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大規模魔法。
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今日はあちら、明日はこちら。
戦火の煙があちらからもこちらからもたつようになっていた昨今、聖王国では自国に火の粉が掛からなければそれでいいと考える刹那的な人々が増えていた。
聖王国の貴族らは同時に周囲の小国の王を兼ねるものも多く、己の利権をかけて戦争に明け暮れ。
かろうじて聖王国内だけは戦火を免れているだけの状態で。
聖王国中央にある神聖教教皇領。
それがあるがため外では争う貴族もフーデンブルク聖王国国内ではお互いに牽制するにとどまっていたというのが正しい。
その状態を嘆かわしく思う女性が一人。
聖女アマリリスは王宮の自室にて現状に憂い自身の力のなさを嘆いていた。
なんのための神聖教か。
なんのための聖女か。
戦火によって街には孤児が増え。
そしてそういった孤児を捕まえ奴隷として売る非合法な奴隷商が蔓延る。
もちろん国の法はそうした奴隷も奴隷商も禁止はしているのだけれど実際にそうした横行を止める術はもはやなく。
奴隷は安価な労働力として、そして安価な兵力としてその需要が増していた。
また、食べ物もなく働き口もなくただただ死を待つのみだった孤児にとっても、そうやって奴隷として売り買いされた方が生き延びられる確率も上がるとあって。
こうした奴隷売買はこの世界での必要悪と見做されるに至っていたのだった。
それでも。
聖女アマリリスの胸中はそんな必要悪などという言葉では誤魔化すことは出来はしなかった。
孤児院は、
一時的な救済にしかならないことは十分理解している。
教育と、自由な働き口、そして幸せな人生を生きること。
簡単に叶うことではないけれど。
求める人にはそれが叶う世界が欲しい。
ううん、
求めることさえできない、
いいえ、
求めることさえ知らないそんな子供を一人でも減らしたい。
そう願ってやまないのだ。
西方のコルドバとその北にあるフェリオ公国との戦争は激しさを増し、とうとう十万人もの被害を出したと言われるゴンドワの戦いがおこった。
この戦いでは双方の主力がほぼ壊滅するといった結果で、大規模な魔法戦は周囲5キロ四方を焼け野原にしたという。
ゴンドワの砦はその威容を跡形もなく消し去られ、そこで使用された大規模魔法の威力に人々は恐れ慄いた。
ただ、使用した魔法士本人もすでにこの世のものでは無く。
その技術を知るものももはやいないだろうと思われていたのだが。
宮殿内の魔道士の塔周辺がざわめき立っていることに気がついたアマリリスは、側近を連れてその様子を見にいくことにした。
「何か良くない予感がするのです」
そういうアマリリスに側近の二人も不安に感じて。
「何があったのですか!」
物々しい重装備に身を固めた魔道士たち。
そのリーダーなのであろう青年が前に出て答える。
「これは、聖女アマリリス様。どうされましたか?」
そう皮肉な笑みを浮かべ話すその姿に、アマリリスは不穏な空気を感じていた。
「どうもこうも、こんな夜更けにそんな重装備で身を固め、今にも戦争に行くような姿ではありませんか」
「ああ。ご心配には及びません。我々はこれから亡きネイチャー老師の館を接収すべく出動するところです。賊の排除も必要でしょうからこうした装備ではありますが」
「なんと、ネイチャー老師はお亡くなりになったというのですか!?」
「ご存知ございませんでしたか。先日行われたコルドバとフェリオ公国の戦争の際、ゴンドワの砦で使用された大規模魔法、それがネイチャー老師の行使されたものだったわけですが。その際老師も命を落とされたということなのです」
「なんと、そうでしたか……」
「流石にあの規模の大規模魔法です、国家の管理におかず放置するわけには参りません。彼の屋敷にその魔法陣の資料や魔法術式の内容が書かれた資料が存在するはずなのですが、現在彼の地は野良魔道士に占拠されておりまして。ですから我々はこうして実力行使に出ざるを得ないとこういう訳でございます」
「占拠、とは穏やかではないですね」
「ネイチャー老師の後継者を自称する野良魔道士ですがね。生意気にもかなり手強い魔法を使うとあってうちの協会の使いはことごとく追い払われました」
「なんと、それではその方は老師のお弟子さんということではないですか!」
「弟子であろうとなんであろうと、老師の重要な文献は国家の財産です。個人が勝手にしていいものではないのですよ? まして、今回接収する必要性に駆られている大規模魔法はもしもこの聖都で使われでもしたら神聖教領から王宮まで全てが灰になる危険があるのです。放置するわけには参りません」
「ですが」
「いくら聖女様であってもこの決定は覆りません。我々魔道士協会としてはこの国の安全を守るためには多少の犠牲は致し方ないと思っておりますゆえ」
「それでは、せめて、わたくしも連れて行ってはいただけませんか? なんとかそのお弟子さんを説得してみます。そのお屋敷を明け渡していただければそれでいいのでしょう? それなら話し合いでなんとかするべきではないでしょうか」
「そこまでいうなら聖女様、やってみればいいです。まあ、物別れに終わるようだったら我々は容赦せず屋敷の接収に入りますから」
両手を広げそんなにいうならやってみせろよとでも言いたげに苦笑いを浮かべるその青年。
聖女アマリリスはそれ以上は口をつぐみ。
彼らの後をついていくことにした。
なんとか話してわかってもらわないと。そう決意をして。
戦火の煙があちらからもこちらからもたつようになっていた昨今、聖王国では自国に火の粉が掛からなければそれでいいと考える刹那的な人々が増えていた。
聖王国の貴族らは同時に周囲の小国の王を兼ねるものも多く、己の利権をかけて戦争に明け暮れ。
かろうじて聖王国内だけは戦火を免れているだけの状態で。
聖王国中央にある神聖教教皇領。
それがあるがため外では争う貴族もフーデンブルク聖王国国内ではお互いに牽制するにとどまっていたというのが正しい。
その状態を嘆かわしく思う女性が一人。
聖女アマリリスは王宮の自室にて現状に憂い自身の力のなさを嘆いていた。
なんのための神聖教か。
なんのための聖女か。
戦火によって街には孤児が増え。
そしてそういった孤児を捕まえ奴隷として売る非合法な奴隷商が蔓延る。
もちろん国の法はそうした奴隷も奴隷商も禁止はしているのだけれど実際にそうした横行を止める術はもはやなく。
奴隷は安価な労働力として、そして安価な兵力としてその需要が増していた。
また、食べ物もなく働き口もなくただただ死を待つのみだった孤児にとっても、そうやって奴隷として売り買いされた方が生き延びられる確率も上がるとあって。
こうした奴隷売買はこの世界での必要悪と見做されるに至っていたのだった。
それでも。
聖女アマリリスの胸中はそんな必要悪などという言葉では誤魔化すことは出来はしなかった。
孤児院は、
一時的な救済にしかならないことは十分理解している。
教育と、自由な働き口、そして幸せな人生を生きること。
簡単に叶うことではないけれど。
求める人にはそれが叶う世界が欲しい。
ううん、
求めることさえできない、
いいえ、
求めることさえ知らないそんな子供を一人でも減らしたい。
そう願ってやまないのだ。
西方のコルドバとその北にあるフェリオ公国との戦争は激しさを増し、とうとう十万人もの被害を出したと言われるゴンドワの戦いがおこった。
この戦いでは双方の主力がほぼ壊滅するといった結果で、大規模な魔法戦は周囲5キロ四方を焼け野原にしたという。
ゴンドワの砦はその威容を跡形もなく消し去られ、そこで使用された大規模魔法の威力に人々は恐れ慄いた。
ただ、使用した魔法士本人もすでにこの世のものでは無く。
その技術を知るものももはやいないだろうと思われていたのだが。
宮殿内の魔道士の塔周辺がざわめき立っていることに気がついたアマリリスは、側近を連れてその様子を見にいくことにした。
「何か良くない予感がするのです」
そういうアマリリスに側近の二人も不安に感じて。
「何があったのですか!」
物々しい重装備に身を固めた魔道士たち。
そのリーダーなのであろう青年が前に出て答える。
「これは、聖女アマリリス様。どうされましたか?」
そう皮肉な笑みを浮かべ話すその姿に、アマリリスは不穏な空気を感じていた。
「どうもこうも、こんな夜更けにそんな重装備で身を固め、今にも戦争に行くような姿ではありませんか」
「ああ。ご心配には及びません。我々はこれから亡きネイチャー老師の館を接収すべく出動するところです。賊の排除も必要でしょうからこうした装備ではありますが」
「なんと、ネイチャー老師はお亡くなりになったというのですか!?」
「ご存知ございませんでしたか。先日行われたコルドバとフェリオ公国の戦争の際、ゴンドワの砦で使用された大規模魔法、それがネイチャー老師の行使されたものだったわけですが。その際老師も命を落とされたということなのです」
「なんと、そうでしたか……」
「流石にあの規模の大規模魔法です、国家の管理におかず放置するわけには参りません。彼の屋敷にその魔法陣の資料や魔法術式の内容が書かれた資料が存在するはずなのですが、現在彼の地は野良魔道士に占拠されておりまして。ですから我々はこうして実力行使に出ざるを得ないとこういう訳でございます」
「占拠、とは穏やかではないですね」
「ネイチャー老師の後継者を自称する野良魔道士ですがね。生意気にもかなり手強い魔法を使うとあってうちの協会の使いはことごとく追い払われました」
「なんと、それではその方は老師のお弟子さんということではないですか!」
「弟子であろうとなんであろうと、老師の重要な文献は国家の財産です。個人が勝手にしていいものではないのですよ? まして、今回接収する必要性に駆られている大規模魔法はもしもこの聖都で使われでもしたら神聖教領から王宮まで全てが灰になる危険があるのです。放置するわけには参りません」
「ですが」
「いくら聖女様であってもこの決定は覆りません。我々魔道士協会としてはこの国の安全を守るためには多少の犠牲は致し方ないと思っておりますゆえ」
「それでは、せめて、わたくしも連れて行ってはいただけませんか? なんとかそのお弟子さんを説得してみます。そのお屋敷を明け渡していただければそれでいいのでしょう? それなら話し合いでなんとかするべきではないでしょうか」
「そこまでいうなら聖女様、やってみればいいです。まあ、物別れに終わるようだったら我々は容赦せず屋敷の接収に入りますから」
両手を広げそんなにいうならやってみせろよとでも言いたげに苦笑いを浮かべるその青年。
聖女アマリリスはそれ以上は口をつぐみ。
彼らの後をついていくことにした。
なんとか話してわかってもらわないと。そう決意をして。
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