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第10章 アマビリスの乙女

16 異変

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シェルバート伯爵家での一件、そして学院長との面会で話し合われた内容。その詳細を後日、その場にいなかったユキ、レヴィ君、アリンちゃん、そして母様にも伝え、シェルバート伯爵家には付いて来てくれたものの、学院長の面会の時には馬車で待たせてしまい、話を知らないルカにもその時の話は共有済みだ。

それから父様にも少し時間を貰い、魅了魔法について聞いてみたが、やはり学院長と同じ回答であり、証拠はないにしても、学院長との話し合いで自身の考えに信憑性が増したのは間違いなかった。


そしてそんな事があって直ぐ、異変が起こった。

その日、いつも通り学院へと向かっていた私の視界に、ふと件の人物――ベラ先輩の姿が映った。
普通なら驚く事もないが、今は彼女の事を疑っている段階。つい目で追ってしまうのも致し方ない。
とは言え、彼女の方は私に気づく様子はなく、後ろ姿がどんどん遠くなって行く。

…何だか気まずいな。

何をした訳でもないのについそんな事を思ってしまう。
とそんな事を考えていると、彼女の後をゆっくりと追うようにして付いていく、一人の男子生徒の姿を視界が捉えた。
追っていると言っても一定の距離を空け、先輩に悟られないように配慮はしているようだが。

…あの人って。

その生徒は一見不審な行動をとっているように見えるが、彼が怪しい人物ではないと私は直ぐに思い直す。

何故なら、きっと彼が学院長が言っていた、‘‘先輩の監視と護衛役に適任‘‘の、信頼出来る優秀な人物なのだろう、と察した為だ。

彼の名前はテオ・アスツゥール。
確かに彼なら適任だろう。何せ名前からも分かるように、彼は学院長の実の息子なのだから。

学院長に御子息がいた事を知ってはいたが、監視と護衛に彼を指名するとは流石に思わなかった。でも実の息子ならば確かに信用も信頼も出来るし、学院に生徒として通っているという事は、その腕前もやはり優秀なのだろう。
学院長が直々に評価するくらいなのだから間違いない。

……ん?あれ?もしかして学院長も親バカ…?

とは思ったけれど黙っておく。それが良い。


とにかく直ぐに動いてくれたのは良かった。先輩の身にもしも危険が迫ったとしても、彼が対処してくれるだろうから。
となれば暫くの間、私達は下手に動かない方が逆に良いだろう。先輩の様子を見ていてくれる彼を通して、私達にも学院長から定期的な連絡があるだろうから。

そう思い私は授業に遅れまいと、止めていた足を再度踏み出すと、教室へと急いだのだった。



それから暫く特に何も起こらず、気になる事もなく、不気味な程平穏な日々が続いていたのだが、そんな折だった。唐突に事態が動いたのは。

思っていた通り、ベラ先輩の様子は定期的にテオ先輩を通じて、学院長から知らされていたが、そんなある日、学院長から急遽呼び出しがあり、先輩が怪しい動きを見せたとの知らせを聞いたのだった。

そこからの動きは早いもので。

既に学院長室に姿を見せていたテオ先輩と、私、姉様、そしてレヴィ君は事情を聞くなり直ぐ様行動に移す事となった。


一先ず何があったかと言うと、
なんでもベラ先輩は、朝はいつも通り学院へ来たらしいのだが、その後突然焦ったように慌てて学院から出ていったらしく、その行動を目撃したテオ先輩が彼女の足取りを追って行くと、辿り着いた先はクーバー子爵邸だったらしく。
それを聞いた学院長は、早急にクーバー子爵家へと向かうようテオ先輩に告げ、私達も同行し共に向かう事となった、と言うのが事の成り行きだった。

今回は急な為、学院長が用意してくれた馬車で向かうが、ルカとユキ、そしてアリンちゃんはこのまま学院に残ってもらう事になっている。
先輩の行動の意図がはっきりと分からないのもあり、彼女がもしもまた学院に戻ってくる可能性を考えての配慮だ。
それに魔法も剣もどちらも使える実力派のレヴィ君に、成績優秀で高い魔力量を誇る姉様、そして学院長のお墨付きであるテオ先輩。この三人がいてくれるだけで私としてはとても心強く、何となくこの先何があっても大丈夫だと、自分でも驚く程自信があるのだ。

それに感だが、この騒動の終結はもう近いのではないか。そんな予感もしていた。




クーバー子爵邸は学院から少し距離の離れた土地にあり、敷地は広大とは言えないものの、建物自体は豪華なものでそれなりに大きい。その場所を見た人々は、敷地の大きさよりもお邸の絢爛さに目を奪われる事だろう。
何と言うべきか、ベラ先輩が住んでいると言われると妙に納得してしまう。まるで彼女の性格を体現しているかのようで。

その場所に既に私達は到着しており、とは言え慎重に行動しなければならないので、邸からは少し離れた場所に馬車を置き、その先は歩きで子爵邸へと向かっている最中だった。

子爵邸の周りには林が生い茂り、丁度良い具合に私達の姿を隠してくれる。

そんな中、先程話した豪華絢爛な子爵邸がその姿を現した。

「あれ?門が開いていますね」

林の影からお邸を伺いながら私はふと思った事を零す。

「開けたままなんて不用心ね」

私に続いて姉様も訝し気にそう呟く。

「急いでいたという事は間違いないようだな」

「そのようですね」

レヴィ君とテオ先輩も様子がおかしい事に警戒を見せる。

確かに門を開けたままにしているのは不用心だ。何か急ぎの用事があったのだとしても、そのままと言うのは警戒心がなさすぎる。


テオ先輩が目撃したと言う、ベラ先輩が慌てた様子でこの邸まで戻って来たと言う情報。
間違いない。彼女が戻ったと知らせを受けてから直ぐにここへ来たのだから、そこまで時間は経っていない。
それに彼女が学院へ戻ったと言う知らせも学院からは届いていない。という事は彼女はまだこの邸の中にいる。そう確信した。

あの自信家なベラ先輩が慌てていたと言うのが何か引っかかるが、今一度気を引き締める必要があるようだ。

「どうします?裏から回って見ますか?」

「いえ、時間も惜しいですし、このまま正面突破で行きましょう」

私が短く尋ねるとテオ先輩が淡々とそう答え、

「そうね。一刻も早く何があったのか確かめたいもの」

「ならとっとと行こう」

テオ先輩の提案に姉様、そしてレヴィ君も同意を示す。

「ではレヴィさんと私が先に、アメリアさんとエルシアさんはその後から付いて来て下さい」

「分かったわ」

「分かりました」

「では行きましょう」

テオ先輩指示の元、彼ら二人を先頭に私と姉様はその後に続いた。


こんな時にも関わらず、テオ先輩と話しているとつい変な感覚に陥ってしまう。その身のこなしからか、物言いからか、どうしても同じ子供とは思えず、何と言うか大人と話しているような気がして不思議な気分になる。
あのアスツゥール学院長の面影もあり、学院では先輩であるに年下の私達に対して丁寧な物言いをする、少し変わった好青年、と言った印象を持たせる彼。
それと同時に物事を冷静に判断し動ける行動力もあり、まるでルカを見ているような気になり親近感も感じて、何となく一緒にいて落ち着くのも確かで――。

そんな事をつい考えてしまうのだが、今は一旦頭の片隅に無理矢理にでもその考えは押しやって、目の前の事だけに集中すべく、深呼吸をして気持ちを切り替えたのだった。
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