あなたの恋、応援します!! 〜気がついたら悪役令嬢だったので、破滅回避のために全力で王太子の真実の恋を応援することにしました!!【嘘】

友坂 悠

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【無視】

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「わたくしはアリシア・ブランドーですわ。あなたは?」

 ぽわぽわの金色の巻き毛。顔立ちも整って、王家の血筋を思わせるルージュの瞳。そう声をかけてみたものの、アリシアにはこの子供がルイスだとすぐにわかった。

「そうか、お前がアリシアか」

 ルイスは名乗るつもりはないらしく、それだけ言うとアリシアをジロジロと舐めるように見る。

 失礼ね、そうは思うもののここで喧嘩になるのも避けなければ。そう理性ではわかっている。
 この先を考えれば、ここはおとなしくしておくほうが得策か、とも思ってはいるのだ。いるのだけれどどうにも心が冷静ではいられない。
(彼は、わたくしを処刑しようとした張本人だもの)
 あの極寒の中たぶんアリシアは息を引き取ったのだろう。
 自分が死んだという記憶こそないものの、ウィルヘルムは確かにアリシアが死んだと言っていた。それは嘘だとは思えなかった。

「失礼ね。レディの顔をジロジロ見るだなんて」

 思わずそう答えていた。
 ルイスがギョッとした顔をしたのがわかったけれど、そのままプイッと顔を背け、薔薇を愛でなおすように意識を花に向けるアリシア。
(もう完全に無視しよう。どうせこの人に好かれることはないのだもの)
 そう考えると少しは心が楽になる。
(今は、お互いにまだ子供。このまま嫌われたところでどうと言うことはないわ)
 そう開き直ってしまえばいろんなことが簡単に思えてきた。

 ストーリーの中のルイスとアリシアの婚約は、本編が始まった時にはもう決まった話だったから、それがどういう経緯であったのかは不明だった。
 それでもお互い家同士の政略的なものだったと言うのは間違いないだろうと思えた。
 王族が聖女の血筋を乞い、公爵家は王家とのより強い結びつきを願った。その結果だと。
 アリシアが本心でどう思っていたのかはわからない。
 それでも、あれだけ自尊心の高いお嬢様だったアリシアのことだ。自分に相応しい地位と言えば王太子であるルイスしかいないとでも思っていたに違いない、とは思う。
 それはきっと恋でも愛でもない。悲しいけれど、貴族の婚姻などそういうものなのだろう、という諦めもあったのだろう。

 逆行前のアリシアといえば……。
 やはり恋では無かった。それは間違いがない。
 皆の役に立てればいい、それしか考えていなかった、はず、だった。

 それが「愛されたい」と言う気持ちの裏返しだったのも、また、真実だったろう。
 父にも、妹にも、そしてルイスにも。愛されたいと思っていたからこそ、裏切られた時にあれほど悔しかったのだ、と。今ならそう、理解できていた。

 でも、だからといって、今更媚を売ってルイスに好かれようなんて気持ちにはさらさらなれなかった。

 アリシアの心には、魂にこびりついてしまった怒りがまだ燻っていた。





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