29 / 120
第3章
29.女神見習いと魔の森(1)
しおりを挟む瞬間移動の時に採取できた薬草のおかげで懐にだいぶ余裕が出てきたので、初級ポーションの材料集めに没頭すること数日ーー
「なんか、こんなにギルドに行かないのはじめてかも……」
採取を終え、『黄金の羊亭』で食事をしていると
「あの、エナさん……どこか体調でも悪いんですか?」
振り向くと心配そうな表情のカーラさん立っていた。
「ん? いえ、特にはどこも悪くないですけど……」
「そうなんですね! よかったです……エナさんがここ数日ギルドにみえないので何かあったのかと……」
「あー、そういうことですか……いやー、ポーションを作るための材料を集めるためにギルドの依頼をちょっと休んでたんです」
「へー、エナさん……ポーション作られるんですね」
「ええ、まあ。もう少し量が作れるようになったら、ギルドに売りに行く予定です」
「はい、お待ちしてますね」
「ありがとうございます。そういえば……あの草原の先にある森ってかつては村や集落があったんですよね?」
「ええ、そうです」
カーラさん曰く……
現在、『魔の森』と呼ばれている森はかつては人が住み、村や集落がたくさんあった……が100年ほど前に隣国のターク帝国と争いが起こった場所でもある。
何やら金になるものがあったらしく……いくらリタール王国がそのようなものはないと主張しても信じず、そのせいでこの辺り一帯が緊迫していた。
しかしターク帝国が金になると思っていたものが一向に見つからず争いが激化していくうちに、ターク帝国の王が崩御し相手国で内紛が起こったとか。
幼い王子がその座についたことより情勢が変わり協定を結ぶことで戦争は終結した。
協定の内容はその王子にリタールから姫を嫁がせたり互いに森から一定以上離れたの距離に街や村、集落を作るなど……
「へぇー」
「ですので、森の近くにあった村や集落が集まりこの街ができたと言われています。協定で森はリタール王国の所有と定められたのですが、時とともに森は昔の何倍にも広がり続けているため……過去の村や集落は既に森に飲み込まれてしまいました」
「あー……じゃあやっぱり、森の浅い部分にある広場はかつての村の名残りなんですね」
「ええ、あの広場も10年前には森の外にあったんです……一夜にして飲み込まれまれてしまいましたが」
「えっ? そんなに急に侵攻するんですか」
「ええ、そうなんです……だから余計に対応が難しくて」
なんでも魔の森に飲み込まれた時点で領主は飲み込まれた土地の権利放棄をしたらしい。
税の徴収もなければ何か起きても自己責任の地になったとか。
リタール王国は年に1度調査隊を組んで高ランク冒険者の護衛とともに侵攻具合を確認しているらしいがここ数年それも霧が発生しない地域に留まっている。どうして突然森が広がるかの調査もなかなか進まないらしい。
理由は主に危険だからと飲み込まれた土地よりこれから侵攻されそうな土地の方に優先度が傾いているため。
女神の知識で調べると『女神の浄化』なら数回で濃い霧の発生しない元の森に戻せるよう。しかし範囲は1メートル四方。なかなか厳しい……
「現状では魔道具や浄化で侵攻を食い止められるか微妙なところで、広がる森を伐採するぐらいしかできないんですよね……まぁリタール王国よりターク帝国の方が深刻に捉えていると思います」
「どうしてですか?」
「それは、協定では森の所有権がリタール王国にあると定められていますよね? 森が広がった場合その土地はリタール王国のものになるということなんです」
「はぁー、それはまた……」
「もちろん協定上の話ですね……実際はかつての森の位置までがリタール王国、広がった部分はターク帝国のままです」
「そこでもめそうですね……」
「ええ、不服を唱えるものもいますが……ターク帝国側の森の端まで行きそこに軍を置いたりする費用や人材もバカになりませんから……争いを防ぐためにもリタール王国の第1王子の妃をターク帝国から迎えたりして、両国の関係を良好に保っているんです」
「へー、そうなんだぁ」
「ただ、昔よりも強力な魔物が闊歩している森の奥には冒険者でも滅多に立ち入ることはないです。実際はたどり着くだけで何度命の危険があるか……冒険者の中では濃い霧が出てきたらすぐに引き返せ。と言われるほどですから、もはや森の中心部なんて瞬間移動や転移魔法の使い手もしくは特殊なスキル持ちしか行けない場所ですよ。まぁ、そんなのは伝説ですけど」
ほー……まさに私のことだね。うん、瞬間移動はやっぱり普通じゃないみたい。
ちなみに、瞬間移動で元の世界に戻れるか試してみたけど何も起きなかった……うん、それで帰れるならコルドさんが教えてくれてるはずだよね、ぐすん。
◇ ◇ ◇
目の前には何度見ても朽ちた小屋。
わざわざこの小屋まで瞬間移動でやってきた目的は……ズバリ、薬草採取と小屋のお掃除です!
「わたしだけが採取し放題……ふふっ」
まぁ、まだ前回採取したものがストレージにあるから焦ってはいないけど、ポーション職人を目指すなら誰にも知られていない群生地は有用だと思う。カーラさんの話を聞く限り、濃い霧ってこれのことでしょ?
小屋の周りで採取できるものだけにして、今日は掃除をメインにするつもり。
元々は小屋をどうこうするつもりはなかった。まず小屋の位置がわからないし、ボロボロだし……高価買い取りの薬草採取に行ったときにとりあえず雨風をしのげて休憩に使えればいいかな、ぐらい。
でも、カーラさんの話を聞いて……ふと思ったんだよね。
ポーション作るのにいいんじゃないかって……火を使ってもいいし、雨風はしのげる、多分。
濃い霧のおかげで人目を気にしなくて良くて、それにちょっと秘密基地みたい。女神の聖域展開すれば多少の魔物も平気なはずだし……
ということで小屋の掃除をしよー、おー!
「……やってみるか」
小屋はまず目に付く限り《清浄》してみた……埃とかこびり付いたゴミとかきれいになるかなって期待したけど
「全く変化ないな……レベルが足りないのかな? それとも目に見えない範囲できれいになってるか」
浄化も試してみたけど効果なしだったよ…がっくり。
で、でも、心なしか空気がおいしくなった気がする……うん。こういうのは気の持ちようだよ、多分。
ほらっ、何回もすれば濃い霧の発生しない元の森に戻せるらしいし? 1メートル四方だけど。
「地道に掃除するしかないのか……」
そこら辺に落ちてたちょうどいい枝を箒がわりに顔を布で覆ってから玄関付近埃をはいていく……
「おっ、これすごい! 女神の聖域って埃も通さないんだ!」
女神の聖域が無ければむせて涙が出そうなほど小屋の中は埃が舞っている。
時には《そよ風》で小屋の中の空気を循環させながら木の枝に布をつけたハタキもどきで埃を落とし、床をはく……
しばらく格闘するとようやく埃っぽさがなくなって元の床が確認できた。
もう1度《清浄》してみるとわずかにきれいになった。
「あまりにも汚すぎて、効果がわからなかったのかな……拭き掃除はまた今度にしよう」
休憩しつつ、女神の聖域で小屋全体に結界を張ってみる。
そうそう、小屋は平家の石造りでリビングらしき場所にキッチンなどの水場もベットもひと部屋に全てが収まっている。ただ少し広めかな……
置いてある家具も、足の朽ちたテーブル、座面の壊れた椅子、ベッドだったであろう物体、釣りの道具らしきものなど、ほとんどが壊れていた。
最初はいつも自分に展開するときの2倍の魔力で小屋を丸ごと包みこもうとしたんだけど全然ダメ。
今度は居間らしき場所のみに展開する。それも2倍では数分しか持たなかったけどけど……少しずつコツをつかんで魔力の限界までひたすら練習……あ、ちゃんと広場の近くに戻れる分は残したよ。
「これかなりいい練習になりそう……」
魔力もだいぶ消費したし、いつのまにか辺りが暗くなってきたので急いで撤収して宿へ戻る。
「ゆっくり休めば魔力も回復するし、ポーション飲むのはもったいないかな……」
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる