生粋の猫使いとやる気のない猫狩り

朔々

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猫狩りに気をつけろ

まず、森を突っ切ろう

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「いきなり森なんて入って大丈夫なのかしら」

「うーん」

リリィの言う通り、僕はろくに魔法を知らない。呪文だって使えそうなのを何個か覚えただけだ。

「こんなのがご主人さまじゃ、先が思いやられるわね」

可愛いくせに可愛くないやつ。
でも、可愛い。

胸の前のポケットにいる彼女を撫でる。

「ゴロゴロゴロゴロ」

喉を鳴らして上機嫌である。

「さぁて、最短距離で突っ切るぞ!」

「うわぁ!」

全速力で走り出す。
かけっこはいつでも一番だった。脚には自信がある。

「うううー、目が回るー」

リリィは僕にしがみついて、安定性を保つ事に成功した。

「ふぅー・・・、あ!待って。近くに誰かいる」

「・・・なんだって」

徐々に速度を落として、小声で会話をする。

「邪気は感じられないけれど、人だわ」

「なるほど。仲間集めチャンス到来かな!」

「敵の可能性も捨てきれないわ」

「はいはい。心配性さんは隠れてなさいよ」

不服そうにぶーぶー言いながら、大人しくポケットの中で目立たないように丸くなる。

「さぁて、腕の立つ人がいいな」

慎重に歩を進めると、切り株がいくつもある広場に到着した。
誰ががしばらく寝泊まりしているような雰囲気。

「ん?クリームシチューのいい香りがする」

「食べ物には特に注意よ」

「はいはい」

食べ物の香りがする方に向かうと、銀髪の少年が一人で鍋をゆっくりかき混ぜていた。

「あのー」

「・・・クリームシチュー・・・今夜の・・・クリームシチュー・・・」

陽気なことに、歌を口ずさんでいる。

「あーのー!」

「うわぁぁぁぁ!!って熱っっっ」

「ごめんなさい!大丈夫?火傷してない?」

「だいじょぶ!本当に大丈夫だから!やだな、俺、自作の歌なんか歌ってて気づかなかった」

照れ隠しに話しているから、なかなか目が合わない。

「いえいえ!君は森で生活しているの?」

初めましての人に、最初にする質問とは違ったかもしれないが、ゆっくりと目線が重なっていく。

うわぁ・・・
透き通るような蒼い瞳だ。

まるで、それこそ猫みたいな透明感のある瞳の色で、珍しかった。
僕の知らない世界には、多くの人がいるんだなぁ。

「森に入ったは良いけど、今度は出るのがめんどくさくなっちゃって」

えへへと笑っている。
森を出るのが面倒だから暮らしていると言いたいのか!
まずい、話しかける人を間違えたかもしれない。

「俺は、ノアって言います。夕飯を作りすぎちゃって、どうしようかと思ってたから、ちょうどいい」

端麗な容姿に似合わず、彼は素朴な笑顔を浮かべた。

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