あなたがすき、だったから……。

友坂 悠

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兄。

「うん。父さんがうちの子だっていうなら、この子は僕の妹だ。兄は妹を大事にするもの、だからね」

「そう、だな。アンソニー」

 (そうだ、アンソニー。兄は、妹でも弟でも、大事にするものだ)

 兄の忘形見アンソニー。
 (この子は、だんだんと優しかった兄、アルバート兄さんに似てくる)

 エドワードはアンソニーがマオを妹だって言って受け入れてくれたことに感謝しつつ、しかし彼に本当のことを言うのも躊躇われた。

 もともと、優秀だった兄がこのフリーデン侯爵家をつぎ、自分はいとこでもあるイライザ・ラウルと結婚してラウル伯爵となる、予定だった。親同士の口約束の、そんな軽い婚約であったけれど。貴族たるもの政略婚が当たり前望んだ相手との結婚など望むべくもない、そう教えられてきたエドワードにとって、そんな運命に逆らうという考えすら持つことも無かったのだった。
 しかし。

 たまたまの領地視察の際に現れた盗賊に、簡単に倒せるだろうと油断したエドワードに放たれた魔法銃の弾丸から、彼を庇って命を落とした兄アルバート。
 その日以来、エドワードの人生はそれまでとはまったく変わったものとなってしまった。

 ラウル家の子は女性が二人。
 イライザと、アルバートの伴侶となっていたアニータだけであったから。
 エドワードがアルバートに代わりフリーデン侯爵となることが決まった段階で、彼女イライザとの婚約は解消されていた。

 お互いに家督を継がなければならなくなった身では、婚姻など望むべくもない。

 それに。

 兄アルバートにはアニータとの間にアンソニーという子が居た。

 自分は……。
 この子、アンソニーに家督を継がせるまでの臨時侯爵だ。
 エドワードはそう心に決めていた。

 そして、自分に子があれば絶対に家督争いの元となる。
 それは避けるべきだ。
 本来であれば今ここに生きているのはアルバートであったはず。

 だから。

 エドワードはアンソニーを養子に迎え、実の子のように愛情を注いだ。
 そして、自分は決して子を為さないと誓ったのだ。

 しかし、周囲がそれを素直に許しはしなかった。

 侯爵が生涯独身でいるのは世間体的に宜しくない。
 だの。
 アンソニーを養子にするのであれば兄の妻であるアニータと結婚すればいいのだ。
 とか。
 そんな外野の声は日に日に高まってきていて。

 アニータとの結婚?
 そんなもの、兄への裏切りに等しい。
 彼女の生活は保証する。一生この家で面倒をみる。その気概はあった、けれど。
 結婚となると話が違う。

 兄が愛した彼女を、自分が凌辱するなんてことはどうしてもできなかった。


 そこで白羽の矢を立てたのが、フローラだったのだ。

 なんでもよかった。アニータとの結婚を避けることができるのであれば、それで。




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