あなたの恋、応援します!! 〜気がついたら悪役令嬢だったので、破滅回避のために全力で王太子の真実の恋を応援することにしました!!【嘘】

友坂 悠

文字の大きさ
34 / 46

【口撃】

しおりを挟む
 彼女らが「わたくし」マリサ・ブランドーのことを悪く言っているということは、間違いがなかった。
「マリサ」と名前こそ出してはいないけれど、ブランドー家やアリシア姉様のお名前を出し、妹と言ったのだ。これはもう取り繕うつもりも何もない、口撃、だ。

「あらら。黙り込んでしまいましたわ」
「お可哀想に、貴族としての誇りもお持ちでないのかしら」
「わたくし、聞きましたわ。あの方幼い頃は平民街で育ったのですって」
「どうりで。あの方からは貴族らしい素養も感じられませんもの」

 きっと、この場にルイス殿下もルドルフ様も、クリスト様もいないからだろう。
 言いたい放題に言われてしまっている、もうほんとどうしよう。
 でも、ここで怒って反論しても、彼女らの思う壺だ。

 わたくし、は、すくっとその場で立ち上がると、極力冷静に彼女らに向かって微笑んだ。

「あら、カトリーナ様。随分と楽しそうにお話しされていらっしゃるのね。わたくしもご一緒させてくださらない?」

 カトリーナとその取り巻きたちがギョッとした顔でこちらを見ている。

「マリサ、様。残念ですが、あなたとは関係のないお話しですの」

 とぼけるカトリーナ。いいえ、逃すものですか。

「あら、先ほど『ブランドー』と聞こえてきた気がしましたのに。わたくしの家がどうかしましたか?」

「いえ、ブランドー公爵家は流石に筆頭公爵家だけのことはありますわ、と、話題に出しただけだと思いますわ」

「そうですか。それならばいいのですけど、万が一にもブランドー家を貶めるような言葉を見逃してしまったとしたら、わたくしアリシア姉様に合わせる顔がございませんもの」

「そんなことは……」

「ええ。あなた方は立派な貴族令嬢ですものね。他家を貶めるようなご発言をするはずがございませんでしたわ」

「それは、もちろんですわ」

「そうですね。万一にもそんなご発言をなされていたとしたら、それこそ貴族としての品位を疑われてしまいますもの」

 わたくしは、より一層の笑みを作って彼女らに微笑みかける。あくまで冷静に。しかし彼女らには逃げ道を与えないように。

「あら、お顔がこわばっておりますわ。カトリーナ様のお美しさは以前から伺っておりましたけれど、もう少し微笑んでくださった方がその美しさがいっそう際立ちますわね」

「あ、ありがとうございます……」

「ご安心ください。わたくしの耳には当家を乏しめるようなお声は届いてはおりません」

「それは、もちろん、そんな失礼なこと申し上げるわけがありませんわ」

「そうですわね、ですが、念のため——」

 周囲を見渡すとこわばったお顔のカトリーナと、ソワソワしている取り巻きたち、そしてこれらのやり取りを遠巻きに眺めている貴族の子女らの顔が見える。
 クリスト様もちょうど戻ってきたのか、何事かとテーブルでの出来事をご覧になっている様子。

「万が一にも誤解を招くようなご発言があったのだとしたら、お姉様にも、父や母にも報告しなくてはなりません」

 カトリーナの瞳がギョッと見開き、周囲の令嬢や令息の顔をキッと見渡す。
 何か言ったら承知しないわよとでも言いたげなそのお顔を見ていたら、笑えてきた。

「クスッ。そんなに心配しなくても大丈夫でしてよ。あなたは誇り高きアイゼンベルク侯爵家のご令嬢なのですもの。そのように誤解を招くようなことはなさっていなかった、のでしょう?」

「ええ、もちろん、ですわ」

「では、このお話はこれで終わりにしましょう。クリスト様も戻って参りましたし、楽しい会に水を刺してはいけませんわ」

 わたくしは、クリスト様にカーテシーをしてお席に戻っていただくよう促した。

 そう。まだこのパーティは始まったばかり。
 このような些細なことでみなさまの楽しみを奪うわけにもいきませんしね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...