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感謝
しおりを挟む涙も止まり、本当にそろそろ離してもらいたかった俺は第二皇子の背中を軽く叩いた。
「で....殿下....俺、もう泣いてないですし、苦しいので離してください.....」
「っ....!す...すまない!」
俺が苦しそうに言うと、第二皇子はすぐさま抱き締めていた力を緩めて俺を離してくれた。
「....それでクレノ。どうして突然泣いたんだ?」
「え?...えっと...それは....」
嫌われたかもと思って泣いただなんて、恥ずかしくて言えない。
第二皇子の問になんて答えようかと口ごもる。
「言え。....もしかして私が聞き耳を立てる前に兄上になにかされたんじゃ.....」
「ち....違います!!」
自分の兄にあらぬ疑いをかけようとする第二皇子を、即否定した。
「その....俺、殿下のお兄様に色々言ってしまったし......殿下が俺に怒ってると思って.....
殿下に....き...嫌われたかと思って......」
(うぅ....言葉にすると余計に恥ずかしい!)
恥ずかしがりながら第二皇子をチラ見すれば、目を丸くし、俺を見つめながら固まってしまっていた。
そんな第二皇子の反応に、俺はまた不安になる。
(こんな事で泣き出すなんて、面倒くさい奴だって思われたかな.....)
勝手に不安になりしょんぼりしている俺に気付いたのか、第二皇子は慌てて声をかけた。
「く....クレノ。それは違う。断じて違う。
私がクレノを嫌いになるなどありえない。それにクレノに怒ってもいない。
逆に兄上にあんな風に言ってもらえて感謝しているくらいだ。」
「....え?」
(感謝....なんで?)
俺の頭に?マークが浮かんだ。
「....実は最近の兄上の行動には、私も困っていたのだ。
兄上はカグラと付き合い始めてからというもの、カグラに執着しすぎて暴走してしまう事がある。
周囲の事も考えずにカグラの為にこの学園のルールを勝手に変えようとしたり、カグラ専用の部屋を造らせたり....
先ほどのように、カグラに害を成したとされる人間を見つけ出しては、私達になんの相談もちゃんとした調査もせず独断で退学させたりもしている。
だがそんな兄上の突拍子もない行動にも、カグラは自分の為にと喜んでしまっていてな......
余計に兄上の行動が酷くなる一方なのだ。」
「それは...酷いですね....」
「だろう?今回のバーベル公爵令嬢の件だってそうだ。
本来、生徒達から上がってきた報告というは生徒会メンバー全員で確認しながら話し合いをしていく。
そこから問題になった事について調査を行い、事実確認をしていくのだ手順だ。
だが兄上はカグラが関わってくると、私達になんの相談もせず勝手に進めてしまう。
独断で本人ではなくその友人のクレノに話を聞いて....勝手な行動は慎んでもらいたいと、ちゃんと事実確認をしてくれと私も兄上に注意したのだが、聞く耳を持って貰えず流されてしまった。
中には、なにかしらの理由があってそういう事をする者もいるというのに....」
そう言って顔を歪めている第二皇子は、本当に困っているようだった。
どうやら勝手な行動をされ、その尻拭いを第二皇子や他の生徒会メンバーがさせられているらしい。
「だから今回クレノがバーベル公爵令嬢を庇って兄上に言ってくれた事に、私はとても感謝している。
ありがとう、クレノ。」
そう言って優しく微笑み、俺の頭を撫でてくれる第二皇子の姿にホッと胸を撫で下ろした。
(怒ってるわけじゃなかったんだ......良かった......)
「......それに彼女も、クレノに感謝しているようだが?」
「え....?」
そう言って第二皇子が後ろを振り向く。
俺も第二皇子につられ、その方向へと視線を送った。
「え?......え!?シャーロット!!?」
そこには、目に涙を溜めたシャーロットが仁王立ちで俺と第二皇子を見つめていた。
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