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第3章
29.女神見習いと魔の森(1)
瞬間移動の時に採取できた薬草のおかげで懐にだいぶ余裕が出てきたので、初級ポーションの材料集めに没頭すること数日ーー
「なんか、こんなにギルドに行かないのはじめてかも……」
採取を終え、『黄金の羊亭』で食事をしていると
「あの、エナさん……どこか体調でも悪いんですか?」
振り向くと心配そうな表情のカーラさん立っていた。
「ん? いえ、特にはどこも悪くないですけど……」
「そうなんですね! よかったです……エナさんがここ数日ギルドにみえないので何かあったのかと……」
「あー、そういうことですか……いやー、ポーションを作るための材料を集めるためにギルドの依頼をちょっと休んでたんです」
「へー、エナさん……ポーション作られるんですね」
「ええ、まあ。もう少し量が作れるようになったら、ギルドに売りに行く予定です」
「はい、お待ちしてますね」
「ありがとうございます。そういえば……あの草原の先にある森ってかつては村や集落があったんですよね?」
「ええ、そうです」
カーラさん曰く……
現在、『魔の森』と呼ばれている森はかつては人が住み、村や集落がたくさんあった……が100年ほど前に隣国のターク帝国と争いが起こった場所でもある。
何やら金になるものがあったらしく……いくらリタール王国がそのようなものはないと主張しても信じず、そのせいでこの辺り一帯が緊迫していた。
しかしターク帝国が金になると思っていたものが一向に見つからず争いが激化していくうちに、ターク帝国の王が崩御し相手国で内紛が起こったとか。
幼い王子がその座についたことより情勢が変わり協定を結ぶことで戦争は終結した。
協定の内容はその王子にリタールから姫を嫁がせたり互いに森から一定以上離れたの距離に街や村、集落を作るなど……
「へぇー」
「ですので、森の近くにあった村や集落が集まりこの街ができたと言われています。協定で森はリタール王国の所有と定められたのですが、時とともに森は昔の何倍にも広がり続けているため……過去の村や集落は既に森に飲み込まれてしまいました」
「あー……じゃあやっぱり、森の浅い部分にある広場はかつての村の名残りなんですね」
「ええ、あの広場も10年前には森の外にあったんです……一夜にして飲み込まれまれてしまいましたが」
「えっ? そんなに急に侵攻するんですか」
「ええ、そうなんです……だから余計に対応が難しくて」
なんでも魔の森に飲み込まれた時点で領主は飲み込まれた土地の権利放棄をしたらしい。
税の徴収もなければ何か起きても自己責任の地になったとか。
リタール王国は年に1度調査隊を組んで高ランク冒険者の護衛とともに侵攻具合を確認しているらしいがここ数年それも霧が発生しない地域に留まっている。どうして突然森が広がるかの調査もなかなか進まないらしい。
理由は主に危険だからと飲み込まれた土地よりこれから侵攻されそうな土地の方に優先度が傾いているため。
女神の知識で調べると『女神の浄化』なら数回で濃い霧の発生しない元の森に戻せるよう。しかし範囲は1メートル四方。なかなか厳しい……
「現状では魔道具や浄化で侵攻を食い止められるか微妙なところで、広がる森を伐採するぐらいしかできないんですよね……まぁリタール王国よりターク帝国の方が深刻に捉えていると思います」
「どうしてですか?」
「それは、協定では森の所有権がリタール王国にあると定められていますよね? 森が広がった場合その土地はリタール王国のものになるということなんです」
「はぁー、それはまた……」
「もちろん協定上の話ですね……実際はかつての森の位置までがリタール王国、広がった部分はターク帝国のままです」
「そこでもめそうですね……」
「ええ、不服を唱えるものもいますが……ターク帝国側の森の端まで行きそこに軍を置いたりする費用や人材もバカになりませんから……争いを防ぐためにもリタール王国の第1王子の妃をターク帝国から迎えたりして、両国の関係を良好に保っているんです」
「へー、そうなんだぁ」
「ただ、昔よりも強力な魔物が闊歩している森の奥には冒険者でも滅多に立ち入ることはないです。実際はたどり着くだけで何度命の危険があるか……冒険者の中では濃い霧が出てきたらすぐに引き返せ。と言われるほどですから、もはや森の中心部なんて瞬間移動や転移魔法の使い手もしくは特殊なスキル持ちしか行けない場所ですよ。まぁ、そんなのは伝説ですけど」
ほー……まさに私のことだね。うん、瞬間移動はやっぱり普通じゃないみたい。
ちなみに、瞬間移動で元の世界に戻れるか試してみたけど何も起きなかった……うん、それで帰れるならコルドさんが教えてくれてるはずだよね、ぐすん。
◇ ◇ ◇
目の前には何度見ても朽ちた小屋。
わざわざこの小屋まで瞬間移動でやってきた目的は……ズバリ、薬草採取と小屋のお掃除です!
「わたしだけが採取し放題……ふふっ」
まぁ、まだ前回採取したものがストレージにあるから焦ってはいないけど、ポーション職人を目指すなら誰にも知られていない群生地は有用だと思う。カーラさんの話を聞く限り、濃い霧ってこれのことでしょ?
小屋の周りで採取できるものだけにして、今日は掃除をメインにするつもり。
元々は小屋をどうこうするつもりはなかった。まず小屋の位置がわからないし、ボロボロだし……高価買い取りの薬草採取に行ったときにとりあえず雨風をしのげて休憩に使えればいいかな、ぐらい。
でも、カーラさんの話を聞いて……ふと思ったんだよね。
ポーション作るのにいいんじゃないかって……火を使ってもいいし、雨風はしのげる、多分。
濃い霧のおかげで人目を気にしなくて良くて、それにちょっと秘密基地みたい。女神の聖域展開すれば多少の魔物も平気なはずだし……
ということで小屋の掃除をしよー、おー!
「……やってみるか」
小屋はまず目に付く限り《清浄》してみた……埃とかこびり付いたゴミとかきれいになるかなって期待したけど
「全く変化ないな……レベルが足りないのかな? それとも目に見えない範囲できれいになってるか」
浄化も試してみたけど効果なしだったよ…がっくり。
で、でも、心なしか空気がおいしくなった気がする……うん。こういうのは気の持ちようだよ、多分。
ほらっ、何回もすれば濃い霧の発生しない元の森に戻せるらしいし? 1メートル四方だけど。
「地道に掃除するしかないのか……」
そこら辺に落ちてたちょうどいい枝を箒がわりに顔を布で覆ってから玄関付近埃をはいていく……
「おっ、これすごい! 女神の聖域って埃も通さないんだ!」
女神の聖域が無ければむせて涙が出そうなほど小屋の中は埃が舞っている。
時には《そよ風》で小屋の中の空気を循環させながら木の枝に布をつけたハタキもどきで埃を落とし、床をはく……
しばらく格闘するとようやく埃っぽさがなくなって元の床が確認できた。
もう1度《清浄》してみるとわずかにきれいになった。
「あまりにも汚すぎて、効果がわからなかったのかな……拭き掃除はまた今度にしよう」
休憩しつつ、女神の聖域で小屋全体に結界を張ってみる。
そうそう、小屋は平家の石造りでリビングらしき場所にキッチンなどの水場もベットもひと部屋に全てが収まっている。ただ少し広めかな……
置いてある家具も、足の朽ちたテーブル、座面の壊れた椅子、ベッドだったであろう物体、釣りの道具らしきものなど、ほとんどが壊れていた。
最初はいつも自分に展開するときの2倍の魔力で小屋を丸ごと包みこもうとしたんだけど全然ダメ。
今度は居間らしき場所のみに展開する。それも2倍では数分しか持たなかったけどけど……少しずつコツをつかんで魔力の限界までひたすら練習……あ、ちゃんと広場の近くに戻れる分は残したよ。
「これかなりいい練習になりそう……」
魔力もだいぶ消費したし、いつのまにか辺りが暗くなってきたので急いで撤収して宿へ戻る。
「ゆっくり休めば魔力も回復するし、ポーション飲むのはもったいないかな……」
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