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Episode 10:涙の食事会
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食事会当日。
私とオリ婆は、ケーキの材料を買い出しに出かけていた。実家で家族といるのが少しだけ気まずい私の心を察して、オリ婆が外に連れ出してくれたのだ。
「起きてしまったことは、もう仕方がないの。彼からもらったその『お守り』もあるんだから、胸を張っていなさい」
オリ婆は、私の腕にあるアームカバーを指差して言った。
私には湊がいる。オリ婆もいる。私はもう、一人じゃない。
そう思うと、胸の中にあった小さな不安が、すっと消えていった。
夕方。
よそ行きの格好をした湊が、花束を抱えてやってきた。彼はガチガチに緊張していたけれど、両親は温かい笑顔で彼を招き入れた。
ご馳走が次々とテーブルに並び、皆が席に着いた。
食事が始まる直前、湊が意を決したように立ち上がった。
「あの……食事をいただく前に、お話ししたいことがあります」
部屋の空気が、止まった。
彼は目に涙を浮かべながら、隠さずに自分の過ちを打ち明けた。
「美月さんが怪我をした原因を作ったのは、僕です。……僕は、彼女のことが気になっていて、彼女の世界を知りたくて、でも方法が分からなくて……」
声を震わせながら、湊は言葉を紡いでいく。
「彼女は優しいから……どんなに怒っても、他人を傷つけるくらいなら自分を傷つけるような子なんです。どうか、彼女を責めないでください!」
気づけば、私の目からも涙があふれていた。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。私、ずっとこの名前が嫌いだった。愛されてないと思ってた。でも……ケガをして叱られた時、分かったの。ずっと、愛してくれてたんだって」
私は両親に向かって、深く頭を下げた。
そこにオリ婆が、そっと穏やかな声を添える。
「美月が着けているこのアームカバー。彼が十日以上かけて、美月の名前に似合う『月』の模様を編み込んでくれたのよ。お母さんに教わりながら、不器用な手で一生懸命にね」
静寂の後、父が静かに口を開いた。
「僕たちこそ、美月にちゃんと向き合えていなかった。本当に申し訳ない……それに、湊くん。君は自分のした事に責任を感じて毎日のように謝りに来てくれてたんだってね。オリ婆から聞いていたよ。そして今日の食事会にも勇気を持って来てくれた。君が今日来てくれたおかげで、僕たち家族がきちんと向き合うことができた。ありがとう」
父が彼を、初めて名前で呼んだ。
母も泣きながら、私を優しく抱きしめてくれた。
まだ小さい弟の陽太がトコトコと近づいてきて、私の袖をつかむ。
「ねぇね……」と言いながら、小さな手で私の頬の涙を拭いてくれた。
その優しさに触れて、私たちは皆で、声をあげて泣いた。
「さぁ、皆たくさん泣いたことだし食事を再開しよう。今日は最高に幸せな日だ。乾杯!」
父の声が響き、温かい食事会が再開される。
次の日から、私はあのアームカバーを誇らしく身に付けて、また学校へ通えるようになった。
私とオリ婆は、ケーキの材料を買い出しに出かけていた。実家で家族といるのが少しだけ気まずい私の心を察して、オリ婆が外に連れ出してくれたのだ。
「起きてしまったことは、もう仕方がないの。彼からもらったその『お守り』もあるんだから、胸を張っていなさい」
オリ婆は、私の腕にあるアームカバーを指差して言った。
私には湊がいる。オリ婆もいる。私はもう、一人じゃない。
そう思うと、胸の中にあった小さな不安が、すっと消えていった。
夕方。
よそ行きの格好をした湊が、花束を抱えてやってきた。彼はガチガチに緊張していたけれど、両親は温かい笑顔で彼を招き入れた。
ご馳走が次々とテーブルに並び、皆が席に着いた。
食事が始まる直前、湊が意を決したように立ち上がった。
「あの……食事をいただく前に、お話ししたいことがあります」
部屋の空気が、止まった。
彼は目に涙を浮かべながら、隠さずに自分の過ちを打ち明けた。
「美月さんが怪我をした原因を作ったのは、僕です。……僕は、彼女のことが気になっていて、彼女の世界を知りたくて、でも方法が分からなくて……」
声を震わせながら、湊は言葉を紡いでいく。
「彼女は優しいから……どんなに怒っても、他人を傷つけるくらいなら自分を傷つけるような子なんです。どうか、彼女を責めないでください!」
気づけば、私の目からも涙があふれていた。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。私、ずっとこの名前が嫌いだった。愛されてないと思ってた。でも……ケガをして叱られた時、分かったの。ずっと、愛してくれてたんだって」
私は両親に向かって、深く頭を下げた。
そこにオリ婆が、そっと穏やかな声を添える。
「美月が着けているこのアームカバー。彼が十日以上かけて、美月の名前に似合う『月』の模様を編み込んでくれたのよ。お母さんに教わりながら、不器用な手で一生懸命にね」
静寂の後、父が静かに口を開いた。
「僕たちこそ、美月にちゃんと向き合えていなかった。本当に申し訳ない……それに、湊くん。君は自分のした事に責任を感じて毎日のように謝りに来てくれてたんだってね。オリ婆から聞いていたよ。そして今日の食事会にも勇気を持って来てくれた。君が今日来てくれたおかげで、僕たち家族がきちんと向き合うことができた。ありがとう」
父が彼を、初めて名前で呼んだ。
母も泣きながら、私を優しく抱きしめてくれた。
まだ小さい弟の陽太がトコトコと近づいてきて、私の袖をつかむ。
「ねぇね……」と言いながら、小さな手で私の頬の涙を拭いてくれた。
その優しさに触れて、私たちは皆で、声をあげて泣いた。
「さぁ、皆たくさん泣いたことだし食事を再開しよう。今日は最高に幸せな日だ。乾杯!」
父の声が響き、温かい食事会が再開される。
次の日から、私はあのアームカバーを誇らしく身に付けて、また学校へ通えるようになった。
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