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嫌われたくない
しおりを挟む俺は恐る恐る声がした方向へと顔を向けた。
そして俺の目に、長い銀髪の超美形が腕を胸の前で組み、壁に寄りかかっている姿が映った。
「で....殿下....どうしてここに....」
「教師に呼ばれて頼まれた業務が終わったので生徒会室に戻ってきたら、偶然クレノの声が室内から聞こえてきて聞き耳を立てていただけだが?」
そう悪びれる様子もなく堂々と言う。
(聞き耳って....まさか....!)
「じゃ....じゃあ、皇太子殿下との話は....」
「初めから全部聞いていたな。」
(嘘だろ....や、やばい、顔が怒ってる....というか無表情で怖い....)
あんな馬鹿でも一応は第二皇子と血を分けた兄弟だし、第二皇子は勘が鋭いから、話を聞いて俺が自分の兄を馬鹿にしてたのも予想できるだろうし、相当俺に怒っているに違いない。
そう思うと、一気に不安になった。
(殿下....俺の事嫌いになったかな......
あんな風に自分の兄を馬鹿にされて、不快に思わない訳がないよな.....)
黙ったままの第二皇子を見つめ、なぜか胸が苦しくなり目尻が熱くなる。
(前までは....相手が自分の事どう思ってるとか、好きとか嫌いとか、そんなのどうでもよかったのに....
親しい人間なんかいらないって...卒業して、早く一人で自由に旅をして平和に暮らせたら。って思ってたのに.......それなのに....今はそんな風に思えない。
.....殿下には、どうしても嫌われたくないんだ。)
不安は徐々に膨れ上がり、未だに俺を見つめる第二皇子からの冷たい視線に俺は等々耐えられなくなった。
「....ん?クレノ?」
俺の様子がおかしい事に気付いたのか、第二皇子が顔を覗いてくる。
「......っ」
「クレノ.....泣いているのか?」
「っ......殿下っ......」
「ど....どうしたんだ、クレノ....」
突然泣き出した俺を見て焦り出す第二皇子に、本当に申し訳ない気持ちになる。
(すみません殿下......
俺だって、本当は泣きたくなんかないのに.....勝手に出てきて、止まらない....)
第二皇子を困らせまいと必死で涙を止めようと手で拭っていた時だった。
「わっ.....」
突然第二皇子に腕を引っ張られ、気付いた時には抱き締められていた。
「っ!ふぇ?!」
(な....何が起きて....俺...今、殿下に抱き締められ....)
急に抱き締められ酷く動揺している俺の頭を、第二皇子が優しく撫でる。
「落ち着けクレノ。頼むから泣くな.....」
そう力強く抱き締めてくれる第二皇子に、心臓の音が聞こえてしまうのではというほどドキドキと大きく跳ね上がり、自分でも分かるぐらい顔が真っ赤になってしまったのを感じた。
(と....とりあえず落ち着け.....まずは殿下に離してもらって......)
とりあえず離れようと第二皇子を押すも、ビクともしない。
(どうしよう.....こんなの俺の心臓が持たない!
誰かと手を繋いだ事もない俺には刺激が強すぎる!)
そんな俺の思いなどつゆ知らず、第二皇子は俺を抱き締めたまま離さなかった。
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