出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音

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出戻り娘と乗っ取り娘

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 わたくしの気持ちを表すかのような曇天の空の元、馬車で伯爵家へ向かいます。
 ようやく伯爵家へつき、ご挨拶をしようと顔を上げた瞬間……

 「お前は誰だっ!」
 「わたくしは……」
 「とにかくわしが望んだのはお前ではないわっ!とっとと出て行け!」
 「そう、ですか……失礼いたしました」

 どうしてもと望まれて嫁いだはずでしたが、屋敷に足を踏み入れることなく実家にUターンさせられることになりました。正式に婚姻の書類を交わすのを今日にしておいて本当に良かった。

 困惑気味の御者にお願いし、また長い時間をかけ立派?に出戻ると……

 「え、あなた誰なの?」
 「どうして娘にそんなこと……」
 「娘?娘ならあそこにおりますわ」

 見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。馬車も借り物だし、御者も借りたのだから助けを求めても仕方ない。前払いだったことは幸運でしたね。
 きっと結婚相手が望んだのもこの娘なのでしょう。両親を取り込むタイミングがずれてこんなことが起こったみたい。もう少し早かったらよかったのに……
 追い出されるように屋敷を出るとさっきの女が待ち構えていた。

 「あんたの居場所はもうないわよ。わたしがぜーんぶ乗っ取ったから」
 「あの、乗っ取ったっていうのはこの街全体ですか?」
 「ふん、そんな面倒なことしないわよ!あんたの家族とか使用人とか、結婚相手の記憶を塗り替えたのよ!あんた全然社交界にも出てないし乗っ取られてもわからないじゃない?だからいい鴨だったわけ」
 「そう、ですか……」
 「ここの生活はすべてわたしのものよ!」

 でも、わたくしの家は借金だらけで貧乏なのに……よくわたしになり代わろうなんて……なんて殊勝な人なのっ。

 「ありがとう、これで身売りすることもないし好きな人の元へいけるわっ」
 「え?」

 だって、両親はわたくしのことを駒としか思ってないし……相手がお金持ちだったから無理矢理嫁がされるところのUターンだし。
 彼は駆け落ちしようって言ってくれたけど、そんなことしたら彼や彼の家族にわたくしの両親が何かをすることは明白だった。両親はプライドだけは高いから……好きな人に迷惑をかけるわけにいかないと泣く泣く嫁ぐことを決めたというのに……なんでもう少し早くしてくれなかったのかしら。わたくしの決意が無駄になってしまったわ。
 そうだっ。彼はわたくしの家の影響が届かない所へ旅立つって言ってたわ……早く追いかけなくちゃっ!

 「じゃあ、あとはよろしくお願いします。わたくしの部屋にある荷物はすべて好きに使ってください」
 「……言われなくても」

 大切なものが入った小さな鞄を掴み彼の元へ走ります。

 「待って!」
 「え、君は……」

 まさか彼にも魔法が?わたしのことがわからなくなったんじゃないわよね……

 「どこかの貴族に嫁いだはずじゃ……」
 「わたし、ぜーんぶ乗っ取られちゃった……貴族の娘は他にいるの。わたしはただの平民。だから、一緒に行かせて?」
 「乗っ取られた?……じゃあ……」
 「やっぱりだめかしら?」
 「いや、一緒に行こう」
 「ええっ」

 名前も知らないけど、わたしに成り代わったあなた……ありがとう。地獄から抜け出させてくれて。

◇ ◇ ◇

 その頃、乗っ取った娘はというと……

 「え、何この部屋っ!屋根裏じゃないの!」
 「明日には伯爵様がいらっしゃるのよ。違う娘なんていないはずなのに、あなた何か粗相をしたのでしょうっ。反省なさいっ」
 「ちょ、ちょっと!」

 バタンと閉められた扉は外から鍵がかけられた。まるで逃げ出さないように檻に閉じ込めているみたい。

 「なんなのよ!もう!」

 すきま風に体を震わせ、明日になれば解決するはずと信じて眠りについた。

 翌日、綺麗なドレスに身を包み気分が高揚する。こんなドレス生まれて初めて着た。ふふ、これでわたしも玉の輿だわっ。

 「いいか、今度粗相をしてみろ。売り飛ばすからな」
 「え……」
 「ほら、しっかりしなさい!伯爵様がみえたわ」

 応接室に供を連れ入ってきたのは……誰、この人?

 「おおっ、わしが望んだのはこの娘じゃ!あの娘は貧相な身体じゃったからの」

 目の前のでっぷりとした老人はわたしの身体をジロジロと舐め回すように観察している。気持ち悪いっ……え、この老人が伯爵なのっ!?聞いてないわよ!

 「そうでしたか?」
 「何かの手違いが起きたのでしょう」
 「ふむ、もうよい。この娘このままもらっていくぞ?」

 ジャラジャラと音のする袋と交換にわたしは引き渡された。

 「ほら、最後の別れをしろ」
 「最後……」
 「しっかりな」
 「元気でね」
 「はい」

 たいした挨拶もせず、馬車へ詰め込まれる。わたしはこんなの望んでない!ただあそこのお嬢様がお金持ちに嫁ぐって聞いたから魔法を使い、絵姿をわたしに変えてこの家の人の記憶を塗り替え入り込んだ。きっとお金持ちで、若くてカッコいい方が相手だと思って……

 逃げ出さなくちゃ……あの子が言ってたのは事実だった。これじゃ身売り同然だわ。
 考え込むうちに馬車が出発した……老人だけあってすぐに寝てくれたのはよかった。あとは魔法でなんとかしよう……ふふ、わたしはこんな老人に嫁ぐために生まれたわけじゃないのよ!

 そして、忽然と貴族の娘は消え去った。周囲の者は皆言う。あそこの家には娘などいない。奥様はとある伯爵様の愛人になってお金を優遇してもらっていて、旦那様もご承知の上だ……と。

 「ふう……なんとか抜け出せたわ。今度こそしっかり見極めないとね!」

 この魔法があればいつかは……でも難点は魔法を使うたび身体の一部が変化するのよね……魔法を使う対価ってことなんだろうけど、今回は足の形が変わってしまった。いつか顔も変わってしまいそう……

 「ふん!そうなったら何度でも魔法を使って極上の美女になってやるんだからっ」

 こうして何度も魔法を使い、時に醜く時に絶世の美女になり、街から街を渡り歩いた乗っ取り娘は姿が変わっても自分を見つけ追いかけてきた幼なじみと結婚したとかしないとか……

 
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