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江藤遥香。今ハタチ。

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「はるか! 起きなさい。もう七時よ!」

 お母さんの声。

 ああ、またいつもの夢を見てた気がする。

 でも、今の今まで覚えていたはずなのにな。もう思い出せないや。 

「はーい。もう起きたよー」

 もう用意しなきゃ遅くなっちゃう。

「朝ご飯の用意できたわよー」

 今日もまたいつもの通りの一日が始まる。

 何も変わりがない。平穏な一日。

 あたしが一番望んだ、まったりした日々。

 え? なに言ってるんだろう? 

 わかんないけどまあいいや。




 あたしは高校卒業後小さな電気部品の会社に事務員として就職して、ごくごく普通のOLとしてもう2年働いている。社長さんも奥さんもやさしいいい人で、従業員も少ないけどみんな仲良く働いていて、まあ、お給料はそんなに多くはないけど、そんなに不満はないな。たぶん結婚するまではこのまま務めることになると思う。

 そう、結婚。たぶんこのまま結婚することになるんじゃないかなっていう彼氏、天野明くん。

 知り合ってからまだ1年しかたたないけどうちの両親もすっかり気に入っていて、お母さんなんか「いい人ねえ」の連発だし、お父さんも「向こうの親にあう時はお嬢さんっぽい格好で、絶対にブラウスの第一ボタンをはずしたらだめだ」とか、そんなことばっかりで。

 でもそのおかげか向こうの両親の前では「おとなしいお嬢さん」をけっこうかんぺきに演じられて、気に入られたらしいから良かったのだけど。

 まあでも、結婚まではもうちょっとかかるかな。お互いちゃんと生活設計してからの話になるだろうしもうちょっとこのまま自由も味わいたいし。

 実は来年にはあたしも一人暮らしが決まってる。

 お兄ちゃんが結婚してこの家で両親と同居するって言ってるしね。まあ小姑にはなりたくないし。

 今のお給料では部屋代出すのも大変なんだけど、そこはそれ、せめて家賃だけは、って、両親が払ってくれることになってる。

 ほんとごめんねって思うけど、それもこれもお家をおん出るあたしへの生前贈与なんだって。

 まあ確かにうちの財産なんてお家しかないし? そしたら財産分与とかも放棄しないといけないし? ってことみたい。

 だから申し訳ないって思いながらもありがたく受け取ることにした。

 まあね。結婚するまで住むだけのアパートだからね。

 そこまで広くもなくて良いから交通の便の良いところ探すつもり。


 あは。

 あたし、江藤遥香。今ハタチ。

 ほんと今が一番幸せ。そう、思ってる。
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