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第4章
54.女神見習い、人助けする 〜助けられた男の事情 side ユーゴ〜
「くっ……はぁっ、はぁっ……」
過酷で危険な魔の森の奥地をわずかな情報のみで何日も移動し続け、ようやく目当てのものを見つけ採取して後は出来うる限り急いで帰るだけだというのに……待ち構えていたかのようにいつの間にかあたりはすでに魔物に囲まれていた。
何度倒しても血の匂いに誘われて次々湧いてくる魔物に少しずつ怪我を負う隊員が増え、長時間瘴気に晒された影響なのか体の自由が利かなくなっていき、ひとりまたひとりと倒れていく。
浄化の魔法を使える者が1番に倒れてしまったことがキツかった。数少ない浄化の魔法を持った隊員だった……ほとんどは教会に引き抜かれるため隊にいるのはごくわずかなのだ。
用意していたポーションも危険な魔の森探索で既に使い切ってしまいなすすべがない。このままじゃジリ貧だ。
倒れた仲間を守りながら魔物を倒す。倒れた者も今はまだかろうじて生きているが……これ以上長引けばいつ死人が出てもおかしくない。
あと少しなのに……これさえあればあの人が助かるのに……ついに自分も立っていることができなくなり、膝をついたその一瞬の隙に目の前には魔物が迫っていた……自らの最期を覚悟したその時、バシュッと音が聞こえ……何者かに救われた……のだろうか?
先ほどの音の正体は襲いかかってきた魔物へ一瞬のうちに攻撃し、周囲の魔物へ次々と魔法を放っている音のようだ。そのうち魔物は逃げていったみたいだ……あれ程手こずった魔物が逃げていくなんて。
一瞬、このまま装備だけ取られて置き去りにされるかもしれないと頭をよぎったが、それなら救わずにしばらく待っていれば我々は死んだはずだ。
力を振り絞り、振り向こうとするも動けない。くそっ……力が入らない。
「あの……」
女の声が聞こえたが、動くこともままならず次第に自身の視界が傾いていく。薄れていく意識の中でせめてあの人だけは……救われることを望みながら……意識が途切れた。
そもそも我々がこんな危険な魔の森の奥にいるのは何故か。それには訳がある。
魔の森にしか群生していない宝珠の花と呼ばれるものが必要だったのだ。しかも宝珠の花は採取してから一定時間内に調合しなければ効果が無くなるという特殊性を持つ。
何度ギルドに依頼を出しても依頼料を上げても達成失敗のペナルティは無しにしても報告されるのは依頼失敗だった。
高い報酬目当てにこれを無理に受けて怪我をしたり行方不明になった冒険者(後日ボロボロで街に戻る)が出たのでギルドが掲示板に貼ることをやめたらしい。
今後指名依頼扱いにして対策を講じる予定だとか。しかし、それでも依頼は達成できず、時間だけが過ぎて、焦りは増すばかり。
極秘事項であるが王妃の病を完治させるためにはどうしても宝珠の花が必要なのだ。
リタール王国の国王オリヴィエ・リタールと王妃ソフィーは仲睦まじい夫婦として近隣国でも有名だ。側室も愛妾も持たない王は王妃をとても大切にしており、夫妻は3人の王子と1人の姫に恵まれた。
既にみな成人し、姫は数年前に降嫁しており、第1王子は昨年ターク帝国より妃を迎え、第2王子は婚約済みである。
ちなみ第2王子は隣国であるヴェルデ王国に婿入りする予定だ。
そんな仲睦まじい夫婦を突然襲った王妃の病。それは魔力欠乏症というものだった。
魔力欠乏症とは体内の魔力がじわじわ減り続けやがて死に至る病である。
基本的に原因は不明で、魔力量の多い者が発症するとされている。
魔力がどんどん消費されていき身を守るため気絶を繰り返し……治らない限りそのまま眠ったように死ぬこともあるそうだ。
だが、突然完治することもあり王家は希望を捨てていない。
治った場合、1度減ってしまった魔力量は回復することはなくそのままだが、2度と魔力欠乏症にかかることはないらしい。
治療法は魔力欠乏症を治せる特殊ポーションのみで、それまでは中級・上級のマナポーションで延命はできるが……魔力の回復と消費が逆転してしまうと厳しい。
つまり……根本的な治療には特殊ポーションが必要不可欠なのだ。
特殊ポーションを調合するために必要なその他の素材は方々を駆けずり回り、何とか手に入れることができたが……未だ宝珠の花だけが手に入っていない。
王妃は最近では起きている時間がどんどん短くなっており事態は緊急を極める。
王命を受けた我々は自ら隊の精鋭を含む編成部隊とともに森へ乗り込むこととなる。王都から馬を飛ばし数日かけてついたランヴィという街から魔の森へと入ったのだった。
そして冒頭に戻るーー
しばらくして、目を覚ました我々は先ほどの淀んだ空気ではなく違う場所にいることに驚き混乱する。
探索でここが初日に通った森の浅い部分だと判明し周囲の緊張が一気に解けた。
ただひとり手に持っていた宝珠の花の量が増えていることに気づいた者を除いては……
「これは……何故……」
突然、握っていた宝珠の花が増えたことを不審に思いつつも……これは喉から手が出るほど欲しい物だ。当初自身が持っていたものと比べても大きさも輝きも桁違いだ。
鑑定の魔道具で毒の有無や真贋を調べてみた。鑑定スキルは珍しいが魔道具である程度鑑定可能なのだ。ただし価格は高い……表示される情報に制度を求めれば求めるほど高くなる。
「状態は良好か……これは加護か?」
良好な状態だと判明し、悩んだ末持ち帰ることにした。さらに加護までついているではないか。魔道具の限界で加護の主はわからないが嫌な感じもしない。
「隊長」
「ああ、これで母上を助けられるかもしれないな……」
「では……」
「急いで戻るぞっ」
「「「「「はいっ!」」」」」
そうと決めれば一刻も早く調合する必要がある。
部下を率いて急ぎランヴィの街へ戻り、公認ポーション職人にポーションの調合をさせる。
きちんとポーションができ、ひとまず安堵する。大切に包みマジックバッグに入れ途中何度も馬を替え、飛ばし王城に持って戻った。
念のため出来上がったポーションも鑑定したが問題なく、ポーションを飲んだことで王妃の魔力欠乏症は完治した。
かなり魔力量が減ってしまったようだが、翌日には起き上がり動き出そうとしていたそうだ……元気になったことはホッとするが決して無理はしないでほしい。
その後、あの時のことを女神様が助けてくれたというものや、強い冒険者だという部下たち。
だが、本来女神様や神様は魔物に関わることがないはず……しかし後から自身や持ち物も調べるとあの場にいた全員が加護を授かっていたのだ。女神有力説にも頷ける。
もし、我々がたまたま加護を得ただけとしても……魔の森の奥地で無事にいるだけでなく、あれだけの魔物をひとりで退けられる冒険者なら有名なはずだが……いくら調べても当時あの街にSランク以上の者はいなかった。どうしても謎が残るのだ。
これからも恩人を探し続けるつもりであるが正体が不明なため中々道は険しいだろう。
そして……倒れる直前に微かに聞こえた声と同じ声の特別サービスだぞーという言葉が忘れられず……ずっと頭に残る。
いつか、また会えた時には……
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