Overflow~とある高校生たちの恋愛事情~

魚思十蘭南

文字の大きさ
22 / 28

秘密。【西野×東原】

しおりを挟む
人は誰しも多かれ少なかれ秘密を抱えて生きているものだ。
政治家や芸能人、先生、親だって何かの秘密を抱えて生きている。
それは高校生も同じことだ。
当然俺だって。

「西野!帰ろう!」

帰りのホームルームが終わって早々に隣のクラスから、声の大きい小柄な男子ががやってきた。
東原だ。

「東原、お前もうちょい声のトーン落とせないのか。毎度毎度比喩じゃなく耳が痛い。」

「ごめんごめん。今日タピオカ奢るから。」

「それで手を打つ。」

「よっし、じゃあ行こう!」

東原は俺の方に手を差し出した。

「東原、今はまだ。」

「あ、そうか。ごめん。」

俺たちには秘密がある。
誰にも言えない、2人だけの秘密が。
それは友だちは疎か、親にすら言っていない。
当たり前だ。
こんなこと言えるはずがない。
だって俺たちは...。

細く人通りのほとんどない裏道に入った。
この100m程度の道に入ると俺たちの秘密が少し解放される。

「ここまで来たら解禁していいよね、瑠夏。」

「そうだな。」

「名前呼んでよ。」

「なんでだよ。」

「いいから。」

「...優希。」

「よし!」

「俺は犬か。」

「背が高くて無愛想だから、ドーベルマンかな。」

「じゃあ優希は背が低くてうるさいからチワワだな。」

「チワワが可愛くて反撃になってないよ。」

「うるさい。帰るぞ。」

「ははは、ごめんごめん。ねえ、手繋ごうよ。」

「まあ、いいか。この先の大通りまでだぞ。」

「やったー。」

裏道から大通りに出て道なりに進むと俺たちがよく行くカフェがある。
昔はガラガラで1人で来るには最適な場所だったが、今は立地の良さもあって人が多い。
今のような平日の夕方は仕事終わりのサラリーマンが座席の半数程度を埋めている。

「すみません、タピオカミルクティー。瑠夏もそれでいいよね。」

「ああ。」

「じゃあそれふたつで。」

優希とここに来ると、最近初めたというタピオカミルクティーを飲むのがいつものことだ。
カフェの割にここのタピオカミルクティーは非常に美味しい。
そこらのタピオカ専門店なんか比にならない。
この近辺だとNO.1と言っても過言じゃないだろう。

俺と優希はいつもの窓際のテーブル席に向かい合って座る。

「そうだ、瑠夏聞いてよ。今日親にあのことバレかけたんだよ。」

「え、やばいじゃん。何があったの。」

「朝ごはん食べる時いつも情報番組つけてるんだけど、今日めちゃくちゃ可愛いファッションブランド紹介してて、つい可愛いって言っちゃったんだよね。」

「それで怪しまれたと。」

「まあ女装癖を疑われただけだし、可愛いのは可愛いだろって言ったからなんとかなったんだけどね。」

「良かったな。バレたらまずいもんな。」

「そうだよ。僕がトランスなんてバレたらお母さんを悲しませちゃう。」

優希と俺はいわゆるトランスジェンダーだ。
トランスジェンダーとは、簡単に言うと体の性と心の性が違う性同一性障害のひとつだ。
俺たちは男性の外見でありながら内面は女性。
2人ともそれを他人には分からないように言葉遣いや普段の行動には細心の注意を払っている。

「そういえば俺も危ないことあったわ。」

「瑠夏の危ないは本当に危ないから怖いよ。」

「いや大丈夫。女性用の服が見つかって父さんに竹刀で1発ぶん殴られただけだから。」

「それが怖いんだって。大丈夫?ぶん殴られたの。」

「大丈夫。ちょっと腫れてたけど今はなんともない。」

「じゃあ良かった。瑠夏のお父さん、本当に理解してくれないよね。」

「理解されようとする方が間違ってるよ。父さんだけじゃなくて、この世の誰にもね。」

「瑠夏...。」

「暗い顔しないでよ。優希が諦めたくないのはわかってる。最近は俺らみたいなジェンダーマイノリティーって言われる人達への理解はされるようになってきてる。それは知ってる。だから希望は捨てなくてもいいんだ。俺が捨てただけのことだから。」

「でも僕はそれをそのままにして欲しくない。捨てたならまた拾えばいい。拾えないなら僕が渡す。だって僕らは...」

「付き合ってるからってか。」

「そう。」

もうひとつの秘密、それは俺たちが付き合っていることだ。
外見が男の2人が付き合うのは今でも偏見の目で見られがちだ。
それに優希は母親に、俺は父親には絶対に言えない理由がある。
俺の場合は父親の性的マイノリティへの認識が古すぎて、「根性を叩き直せば治る」なんて言われて殴られる。
優希は親孝行がしたくて、母親に「孫の顔を見せてくれるのが1番嬉しい」と言われたことで言えなくなってしまった。

「まあ優希なら俺が本当に嫌がることはしないだろうから勝手にしてくれて良いけど、多分無理だぞ。証拠に枷がないはずの今でも男口調全開だ。父さんの影響がどれだけ強いことか。」

「トランスなのは性根が腐ってるからだーってやつか。」

「ああ。時代遅れもいいとこだ。もう令和だぞ。あの昭和老害。」

「僕のお母さんもなかなかだけど、瑠夏のお父さんは本当に難攻不落ってかんじだね。」

「小田原城もびっくりだろうな。」

「えーっと、小田原城ってなんだっけ。」

「知らないならいい。教科書に載ってないし。」

傍から見ると少し重い話をしている、流行りが好きな友人同士に見えるのだろう。
どうせ蔑まれるなら勘違いしてくれている方が返って助かる。
俺たちの関係はとてもじゃないが公言できたもんじゃない。
LGBTへの理解は深まってきている。
それでも未だに差別は根深い。
そんな世の中で公言したら、俺たちも差別に苦しむだけだ。
それならずっとこの秘密を抱えて静かに死んでいった方が遥かにいい。


俺たちは秘密を抱えて生きている。
俺たちはトランスジェンダーであり、付き合っている。
そのことは俺たち2人以外の誰も知らない。
それでいい。
このまま墓場まで持って行ってやる。
俺は誰も信じず、死ぬその時までこの秘密を抱え続ける。
そう決めたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

処理中です...