25 / 46
【強制】
しおりを挟む
庭園の中央では本日の主催バッケンバウワー公爵夫妻が来客の挨拶を受けていた。
(あちらのご挨拶はお父様にお任せして——)
マリサは一直線に噴水の方に向かっている。アリシアは公爵夫妻を横目に、そのままマリサについていった。
噴水の前のテーブルではルドルフが主人となって子供らをもてなしていた。
彼の周囲に集まるご令嬢たちは、黄色い声を抑えながらも、彼に目を奪われている様子だった。
大人びた雰囲気のルドルフに比べると、幼く見えるクリストも、それはそれで人気があるようで、彼に話しかける令嬢も多い。
その一方で、他の幼い令息たちは隅に追いやられていた。
「ああ、やっと来たね、アリシア嬢。マリサ嬢も」
涼やかな表情に甘い声。長身ですらっとしているのにも関わらず筋肉質で隙がない。
まだ十歳になったばかりだというのに、アリシアには青年となったルドルフと今のルドルフが重なって見えてしまった。
どうしても、前回の人生で見慣れたあのこちらを見る冷たい瞳、侮蔑のこもった視線を思い出してしまう。
「お招きいただきありがとうございます」
華麗にカーテシーを決めて見せる。ここは貴族の目が集まる社交場。
誰もが相手を値踏みしている、隙を見せてはダメ。そう自分自身に言含めて。
「アリシア嬢、来てくれて嬉しいよ。今日は存分に楽しんで行ってね」
(社交辞令だとしても、それにしっかりと応えないと)
「とても素敵なパーティですわね。お天気も良くって、神様もきっと今日のこの日を祝福なさっているのでしょう」
「私はね、君ともっと話がしたいと思っているんだ。社交辞令なんかじゃないよ?」
距離をとり挨拶をするアリシアのそばまで来て、そう囁くようにいうルドルフ。
鐘を打つように、胸の奥が疼く。
早くなった鼓動を抑えようとして胸に手を当ててみるけれど、だめだった。
「おい」
背後からそう声をかけられ、はっと振り向くアリシア。
思わぬ動悸の高まりに混乱して固まってしまっていたけれど、その声に救われた気がして思わず安堵する。
振り向いた先にいたのは——ルイスだった。
「殿下……」
「なんだ、私を誘ったのはお前だろう? いくらなんでもその態度はないのじゃないか?」
「あ、申し訳ありませんルイス殿下」
アリシアは慌ててカーテシーをしてお辞儀をした。
(ああ、せっかくお誘いしたのに気分を害してしまったのかしら……)
なぜかルイスは最初から機嫌が悪い様子。どうしたのだろうと訝しんで見たものの、理由は分からなかった。
「殿下、よくおいでくださいました。皆も喜んでおります。どうかこちらへ」
「うむ」
ルドルフがルイスを子供達の集まっているテーブルの上座に案内して、ルイスも素直にその席についた。
あらかじめ、ルイスのために用意してあったのだろうその席は、ルドルフの隣でひときわ豪奢な椅子が置かれていた。ルイスの隣はもう一つ席が空いている。そこには誰が座るのだろう。そう思ったその時だった。
「アリシア様のお席はあちらになります」
ルドルフの従者だろうか、黒服の男性が指し示すその席は、ちょうどそのルイスの隣の席だった。
◇◇◇
ルイス、ルドルフと並ぶ上座、その反対側、ルイスの向かって左隣にアリシア、ルドルフの右隣にクリストとその隣にマリサ。
そんな順で席に案内されていた。
(もう、これじゃぁルイスとマリサの恋を応援できないわ)
ルイスが今現在マリサをどうこう想っているそぶりは見えなかった。それでもマリサはルイスの「真実の恋」のお相手のはず。
クリストにしてみても、マリサは運命の人に違いない。前の人生でも、前世の小説の中でも、クリストが好きになるのはやっぱりマリサだった。それでも——
(もし、この世界に本当に運命の強制力があるのなら……マリサがルイスを好きになるのがこの世界の強制力なのなら、クリストのためにもマリサを諦めてもらった方が良いもの)
そう、そのほうがいいに決まっている。そう心に言い聞かせ——
(あちらのご挨拶はお父様にお任せして——)
マリサは一直線に噴水の方に向かっている。アリシアは公爵夫妻を横目に、そのままマリサについていった。
噴水の前のテーブルではルドルフが主人となって子供らをもてなしていた。
彼の周囲に集まるご令嬢たちは、黄色い声を抑えながらも、彼に目を奪われている様子だった。
大人びた雰囲気のルドルフに比べると、幼く見えるクリストも、それはそれで人気があるようで、彼に話しかける令嬢も多い。
その一方で、他の幼い令息たちは隅に追いやられていた。
「ああ、やっと来たね、アリシア嬢。マリサ嬢も」
涼やかな表情に甘い声。長身ですらっとしているのにも関わらず筋肉質で隙がない。
まだ十歳になったばかりだというのに、アリシアには青年となったルドルフと今のルドルフが重なって見えてしまった。
どうしても、前回の人生で見慣れたあのこちらを見る冷たい瞳、侮蔑のこもった視線を思い出してしまう。
「お招きいただきありがとうございます」
華麗にカーテシーを決めて見せる。ここは貴族の目が集まる社交場。
誰もが相手を値踏みしている、隙を見せてはダメ。そう自分自身に言含めて。
「アリシア嬢、来てくれて嬉しいよ。今日は存分に楽しんで行ってね」
(社交辞令だとしても、それにしっかりと応えないと)
「とても素敵なパーティですわね。お天気も良くって、神様もきっと今日のこの日を祝福なさっているのでしょう」
「私はね、君ともっと話がしたいと思っているんだ。社交辞令なんかじゃないよ?」
距離をとり挨拶をするアリシアのそばまで来て、そう囁くようにいうルドルフ。
鐘を打つように、胸の奥が疼く。
早くなった鼓動を抑えようとして胸に手を当ててみるけれど、だめだった。
「おい」
背後からそう声をかけられ、はっと振り向くアリシア。
思わぬ動悸の高まりに混乱して固まってしまっていたけれど、その声に救われた気がして思わず安堵する。
振り向いた先にいたのは——ルイスだった。
「殿下……」
「なんだ、私を誘ったのはお前だろう? いくらなんでもその態度はないのじゃないか?」
「あ、申し訳ありませんルイス殿下」
アリシアは慌ててカーテシーをしてお辞儀をした。
(ああ、せっかくお誘いしたのに気分を害してしまったのかしら……)
なぜかルイスは最初から機嫌が悪い様子。どうしたのだろうと訝しんで見たものの、理由は分からなかった。
「殿下、よくおいでくださいました。皆も喜んでおります。どうかこちらへ」
「うむ」
ルドルフがルイスを子供達の集まっているテーブルの上座に案内して、ルイスも素直にその席についた。
あらかじめ、ルイスのために用意してあったのだろうその席は、ルドルフの隣でひときわ豪奢な椅子が置かれていた。ルイスの隣はもう一つ席が空いている。そこには誰が座るのだろう。そう思ったその時だった。
「アリシア様のお席はあちらになります」
ルドルフの従者だろうか、黒服の男性が指し示すその席は、ちょうどそのルイスの隣の席だった。
◇◇◇
ルイス、ルドルフと並ぶ上座、その反対側、ルイスの向かって左隣にアリシア、ルドルフの右隣にクリストとその隣にマリサ。
そんな順で席に案内されていた。
(もう、これじゃぁルイスとマリサの恋を応援できないわ)
ルイスが今現在マリサをどうこう想っているそぶりは見えなかった。それでもマリサはルイスの「真実の恋」のお相手のはず。
クリストにしてみても、マリサは運命の人に違いない。前の人生でも、前世の小説の中でも、クリストが好きになるのはやっぱりマリサだった。それでも——
(もし、この世界に本当に運命の強制力があるのなら……マリサがルイスを好きになるのがこの世界の強制力なのなら、クリストのためにもマリサを諦めてもらった方が良いもの)
そう、そのほうがいいに決まっている。そう心に言い聞かせ——
81
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【完結】黒の花嫁/白の花嫁
あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。
だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。
しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。
それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。
そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。
秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。
絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。
「余りもの同士、仲良くやろうや」
彼もまた、龍神――黒龍だった。
★ザマァは軽めです!
★後半にバトル描写が若干あります!
★他サイト様にも投稿しています!
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる