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第12章「受け取ったもの」 (七原視点)
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秋の朝。窓の外では、晩秋の気配を含んだ冷たい空気が漂い、やわらかな光がカーテン越しに差し込んでいた。
部屋の隅で、スマートフォンが震える。
七原蓮はベッドから身を起こした。ディスプレイに表示された“佐原”の文字に、指がわずかに止まる。一瞬の逡巡ののち、通話には出ず、切った。
何度目の不在着信だろう。昨夜、診察室で向かい合った佐原の顔が脳裏に浮かぶ。
「書きたくなかった」と言った、あの声。あの目。
医者としての仮面が剥がれ落ちた、ただの男の顔。
それを引きずり出してしまったのは、自分だ。
ふと、部屋の隅に放り出されていた古いノートに目が留まる。開くと、見慣れた自分の筆跡。歌詞の断片が雑多に綴られていた。
《夜の隙間に落ちた声を 君だけが拾ってくれた》
あの頃、佐原に見せた歌詞だ。未完成のまま、ぽつぽつと綴っては投げていた。佐原はひとつ残らず読んで、真剣に言葉を返してくれた。
――それが、最初で最後の、“受け取ってもらえた”記憶だった。
胸が詰まって、ノートをそっと閉じる。こみ上げるものをごまかすように、大きく息を吐いた。
再びスマートフォンが震える。今度は、違う名前。
“梶本”
――昔のバンド仲間。あの頃、失ったはずの夢の残骸の中で、それでも繋がっていた唯一の相手。
「……もしもし」
『よっ、七原。久しぶり。元気してた?』
「まあ、生きてるだけ」
『おまえさ、また歌ってみる気、ない?』
唐突な言葉に、思考が止まった。
『今さ、新しいセッション探してて。前みたいにガチじゃなくていい。ただ、お前の声、また聴きたいってやつがいてさ』
「……考えとく」
通話を終えると、部屋が静まり返る。
佐原に依存するだけではダメだ。あいつの隣に、ただの患者としてじゃない自分で立つには、何かが必要だ。
変わらない過去の中に、少しだけ、まだ触れてもいいものがあるのかもしれない。
七原は窓を開け放った。冷たい風がカーテンを大きく揺らし、彼の髪を撫でていった。
部屋の隅で、スマートフォンが震える。
七原蓮はベッドから身を起こした。ディスプレイに表示された“佐原”の文字に、指がわずかに止まる。一瞬の逡巡ののち、通話には出ず、切った。
何度目の不在着信だろう。昨夜、診察室で向かい合った佐原の顔が脳裏に浮かぶ。
「書きたくなかった」と言った、あの声。あの目。
医者としての仮面が剥がれ落ちた、ただの男の顔。
それを引きずり出してしまったのは、自分だ。
ふと、部屋の隅に放り出されていた古いノートに目が留まる。開くと、見慣れた自分の筆跡。歌詞の断片が雑多に綴られていた。
《夜の隙間に落ちた声を 君だけが拾ってくれた》
あの頃、佐原に見せた歌詞だ。未完成のまま、ぽつぽつと綴っては投げていた。佐原はひとつ残らず読んで、真剣に言葉を返してくれた。
――それが、最初で最後の、“受け取ってもらえた”記憶だった。
胸が詰まって、ノートをそっと閉じる。こみ上げるものをごまかすように、大きく息を吐いた。
再びスマートフォンが震える。今度は、違う名前。
“梶本”
――昔のバンド仲間。あの頃、失ったはずの夢の残骸の中で、それでも繋がっていた唯一の相手。
「……もしもし」
『よっ、七原。久しぶり。元気してた?』
「まあ、生きてるだけ」
『おまえさ、また歌ってみる気、ない?』
唐突な言葉に、思考が止まった。
『今さ、新しいセッション探してて。前みたいにガチじゃなくていい。ただ、お前の声、また聴きたいってやつがいてさ』
「……考えとく」
通話を終えると、部屋が静まり返る。
佐原に依存するだけではダメだ。あいつの隣に、ただの患者としてじゃない自分で立つには、何かが必要だ。
変わらない過去の中に、少しだけ、まだ触れてもいいものがあるのかもしれない。
七原は窓を開け放った。冷たい風がカーテンを大きく揺らし、彼の髪を撫でていった。
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