美月とオリヴィア〜時を超えた絆〜

平山 航

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Episode 8:再会

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それから十日間ほど、彼は現れなかった。
 しかし、ある土曜日の早朝。彼は急にやってきた。
​ 祖母に起こされた私は、慌てて玄関に向かった。
 扉を開けると、そこには彼が一人で立っていた。
​「何で……何でずっと来なかったのよっ!」
​「ごめん」
​「何でこんな朝早くに来るのよっ! まだ顔も洗ってないのに!」
​「ごめん……。あはは」
​ 私は一度扉を閉め、急いで顔を洗い、パジャマから私服に着替えた。
 もう一度、玄関を開ける。
​「……なによ」
​「実はさ、これ作ってて」
​ 彼はそう言って、茶色の紙袋を渡してきた。
 中には、綺麗な青色の毛糸で編まれたアームカバーが入っていた。
 月の模様があしらわれた、とても美しいものだった。
​「どうしたの? これ……」
​「だから……作ったんだよ。おれんちのばあちゃんに無理言って、作り方聞いてさ」
​「それで、来なかったの?」
​「編み物なんてやったことないから、時間掛かっちゃってさ」
​ よく見ると、彼の指には絆創膏がたくさん貼られていた。
​「すごい傷じゃない! 何してるのよ!」
 私は心配で、彼の手を包むように触れた。彼は恥ずそうに手を引っ込める。
​「傷、目立つの嫌だろ? そんな怪我させたのは、俺のせいだし……。だから、ごめん。これ着けてたら、学校に行くのも怖くなくなるかなって……」
​「……もう良いわよ。私も悪かったわ」
​「お前が謝ることねぇって。……なぁ、来週からまた学校、来てくれるか?」
​「……分かったわよ。行くわよ」
​ 二人の会話をキッチンで聞いていた祖母が、嬉しそうにやってきた。
​「さぁ、仲直りも済んだみたいだね。朝ごはんが出来たんだけど、二人とも食べるわよね?」
​ 彼は最初断ったが、祖母の「子供のうちから遠慮なんて覚えるもんじゃないわよ」という言葉に押され、部屋に上がった。
​ 祖母はとても上機嫌だった。
 思えば、私が彼を追い返していた時から、祖母はずっと笑っていた。
 こうなることを、最初から知っていたのだろうか。
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