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【記憶】
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始終穏やかに終わった晩餐。
ロンウォール侯爵夫妻はにこやかに見守るだけでとくに会話にも参加する様子でもなく、最後に夫人がアリシアに「貴女はその歳でもう立派な公爵家の家長なのね。安心したわ」と声をかけてくれた。
元々親族の中でも力のある家柄であるロンウォール家。
とすれば前回アリシアを見限りライエルに、バッケンバウワー公爵家から次男のクリストを養子に迎えるよう指示したのもこのロンウォール侯爵かもしれない。
筆頭公爵家であるこのブランドー家の血筋よりも、王室のスペアであるより濃い血の方を優先した、ということなのだろう。
ブランドー家ほどではないにしろ、バッケンバウワー家にも何代にもわたり王室の血筋のものが降家して血を繋いできた歴史があった。
(合格した、そう思って良いのかしら?)
ほっと胸を撫で下ろす。
(わたくし、ちゃんと主人としてのおもてなしができたのね)
それが嬉しい。
そして。顔見せのための晩餐の主役のはずのマリアンヌは、というと。
喋るのはほとんどマリサ。「おいしいわ」とか、「おねえさま、これはどんなお肉なの?」とか、無邪気に喋るマリサに対して注意するでもなし、じっと黙って食事をしていた彼女。
その都度アリシアが、「マリサさん、お料理を褒めてくださってありがとうございます。でも、お口の中に食べ物が入っているあいだに話しかけるのはよしたほうがいいわ。ちゃんと食べてからお話ししましょうね」とか、「こちらはラオ高原のラオ牛の仔のお肉ですわ。柔らかく味がとても良くて、こういう席にぴったりのお肉なのです。でもマリサさん、両手にカトラリーを持ったまま振り回してはダメよ。お行儀が悪いわ。直しましょうね」など、一言注意しつつ答えて。
まだ五歳のアリシアと、四歳のマリサ。そんな普通であればまだまだ子供らしくしていればいい年齢なのにも関わらず、こうして大人びた言動をするアリシアに、侯爵夫妻はすっかりと感心しきっていた。
本来であったらマリアンヌがそう注意してあげるべきだろう。とも考えていただろうというのはアリシアにも想像ができたけれど、あえてそこは口には出さずにいた。
(人柄が、見えないわ)
この人はここまで無口であっただろうか。
前回の人生でもあまり話をしたことがなかった。
アリシアをいじめるのはマリサ。冷たくあたるのは父ライエル。
しかし、マリアンヌが何かした記憶はあまりない。
というか、なぜかアリシアの記憶からこのマリアンヌの存在が抜け落ちている?
(このお顔は見知ったお顔だ。それはわかるの。でも、お義母さまのお名前がマリアンヌであったことも、彼女とどんな会話をしたかという事も、記憶から抜け落ちているみたいにわからないわ……)
接点は、あまり無かった。
彼女は控え目で、いつもマリサやライエルの後ろにいたイメージしか無い。
晩餐が終わってお部屋に戻ったあと、ミーアと話してもそれは間違いなかった。
「不思議ね。この間みせて貰ったあなたの記憶の中にも、本当にマリアンヌという名前は見当たらなかったわ。あなたが興味が無くて覚えて無かっただけの可能性はあるけど」
「そう、なのでしょうか」
「まあでもいいじゃない。マリサに与えたあなたの第一印象は、たぶん上出来よ。これならあの子があなたを恨む事もなさそう。あとは上手にルイス王子とあわせてあげればいいかもしれないわね」
「薔薇園に連れて行く、とかです?」
「そうね。一ヶ月後くらいにはマリアンヌとマリサはここに引っ越してくるのでしょう? そうしたら一緒に薔薇園に行きましょうか」
ロンウォール侯爵夫妻はにこやかに見守るだけでとくに会話にも参加する様子でもなく、最後に夫人がアリシアに「貴女はその歳でもう立派な公爵家の家長なのね。安心したわ」と声をかけてくれた。
元々親族の中でも力のある家柄であるロンウォール家。
とすれば前回アリシアを見限りライエルに、バッケンバウワー公爵家から次男のクリストを養子に迎えるよう指示したのもこのロンウォール侯爵かもしれない。
筆頭公爵家であるこのブランドー家の血筋よりも、王室のスペアであるより濃い血の方を優先した、ということなのだろう。
ブランドー家ほどではないにしろ、バッケンバウワー家にも何代にもわたり王室の血筋のものが降家して血を繋いできた歴史があった。
(合格した、そう思って良いのかしら?)
ほっと胸を撫で下ろす。
(わたくし、ちゃんと主人としてのおもてなしができたのね)
それが嬉しい。
そして。顔見せのための晩餐の主役のはずのマリアンヌは、というと。
喋るのはほとんどマリサ。「おいしいわ」とか、「おねえさま、これはどんなお肉なの?」とか、無邪気に喋るマリサに対して注意するでもなし、じっと黙って食事をしていた彼女。
その都度アリシアが、「マリサさん、お料理を褒めてくださってありがとうございます。でも、お口の中に食べ物が入っているあいだに話しかけるのはよしたほうがいいわ。ちゃんと食べてからお話ししましょうね」とか、「こちらはラオ高原のラオ牛の仔のお肉ですわ。柔らかく味がとても良くて、こういう席にぴったりのお肉なのです。でもマリサさん、両手にカトラリーを持ったまま振り回してはダメよ。お行儀が悪いわ。直しましょうね」など、一言注意しつつ答えて。
まだ五歳のアリシアと、四歳のマリサ。そんな普通であればまだまだ子供らしくしていればいい年齢なのにも関わらず、こうして大人びた言動をするアリシアに、侯爵夫妻はすっかりと感心しきっていた。
本来であったらマリアンヌがそう注意してあげるべきだろう。とも考えていただろうというのはアリシアにも想像ができたけれど、あえてそこは口には出さずにいた。
(人柄が、見えないわ)
この人はここまで無口であっただろうか。
前回の人生でもあまり話をしたことがなかった。
アリシアをいじめるのはマリサ。冷たくあたるのは父ライエル。
しかし、マリアンヌが何かした記憶はあまりない。
というか、なぜかアリシアの記憶からこのマリアンヌの存在が抜け落ちている?
(このお顔は見知ったお顔だ。それはわかるの。でも、お義母さまのお名前がマリアンヌであったことも、彼女とどんな会話をしたかという事も、記憶から抜け落ちているみたいにわからないわ……)
接点は、あまり無かった。
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「まあでもいいじゃない。マリサに与えたあなたの第一印象は、たぶん上出来よ。これならあの子があなたを恨む事もなさそう。あとは上手にルイス王子とあわせてあげればいいかもしれないわね」
「薔薇園に連れて行く、とかです?」
「そうね。一ヶ月後くらいにはマリアンヌとマリサはここに引っ越してくるのでしょう? そうしたら一緒に薔薇園に行きましょうか」
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