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第5話:初めての夜
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その悪魔のような出会いから、すべては信じられない速さで急展開した。玲の完璧なプロデュースのもと、樹は「一条樹」として彗星のように音楽シーンにデビュー。玲の緻密かつ大胆な戦略と、圧倒的な楽曲の力、そして樹のカリスマ性が奇跡の化学反応を起こし、デビューシングルはあらゆる音楽チャートを席巻した。一躍スターダムの頂点に押し上げられた樹は、目まぐるしい日々の中で玲への純粋な感謝と狂信的な尊敬の念を日に日に強くしていった。玲は樹にとって唯一無二の恩人であり、揺るぎない目標であり、抗い難い絶対的な神だった。
初めて身体を重ねたのは、目も眩むような成功と熱狂に包まれた、嵐のような一夜だった。
ファーストアルバムがミリオンセラーを達成し、その年の音楽賞を総なめにした祝賀パーティー。会場には業界関係者が大勢詰めかけ、樹は華やかなスポットライトを浴び、重鎮たちから次々と称賛の言葉を贈られた。
高級なシャンパンを勧められるままに何杯も空けるうちに、現実感は遠のき、雲の上を歩いているような気分に包まれる。
パーティーがお開きになると、玲が何も言わずに手招きした。樹はそのまま、二人きりで彼のプライベートスタジオへと向かった。
静まり返ったリビングには、飲みかけの高級ワインボトルとクリスタルグラスが二つ。これから始まる秘密の儀式を静かに待ち受けているように置かれていた。
「…玲さん、今日は、本当に…ありがとうございました…!」
呂律が怪しいながらも樹は心の底からの感謝を必死で伝えた。玲がいなければ今の自分は絶対に存在しない。その思いはもはや純粋な尊敬を超え、盲目的な崇拝に近いものだった。
「お前が俺の期待以上の力で応えたからだ、樹。お前の才能が俺の音楽をさらなる高みへと導いた」
玲はその夜、珍しく人間的な穏やかさを湛えた声でそう言うと、樹の隣に腰を下ろしその細い肩にためらいもなく腕を回した。アルコールのせいか、玲の体温が熱病のようにやけに熱く感じられる。普段のクールな玲とは違う、危険なほど甘い雰囲気に樹の心臓がこれまでにないほど大きく、不規則に音を立て始めた。
「俺…玲さんの曲、歌えて、本当に…幸せ、です…」
言葉が熱い吐息と共に途切れる。玲の顔がすぐそこにあった。吸い込まれそうなほど深い黒い瞳がじっと樹を見つめている。樹は自分がノーマルだと自覚していた。だがその時の玲は樹にとって男とか女とか、そんな区別など意味をなさない、抗えない強烈な磁力を持つ存在に見えた。
玲の冷たいほどに美しい指が、そっと樹の火照った頬を撫でる。そして鼓膜を直接震わせるような囁き声で言った。
「樹…お前は本当に綺麗だ。俺の音楽を奏でるために生まれてきた、俺だけのミューズだ」
その言葉が、最後の引き金だったのだろうか。
気づけば、唇が柔らかく、けれども有無を言わせぬ力で重なっていた。
突然の接触に息を呑む。驚きと未知の感覚への戸惑い。心の奥底で密かに芽吹いていた“禁断”の領域へと、ついに足を踏み入れてしまった恐怖が静かに樹を蝕んでいく。
だが玲のキスは驚くほど巧みで、そしてどこまでも優しかった。
それは樹のわずかな理性を瞬く間に溶かし、体の奥深くからじわじわと熱を呼び覚ます。気づけばその熱は、もう抗えないほどに広がっていた。
(ダメだ、こんなの…俺は…玲さんは、男で…)
内心の叫びは、玲の巧みな舌の動きによって甘い吐息と共に封じ込められる。
いつの間にか服は脱がされ、まだ誰にも見せたことのない素肌が夜の空気に晒された。
玲の熱く探るような手が、貴重な楽器を確かめるように樹の全身を這い回る。
樹は言いようのない不安でいっぱいだった。だが玲のリードはどこまでも優しく、しかし決して逃がさない強い意志に貫かれている。
その手は驚くほど的確に、本人すらまだ知らなかった敏感な場所を刺激していく。
初めて経験する強烈な快感の波に、樹の身体は正直すぎるほどに反応した。びくびくと震え、熱いものが込み上げてくるのを止められない。
「…っ、あ…れ、さん…んぅ…っ、ぁ…」
自分のものではないような、甘く情けない声が静かな部屋に漏れた。
玲はそんな樹の初々しい反応を、極上の芸術品を愛でるように楽しんでいるかのようだ。
そして耳元で、さらに甘く、わずかにS的な響きを込めて囁いた。
「気持ちいいか、樹…?もっと、もっと感じさせてやる。お前が俺以外の何も考えられなくなるくらいに」
その夜、樹は玲に全身全霊で抱かれ、生まれて初めて知る激しい快感に溺れた。
それは樹にとって初めての同性との、そして初めての本当の意味での性愛体験だった。
玲への絶対的な信頼と狂信的な崇拝の念が、抗えない肉体的快楽と切り離せないほど強く結びついた、まさに運命の瞬間。
この時の玲は、まだ後のような冷酷なS気や支配欲を露骨には見せていなかった。ただ樹という唯一無二の才能を誰にも渡さず自分のものにするという、静かで底知れない独占欲だけが、その計算され尽くした手つきや熱を帯びた視線に濃密に滲み出ていた。
初めて身体を重ねたのは、目も眩むような成功と熱狂に包まれた、嵐のような一夜だった。
ファーストアルバムがミリオンセラーを達成し、その年の音楽賞を総なめにした祝賀パーティー。会場には業界関係者が大勢詰めかけ、樹は華やかなスポットライトを浴び、重鎮たちから次々と称賛の言葉を贈られた。
高級なシャンパンを勧められるままに何杯も空けるうちに、現実感は遠のき、雲の上を歩いているような気分に包まれる。
パーティーがお開きになると、玲が何も言わずに手招きした。樹はそのまま、二人きりで彼のプライベートスタジオへと向かった。
静まり返ったリビングには、飲みかけの高級ワインボトルとクリスタルグラスが二つ。これから始まる秘密の儀式を静かに待ち受けているように置かれていた。
「…玲さん、今日は、本当に…ありがとうございました…!」
呂律が怪しいながらも樹は心の底からの感謝を必死で伝えた。玲がいなければ今の自分は絶対に存在しない。その思いはもはや純粋な尊敬を超え、盲目的な崇拝に近いものだった。
「お前が俺の期待以上の力で応えたからだ、樹。お前の才能が俺の音楽をさらなる高みへと導いた」
玲はその夜、珍しく人間的な穏やかさを湛えた声でそう言うと、樹の隣に腰を下ろしその細い肩にためらいもなく腕を回した。アルコールのせいか、玲の体温が熱病のようにやけに熱く感じられる。普段のクールな玲とは違う、危険なほど甘い雰囲気に樹の心臓がこれまでにないほど大きく、不規則に音を立て始めた。
「俺…玲さんの曲、歌えて、本当に…幸せ、です…」
言葉が熱い吐息と共に途切れる。玲の顔がすぐそこにあった。吸い込まれそうなほど深い黒い瞳がじっと樹を見つめている。樹は自分がノーマルだと自覚していた。だがその時の玲は樹にとって男とか女とか、そんな区別など意味をなさない、抗えない強烈な磁力を持つ存在に見えた。
玲の冷たいほどに美しい指が、そっと樹の火照った頬を撫でる。そして鼓膜を直接震わせるような囁き声で言った。
「樹…お前は本当に綺麗だ。俺の音楽を奏でるために生まれてきた、俺だけのミューズだ」
その言葉が、最後の引き金だったのだろうか。
気づけば、唇が柔らかく、けれども有無を言わせぬ力で重なっていた。
突然の接触に息を呑む。驚きと未知の感覚への戸惑い。心の奥底で密かに芽吹いていた“禁断”の領域へと、ついに足を踏み入れてしまった恐怖が静かに樹を蝕んでいく。
だが玲のキスは驚くほど巧みで、そしてどこまでも優しかった。
それは樹のわずかな理性を瞬く間に溶かし、体の奥深くからじわじわと熱を呼び覚ます。気づけばその熱は、もう抗えないほどに広がっていた。
(ダメだ、こんなの…俺は…玲さんは、男で…)
内心の叫びは、玲の巧みな舌の動きによって甘い吐息と共に封じ込められる。
いつの間にか服は脱がされ、まだ誰にも見せたことのない素肌が夜の空気に晒された。
玲の熱く探るような手が、貴重な楽器を確かめるように樹の全身を這い回る。
樹は言いようのない不安でいっぱいだった。だが玲のリードはどこまでも優しく、しかし決して逃がさない強い意志に貫かれている。
その手は驚くほど的確に、本人すらまだ知らなかった敏感な場所を刺激していく。
初めて経験する強烈な快感の波に、樹の身体は正直すぎるほどに反応した。びくびくと震え、熱いものが込み上げてくるのを止められない。
「…っ、あ…れ、さん…んぅ…っ、ぁ…」
自分のものではないような、甘く情けない声が静かな部屋に漏れた。
玲はそんな樹の初々しい反応を、極上の芸術品を愛でるように楽しんでいるかのようだ。
そして耳元で、さらに甘く、わずかにS的な響きを込めて囁いた。
「気持ちいいか、樹…?もっと、もっと感じさせてやる。お前が俺以外の何も考えられなくなるくらいに」
その夜、樹は玲に全身全霊で抱かれ、生まれて初めて知る激しい快感に溺れた。
それは樹にとって初めての同性との、そして初めての本当の意味での性愛体験だった。
玲への絶対的な信頼と狂信的な崇拝の念が、抗えない肉体的快楽と切り離せないほど強く結びついた、まさに運命の瞬間。
この時の玲は、まだ後のような冷酷なS気や支配欲を露骨には見せていなかった。ただ樹という唯一無二の才能を誰にも渡さず自分のものにするという、静かで底知れない独占欲だけが、その計算され尽くした手つきや熱を帯びた視線に濃密に滲み出ていた。
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