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第6章
72.呪われた少女と美味しい魔物(3)
「こんにちはー」
「あっ、エナお姉ちゃん、リディちゃんっ! いらっしゃい!」
「……ん、ミーナちゃん、こんにちは」
「えっと、親父さんに用事なんだけど大丈夫かな?」
「あのね……今、お父さんちょっと忙しいみたい」
「そっか……例のお肉持ってきたんだけど、どうしようかなぁ」
「なんだとっ」
親父さんが厨房から飛び出してきた……
「こんにちは、お忙しいなら出直しますけど」
「いや……平気だ」
おおー、親父がこんなに話すなんてっと周囲もヒソヒソ言ってる……うん、わたしもびっくり。ほとんど話してるの聞いたことないからなぁ。
「まあまあ……エナちゃん悪いけど奥に来てくれるかしら」
「はい」
おかみさんに促されるまま厨房にお邪魔した……ブランは一応厨房の入り口で待機中。
早速、ブラッドベアのお肉を取り出すと……親父さんの目がカッと見開き
「これは……」
「この前みたいな美味しい料理期待してます!お肉は沢山あるのでまた、みんなで食べましょうね……それと私たちのお持ち帰りもお願いします」
「え、また美味しいお肉食べられるの?やったー」
ギルドで時間がかかったから、もう少しするとお昼の時間だ。
仕込みで忙しいはずなのに簡単にできるものを作ってくれるらしい。わーい、わーい……じゅるり。
「任せておけ」
「お願いします」
「……お願い」
お昼はブラッドベアのステーキとサラダ、パンだった。
ブラッドベアの料理はやはり美味しかった。親父さんに頼んで正解だったね。
「んっ、美味しい」
「だよね。リディとブランが倒してくれたおかげだよ」
「ん」
「でも、ブラッドベアは本当に危ない魔物だから今度からは十分に気をつけて、危ないと思ったらブランを囮にして逃げるんだよ」
ブランはその言葉に若干引っかかっていたようだけど、本当にそうなった時は身を呈してリディを守ると思う……だってブランだもん。
「ん、ブランと一緒に逃げる」
それを聞いたブランの喜びようはすごかった。相変わらず私の顔にはブラン羽がバサバサ当たってるけどね……
「それでもいいけど……安全第一だからね」
「ん、わかった」
周囲の羨ましそうな視線を浴びつつ完食。あ、もちろん今のは周囲に聞こえないよう小声で行なっております。だから、突然ブランがバザバサしてびっくりしてる人もいるよね……うん、なんかすいません。
お持ち帰りはまた後で取りに来ることにしてキュリエルのお願いを聞いてやるか……
[防具や革製品、日用使いから一張羅までなんでも承ります! 従魔の装身具などもお気軽にどうぞ! ドーラの防具屋]
店先に貼ってある紙が綺麗になり、文言が変わってる……これって明らかにブランのことですね。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは」
「あっ、エナさんっリディちゃん、それに従魔さんまでっ……どうしたんすか」
相変わらず埃っぽい店内に新たなコーナーが誕生していた……それは従魔の装身具コーナー。うん、この街じゃなかなか厳しいんじゃないかな?ブラン以外に従魔見たことないし……
「あの、ちょっと変わった子の装身具を作って欲しいんだけど……今から一緒に来てもらうことは可能ですか?」
「なんすかっ!? 面白そうなら行くっす」
なんか瞳がキラキラしてる……
「うん、事情があってここに来れないんだけど、ブランのリュックみたいなのが欲しいらしくて……」
「そうっすか……暇なんで行くっす!」
ブランは装身具コーナーの飾りを熱心に見て、リディと何か話してる……おねだりかな?
「ちょっと用意して来るんで待っててくださいっ」
ドーラさんは表の看板を『close』にして、慌ててリュックに道具を詰め込んでいる。
「準備できたっす」
「うん、じゃあ行こっか……なんだったら荷車に乗せてく?」
「おおー、ありがたいっす……自分が引くので案内お願いします」
「うん。リディたちもいい?」
「ん、今日のところは」
ブランの飾りは相談して自分だけのものを作ることにしたのかも。ブラン落ち込んでないし……断られたわけじゃないはず。
ドーラさんが引いてくれたおかげで楽できてしまった。べ、べつにこれを狙ってたわけじゃないんだからね!
でもね、ずっと荷車引いてたら本当に疲れた。
ポーション納品して1度荷車を家まで持って帰らなければならないのも意外とめんどくさい。
そのあともう1度市場へ出向いて買い物ってのもねぇ……やっぱストレージが便利だな。
なんだかこのまま、荷車はしまい込まれそうな予感……ははっ……はぁ。
街の家に着くと……
「ここって色々と噂のあるお屋敷じゃないっすか!?……ま、まさかお相手はっ」
「うん、そうだよ……精霊」
「ままま、まじっすか」
あれ、ドーラさん震えてない?
「嫌ならやめる?」
「い、いやだなんてとんでもないっすっ!これは武者震いってやつっす!」
「そう……とりあえず、入ろうか」
「ん」
門を通り玄関を開けると
「エナー!誰か知らない人連れてきたでしょ」
「あ、キュリエル……知らない人ってキュリエルがリュック欲しいって言うからわざわざ来てもらったんだけど」
「あー、そっか……ならどーぞ」
ドーラさんはますます興奮して瞳がキラキラ……大丈夫かな。興奮して倒れたりしないよね?
とりあえずリビングへ案内して
「じゃ、お願いします」
「おおっ、精霊さま初めて見たっす」
「うん、よろしくー。僕もアレみたいなの欲しいから」
「うぉおおお!まさかこんな日が来るなんてっ。では早速……精霊さまこの羽は使ってますか?」
「うーん、どっちでもいいかな」
「そうっすか。使うかどうかでデザインが変わるんですよ」
「ふーん」
時間がかかりそうなので今できる修繕しちゃおうかな……
「デザインの希望はあるっすか?」
「シンプルなほうがいいや」
「了解っす」
「あ、ドーラさんできれば価格は抑えめでお願いしますね」
「うわー、従魔さんに続いて精霊さまの物を作れるなんて。すっごく滾るっす……そりゃあもちろん格安でさせてもらいます。こんな機会滅多にありませんからー」
「そう、ありがとう」
あ、リディも手伝ってくれるの?ありがとう……
「とりあえず、サイズ計らせてほしいっす」
「いいよー。ただし、僕が気にいるの作ってよね」
「はいっす。全力で頑張りますっ」
「……ドーラさん、キュリエルのデザインは本人が気に入らないとダメだと思うから」
暗に個性的なものは作るなと釘を刺す。
「わ、わかったすっ。今回はちゃんと試作品を作るっす」
「そう……」
ドーラさんがキュリエルのサイズを測り、デザインを見せている間にあらかた修繕も終わった。多少不恰好だけど壊れないだけいい、よね?
「ねぇ、リディ……このお風呂変えたいよね」
「ん、家のお風呂みたいにしたい」
「あれってどうやって交換するんだろうね……あ、トイレは簡易のやつがあるから言ってね?」
「ん、今はへいき」
白熱していてまだまだ終わりそうにないのでポーションを作って待っていると
「ふぅ……これでデザインは決定っす」
「終わった?」
「はいっ!丹精込めて作るっす!楽しみにしてくださいっ」
「よろしくー」
「ん、よろしく」
私がポーション作りに集中している間にリディもブランの飾りを注文していたらしい。それもあって時間がかかったんだね。
注文書を受け取り、手付け金を支払う。
リュックと交換に残りを支払うことになってるけど、ブランがおねだりしてたあの飾りとかあの飾りとか足したら結構高くなりそう……よし、何もつけずシンプルなままにしよう。
そんな決意……出来上がりを見てあっという間に意味のないものになるとは知らずに。
放っておかずに、ちゃんとデザインに口出せばよかった……ぐすん。
「じゃあ、またね」
「ん、また」
ドーラさんは大荷物を抱えて帰っていった。
いつのまにか夕方になっていたので急いで黄金の羊亭へ行きブラッドベアの料理を受け取る。
ブラッドベアのミートパイ、ブラッドベアのシチュー、ブラッドベアのステーキ、ブラッドベアの煮込み、ブラッドベアの……いやー、親父さん張り切ってたくさん作ってくれたから持ち帰りもたくさんあるし……何から食べようか迷っちゃうなぁ。
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