ディソナンス・コード:残響

魔王の下僕

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第13章「転回点」 (佐原視点)

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あき午後ごごは、しずけさのうらにどこかめた空気くうきはらんでいた。
診察しんさつしつにはしずかな空気くうきただよっている。観葉かんよう植物しょくぶつが、かすかなエアコンのかぜれていた。
佐原さわらはカルテをそっとじ、がった。午後ごご予約よやくはすべてわっていた。

と、ひかえめなノックのおとがクリニックのとびらひびいた。
「……どうぞ」
とびらこうにっていたのは七原ななはらだった。その足取あしどりには決意けついがあった。
ひさしぶりに、ちゃんとはなしたいことがあって」

佐原さわら無言むごん椅子いす指差ゆびさす。うながに、ほんのわずかなためらいがにじんだ。
「……このあいだは、ごめん。きゅうにぶつけすぎたかもしれない」
こえふるえていた。言葉ことば端々はしばしに、自己嫌悪じこけんおと、それでもはなそうとする意志いし宿やどる。
佐原さわらほそめ、しずかにう。
「いいよ。おれのほうも、めきれなかった」
七原ななはらはかぶりをった。
ちがうんだ。……ずっと、自分じぶんだけがきずついたとおもってた。でも、そうじゃなかった。おまえも、おなじように……いや、それ以上いじょうに、くるしかったんだとおもう」

沈黙ちんもくあいだに、かたむいていく。
今朝けさ梶本かじもとから電話でんわがあってさ」
梶本かじもと……?」
むかしのバンド仲間なかま。……またうたわないかってさそわれたんだ」
「……やってみたいとおもった?」
佐原さわらいに、七原ななはらすこしだけ視線しせんらす。そして、ゆっくりとうなずいた。
「……わからない。でも、すこしだけまえすすめるがした。おまえって、いろんなことをおもしたから」

言葉ことばはたどたどしく、だがぐだった。
「──もう一度いちどだけ、おまえいたい」

その一言ひとことに、佐原さわらかたからわずかにちからけるのがえた。
けれどかれ内心ないしんには、歓喜かんきではなく、慎重しんちょう緊張きんちょうがあった。
恋人こいびととして、って意味いみか?」
「そうなれたらうれしい。でも、それ以上いじょうに……ひととして、ちゃんといたいんだ」

佐原さわら言葉ことばえらぶようにして、しずかにかえした。
「……それが本当ほんとうにできるか、まだわからない」

まどそとで、夕焼ゆうやけがまちいろめていく。
二人ふたりだまったまま、ただそこにいた。過去かこでも未来みらいでもなく、いま、この一瞬いっしゅんだけにゆだねて。
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