向く。

「ルカ……。もう、びっくりさせないで下さい」

予想通りの反応に思わず笑うと、それを見たエル様の頬がプーっと膨れる。本人は怒っているのでしょうが、その表情では怖いと言うよりどちらかと言うと可愛らしく見えてしまう。しかしこれ以上笑ってしまってはエル様に失礼だと思い、込み上げてくものを抑えると彼女に向き直り声をかける。

「朝から姿が見えないので探しましたが、ここにいたという事はまた‘‘アレ‘‘を作っているのですか?」

そう訊くと彼女はにっこりと笑った。

「その通りです。バレンタインチョコレートを作っていたのですよ」

父様達と学院の皆、それに勿論ルカの分もありますよ。と興奮気味に主張をしてくる小さな主人。


エル様曰く、バレンタインデーといった特別な日があり、お世話になっている方々にチョコレートを渡すのが習わしなんだとか。それが明日で、そんな習慣聞いた事がなかった僕は、この話を昨年初めて聞かされ大いに首を傾げたのを覚えている。
ただエル様の突発的な行動は今に始まった事ではなく、その度に彼女の口から出てくる言葉は我々の知らないものばかりで、思わず感心してしまうのだった。

彼女の行動は危なっかしいとは思う反面、見ていて飽きないとも思う。
今もバレンタインチョコレート、とやらを一生懸命作っている彼女の姿を見ていると、微笑ましく、そして応援したい気持ちになるのだった。


そういえばチョコレートを渡すのはお世話になっている人、だけでなく友人や思いを寄せている人にも渡す事があると言っていた気もするが――。
友人に渡すものを友チョコ。そして思いを寄せる人に渡すものを本命チョコ。というようだが、実際に渡された側からしたらどちらから分からず勘違いする輩も出てくるのでは?とふと思った。特に学院では。
エル様が気づいていないだけで、彼女に思いを寄せている男は多いのだ。
本人にその気はなくとも相手はどうとるか分からないもの。彼女の疎さは幸か不幸か……。

微笑ましい気持ちが一変、ルンルンと楽し気なエル様には申し訳ないが、僕は明日が不安でしかなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
当日。

アリンside

「アリンちゃん。今少し時間良いですか?」

朝、学院へ行く支度をしていると部屋の扉がノックされ、エル様の声が聞こえてくる。
私ははいと短く返事を返して扉を開けた。するとそこに何かを手に持ったエル様が立っていて。

「何かご用ですか?」

戸惑いながらそう問うと、エル様はにこりと笑って言う。

「実はですね。今日はバレンタインデーなのでこちらをアリンちゃんに渡したくて」

そう言い手に持っていた包みを私に見せる。

バレンタインデー……。そう言えば前にもその名前を聞いた事があったと思い出す。その時は確かチョコレートを貰ったんだ。
と言う事はこの中身は――。

「どうやら分かったようですね。その通り、チョコレートですよ」

ニコニコと笑みを浮かべたエル様に、はいと持っていた包みを渡され、私は受け取った包みを見つめた。
こう言う時ってどういった顔をすれば良いのだろうか。

「あ、ありがとうございます」

咄嗟にお礼を述べるが、それに表情が合っているのか分からない。もしかしたら引き攣っているかもしれないが、それでも人から何か貰ったら感謝の気持ちを伝えるのだと教わったので、感謝の気持ちを声に出して伝えてみる。

「どういたしまして!」

未だ感情表現が苦手な私に、それでもエル様は笑顔で応えてくれた。
気を使わせてしまったと思う事はあるが、でも最近はそれ以上に、この人の笑顔を見ると心が温かくなるのだから不思議だ。

「受け取って貰えて良かったです。
あっ、すみません。私まだ支度が終わってなくて……。これで失礼しますね!」

また後で!そう言い残しエル様は早々に私の部屋を去って行く。余裕がない慌ただしい行動だが、その姿に笑みが零れた。

人の気持ちと言うものをまだ全て理解出来た訳ではないが、それでもこの贈り物からは、エル様の気持ちの籠った思いが感じられて私は嬉しく思った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レヴィside

授業が終わり、暫しの休憩時間をゆっくり過ごそうと思っていた時だ。

「レヴィ君。これ良かったら受け取って下さい」

そう声をかけてきたのはエルだった。

「これは……」

「バレンタインチョコレートです!」

デジャブかよと思いながら俺は目の前でニコニコと笑みを浮かべるエルを見返した。

……いや、デジャブじゃないか。去年もこいつから同じセリフを聞いてるしな。と去年も同じような事をエルから言われたのを俺は思い出していた。

その本人は満面の笑みで、その包みを俺に渡す。

「友チョコ……とかいうやつか?」

「はい!いつもお世話に…違うかな?仲良くして頂いているので、その感謝の気持ちです」

一瞬怪しい部分があったがそれを誤魔化すように笑った。
眉を顰めたり笑ったりと忙しない奴だな……。

「去年に続いて今年もか……。まあ何だ、一応受け取るが、お返しは期待するなよ」

去年と同じく今回もこいつの手作りなんだろうこれ。お返しは手作りで、とか言われたら無理からな。俺料理なんてした事ないし。

「気にしないで良いですよ?去年も言いましたけど、見返りを求めている訳ではありませんし、これは私の日頃の感謝の気持ちですから」

「お、おう……。分かった」

身を乗り出してくるエルに言葉が詰まる。

「ちゃんと渡しましたからね。では皆にも渡してきますので!」

俺が何も言えずにいるとでは、と言い残し、エルは渡すものだけ渡して行ってしまった。


はあ…と深い溜息を吐く。長い話していた訳でもないのに何故か疲れた。まるで嵐が去った後のような気分だ。
と、そう思ったんだが、教室のあちらこちらから視線を感じ、まだ嵐は過ぎ去っていなかったのだと察してまた溜息が出る。
周りからの視線と教室中からの――特に男子達の――騒めきがどうも耳障りだった。
羨ましい、だの俺ももらえるかな?と言った浮足立った男子達の声が聞こえてくる。

チョコレートを貰う意味を知らなくとも、女子から物を貰えるってだけであいつらは満足なんだろう。
それも男子達の間でマドンナ的存在となっているエルからの贈り物ともなれば尚更……。
そりゃあの容姿であの笑顔を見せられたら…まあ、そうなるよな。

日頃のエルの言動を思い返して途方に暮れそうになる。


それにしてもさっきから鬱陶しい。羨望から嫉妬まで男子達の視線が俺に刺さりまくる。

休憩時間くらいゆっくりしたかったが無理そうだ……。
そう思った俺は面倒に思いながらも教室を後にした。

その後、放課後までクラスの奴らの視線が付き纏い続け、俺は本日何度目か分からないを溜息をまた吐いたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユキside

「ハッピーバレンタイン、ユキ。これ良ければ受け取って下さい」

朝から元気な友人、エルからそう言われて渡されたのは小さな包みだった。
それをそう言えば見て前にもこんな事があったなと思い出す。

「あら、ありがとう。また今年もくれるのね」

「はい!私の気持ちですよ」

中身は恐らくチョコレートだと見当は付いたが、中身が何であれ、この子からの贈り物なら私は何でも嬉しいし、こう言う普段恥ずかしくて言えないような事をストレートに言ってしまうエルの素直な性格も私のお気に入りだ。
一緒にいて楽しいし、見ていて飽きないもの。

「ありがとう。そう言えばレヴィ達にはもう渡したの?」

「はい。レヴィ君には先程渡しましたよ。…何だか素っ気ない感じでしたが、多分内心では喜んでくれていると思います」

「きっと喜んでいるから大丈夫よ」

そう言って苦笑いを浮かべるエル。
エルはそう言うけれど彼は絶対に喜んでいると思うわ。分かりやすいもの。その場にいなくても想像に容易い。

「そうですよね。……と、すみません。一旦失礼しますね」

「まだ他に渡す人がいるようね。分かったわ。早く行って来なさい」

「ありがとうございます。行ってきますね」

エルは元気良くそう言って行ってしまった。
その背中を見つめながら、本当に見ていて飽きないわ、と思わず笑ってしまったがエルには内緒だ。

それに……先程から視線を感じるけれど、今はそんなに嫌な気はしないわね。
感じた視線の方を向くと、私はふふっとわざとらしく笑った。
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